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学生時代の忘れられないランチの思い出②

短期アルバイト先の歳の離れた男性から、ランチに誘われた。初めて父親と同年代の男性との食事は、緊張しっぱなしだった。

都会で見つけたワンコインランチ

男性に連れて行かれたのは、アルバイト先の近くにある海鮮居酒屋だった。昼はランチを提供しているお店で、店内はサラリーマンで溢れかえっていた。

「東京にもこんな場所があるんだ。」とその時の私は素直にそう思った。東京の端の大学に通い、地元とさほど変わらないような住宅街で一人暮らしをしていた私は、都心でランチをした経験が少なかった。

大学生のお金では、満足なランチができないし、知っているお店も限られていた。大人のマナーを求められる飲食店に連れて行かれると思っていた私は、なぜか安心したのだ。

しかもこのお店は、ワンコインで海鮮丼が食べられた。当時は海鮮系が苦手であまり食べる機会がなく、とにかく高い印象があった。それもあって、ワンコインで海鮮丼を食べれることに感動した記憶がある。

しかし海鮮が苦手なのに、なぜ海鮮居酒屋に連れて行かれたのか。過程は覚えていないものの、おそらく男性の方から提案したのだろう。目上の人の誘いには基本断らない性格で、且つ初めて食事に行くような人の提案を却下することなどできなかったからか。

緊張がほぐれた私

その男性とは何の話をしただろう。

実はインパクトに残る話をした記憶がない。おそらく自分が地方から出てきて一人暮らしをしているといったような、属性を話したりごく一般的な世間話をしたように覚えている。

ただ相手の職業は、なんとなく触れてはいけないと思っていたので聞かなかった。男性も自分のことはあまり語らなかった。

学生の友人とのランチは、気を遣った記憶がない。それは同世代だからだ。関わりが薄い子でも同じ大学であれば、何かしら話す話題がある。

しかし属性の違う人であればどうだろう。言葉遣いは合っているだろうか。食べ方は汚くないだろうか。いろんなことを気にしてしまい相手に心を開くことができないのが、その時の私の弱点だった。

だがその男性とは、気を遣いながらもある程度話をすることができた。気分が悪いことを聞いてくるわけでもなく、話しやすい空気にさせるのに長けているのだろう。食事に行くまで警戒心を持っていた自分が恥ずかしくなった。

「こんな都心にもワンコインランチができるお店があるんですね。」

「そうだよ。この辺りはワンコインランチの激戦地だからね。サラリーマンが立ち寄れるいっぱいお店があるよ。」

強いて言えば、これが唯一覚えている会話。一年後、就職した私がちょうどこの地域に営業に行って、ワンコインランチを楽しむようになるとは思ってもいない。

何気ないランチも大切な時間

その後も1ヶ月ほど短期アルバイトは続いたが、男性とはほとんど同じシフトになることはなく、特に会話を交わすことはなかった。

短期アルバイトなので、現在働いていた人たちとの交流はないが、それでも貴重な経験だったと思う。私を成長させてくれたと言ったら上から目線だが、某百貨店には感謝の気持ちでいっぱいだ。

就職してからは、上の人たちとランチをする機会が多く、敬語を使わない同世代の友人との食事の方が珍しくなってしまっている。特に現在はコロナの関係で、近くにいる友人ともろくに会えていない状態で、早く何も気にせずに会えることを願うばかりだ。

人生の中で、食事は欠かせない時間であるが、何気ないランチも大切だ。相手を不快にさせず、自然な会話を楽しめる人に私はなりたい。

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