【曲目解説】プレ・インヴェンションから 27.Anglaise
1.タイトル
L.モーツァルト作曲。
anglaise(アングレーズ)とは、フランス語で「イギリス風の」という意味です。
インターネットで「アングレーズ」と検索すると、アングレーズソースなどと言った料理に関するトピックが目に入ってきます。ここで言うアングレーズソースとは、イギリス風のソースと言うことですね。カスタードクリームに似た甘いソースだそうです。
では、この曲のタイトルについて改めて考察してみましょう。アングレーズにかかる言葉は書かれていませんが、「イギリス風の(舞曲)」と解釈するのが無難でしょう。
と言うのも、J.S.バッハが作曲した『フランス組曲第3番』にも、アングレーズというタイトルで2拍子系の音楽が挿入されているからです。そもそも、フランス組曲はアルマンドやクーラント、サラバンド、ジーグと言った舞曲が題材となっています。
ただ、残念なことにYouTubeなどで「アングレーズ 舞曲」と検索しても、それに該当する動画はなかなか出てきません。どんな踊りなのか実際に見て検証することは叶いませんが、いつか機会があれば見てみたいですね。
2.構成
ニ短調、2分の2拍子、速度記号はAllegrettoです。全体はABAの三部形式となっています。
3.演奏上の注意
まず、ニ短調の性格をきちんとイメージすることが大切です。J.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集では、1巻2巻共に第6番にあたる曲がニ短調の作品です。ここからは個人の感想になりますが、この二曲を聴いて感じることは「諦念」「激烈」と言った、抗えない何かやそれに対する諦めの気持ちです。調性感に対する明確な答えはありませんが、かの有名なW.A.モーツァルトは「死」を予感させる調として、ニ短調を捉えていたと言われています。
この「アングレーズ」は、比較的淡々と曲が進んでいく印象です。強弱はピアノからフォルテまであるため幅広い音楽になっていますが、冷静さを欠かないよう、あくまで淡々と。その中で豊かな表情を予感させる演奏を目指しましょう。例えば、フォルテは表面的な力強さより、スマートで芯の通った音を目指すと良いです。
そして、2拍子系なので「1と2と」の「と」にあたる部分が重くならないよう気をつけましょう。また、4拍子系の音楽との違いを表現するため、全体的に軽く、テンポはやや前向きに設定すると良いです。
前半(A部)から一転、中盤(B部)ではニ短調の平行調であるへ長調に転調しています。たった8小節ですが、一瞬の希望や明るさ、空間の広がりをイメージしてのびのびと演奏しましょう。
後半(A部)は前半と全く同じ音楽ですが、表情も同じまま演奏するのではなく、再びやってくる悲しみや、曲が終わる感じを存分に味わい、演奏に活かしましょう。ラストは、rit.まではいきませんが、一音一音噛み締めるよう丁寧に終わりましょう。
◆参考文献
・全音楽譜出版社「プレ・インヴェンション」
・全音楽譜出版社「プレ・インヴェンション」指導の手引き
・ヤマハミュージックエンターテインメントホールディングス「吉松隆の調性で読み解くクラシック」
・ピティナ・ピアノ曲辞典
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