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蛍が好きだ。

小学生の頃、
毎年6月は近くの川で蛍を観察した。

夏至が近いとはいえ、
夜になると等しく帷は下りてくる。
道中は真っ暗だ。

「怖いよ、怖いよ」

幼い頃から暗闇は苦手で、
必死でお父さんの服を掴んだ。

あまりに怖くて目を開ける勇気は
かけらも残っちゃいなかった。

牛歩戦法を使いこなして
夜の帳が下りきった川に挑んだのだ。

「目を開けてごらん」

お父さんの優しい声で
ゆっくりと目を開けると

目の前には、唯一無二のヒカリが
空を自由に駆け回っていた。

授業中、ふとグランドを見た時の
体育で駆け回る友達を連想させる。

さっきまでの不安な気持ちはどこかに消えて
心もパッと照らされた。

なぜかそのヒカリを暖かいと思った。

蛍は土の中で成虫になる準備をする。
そんな話を学校で聞いた。

土の中はきっと夜と同じくらい暗いはずだ。

そんなところに1人でジッとしてたのだから
地上に出て、友達に会えて
はしゃいでいるのかもしれない。

そう考えたらますます蛍を自分と重ねた。
だって僕も友達と会えたら嬉しいから。

彼らは一人一人ヒカリの大きさや
チカチカ光るテンポが違うらしい。

そんな唯一無二のヒカリを持つ彼らが
羨ましいと思った。

でも長くは生きられないことも知っている。
短い命を懸命に燃やす姿に儚さを覚えた。

「来年もまた来るね」

まだ観察中なのに
出てきた言葉はもう次のことだった。

同じ時を過ごし
友達になれた気がした。

年に一度姿を見せる友達、
次会えた時はどんなヒカリを見せてくれるかな。

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