インド人夫との馴れ初め②

メキシカンレストランで働き始めて早5ヶ月。語学学校を卒業し、新しい友達ができたり、ハウスメイトと仲良くなったり、何もかもが新鮮で楽しい時間を過ごしていた。

ただ、メキシカンレストランでの皿洗いの仕事は、慣れてはきたものの、相変わらず体力的にはとても辛いものだった。それでも辞めずに続けていたのは、同僚みんなが良い人たちだったことと、こんな中途半端に辞めてたまるかという謎のプライドのような根性のようなものだった。当時かなり太った怖いオーストラリアの女性マネージャーがいて、私の皿洗いの仕事が終わらないと店を閉められないので、暫し私にキツく当たってくることもあった。他人からFuckと言われたのは、その時が初めてだった。なんて嫌な奴がいるんだ、こんな人間にはなりたくないと心底思い、それもまた働く原動力になっていたのかもしれない。

そして夫と出会う6月になった。

私が働いてるレストランはともかく大きな会社で、オーナーは他にも何店かレストランを経営していた。そんなある日、私の働くメキシカンレストランに、他の系列レストランから、インド人の男性が皿洗いとしてこちらにやってくることになったと聞いた。

実は私はこの時、インド人に対して良いイメージを持っていなかった。私がオーストラリアに来てから出会ったインド人は、メキシカンレストランで一緒に働いた二人のみだが、一人はともかく無愛想な怖いシェフで、もう一人の皿洗いとして一緒に働いた男の子は、人の話を聞かずとても自分勝手なやつだった。自分勝手なインド人は、働いて間もなくクビにされていた。その二人の印象があまりにも悪かったので、インド人はとんでもないなと思っていた。

そんな時にまたインド人が来るというので、冗談だろ?勘弁してくれと言う今にも溢れそうな不満を抑えるのがやっとだった。

初めて彼と働くシフトの日が来たときは、もう違う意味でドキドキしていた。二人一組でやる皿洗いの仕事なので、お互いに協力することが必要不可欠になってくる。変なインド人とは一緒に働きたくないのが本音だった。

そして彼が仕事にやってきた。

……?!

私は彼の顔を凝視してしまったかもしれない。まるで日本人のような顔をしていた。インド人にはどこからどう見ても見えない。

私は軽く自己紹介をした後に、
「本当にインド人なの?」と聞いてしまった。

彼は笑いながら、
「みんなに言われるんだ。本当にインド人だよ。」と答えてくれた。

彼はインドの北東出身で、中国やネパールの国境に近いので、薄い顔、尚かつ私達と同じような肌の色をしているインド人だった。彼曰く、その地域に住む人たちはみんな彼みたいなインド人らしい。彼と一緒になって三年になるが、未だに彼がインド人だと言っても信じない人もいる。あるときはウーバーのおじさんに、出身を聞かれて答えたのに嘘つき呼ばわりまでされていた。でも、人が信じないのも納得がいく。

インド人っぽくない見た目に、ものすごいニコニコしているので、すぐに私の不安は溶けて、初めて一緒に働いた日はものすごく楽しかった。大変な皿洗いの仕事も全部やってくれて、私は皿をふいて元の場所に戻しているだけだった。何度代わるよと言っても、満面の笑みで大丈夫だからと言って拒絶される。

皿洗いは中々大変な仕事で決して楽しいものではないのに、彼はニコニコしながら、本当に楽しそうに働いていて、それにも私はただただびっくりした。おまけに歌を歌ったり、私にもずっと話しかけてくる。若干距離があるので、声も全部聞こえないし、私のリスニング力もないので、さっぱり何を言っているのかわからなかったが、彼は気にせず楽しそうに話し続けていた。

彼の第一印象は最高だったと言えるかもしれない。でも、恋愛対象では全くなかった。ものすごい良い人なのは光の速さで伝わるが、男性的な魅力は特に何も感じなかった。そもそも私は、当時遠距離恋愛をしていた日本人の彼氏のことが好きだったし、出会う男性に対してそういう目で見ていなかったのもある。それにしても、彼からはあまり男っぽさというか男性というものを感じなかった。

何気なく話していたときに、彼が元カノのことを話題にした。失礼な話だが、元カノがいたのかと思ったほどだ。なんとなくそういう雰囲気が想像できない人だった。ブサイクだとかそういうわけではないけど、この人とキスとなるとちょっと想像できないなという感じだ。

それから一ヶ月くらい週に何度か一緒に働いて、彼の人としての素晴らしさやユーモアを知っていくことになる。知れば知るほど素晴らしい人で、一緒に働く同僚としては大好きだった。彼とシフトの日は、大変な仕事は全部やってくれるし、とにかくたくさん話してくれるし、仕事に行くのが憂鬱になる気持ちが消えていた。

当時の私は本当に英語ができなくて、簡単な英語を聞き取ることがやっとなレベルだ。もちろんまともに人と話すこともできない。でも何故か彼には話せた。話せたと言っても、めちゃくちゃな英語で話していた。でも彼は何故か私のめちゃくちゃな英語を理解してくれて、私もまたそれを恥ずかしいと思うこともなく話していた。たぶん、今思えば本当に彼に対して何とも思わないから話せていたんだろう。

ある時彼が、私におすすめの映画があると言って、そのデータをUSBに入れて持ってきてくれた。わざわざそこまでして私に見てほしいのかと思い、家に帰ってパソコンで再生しようとしたがデータが開けない。次の週彼に会って見れないことを伝えると、今度はまた違うUSBで再度データを持ってきてくれた。そこまでして持ってきてくれるなんてと、ちょっと面白い気持ちもありつつ、パソコンで再生しようとしたらまた見れない。彼が私に映画を見てほしいと言い出してから、かれこれ二週間は経過していたように思う。とうとうUSBでのデータ取得を諦め、インスタグラムのアカウントからデータだったかURLだったか(どちらかは思い出せない)を送ってもらうことになった。そうして、私たちは最初にSNS上で繋がった。

それからもたまに彼は私に映画だったり、YouTubeにあるTEDの演説動画だったりを送ってきた。文字はなくURLだけを送ってくるので、私もたいした興味もなく、基本的には返信すらしていなかった。でも彼も、私からの返信なんて気にしてる素振りもなく、仕事で会えば普通に楽しく話して一緒に仕事をしていた。

そうして彼と一緒に働き始めて1ヶ月半くらい経った頃、初めて二人で遊ぶことになった。

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ここまで読んで頂きありがとうございます。次回は初めての二人でのデート?編です。馴れ初め編はどのくらいになるのか私にもわかりませんが、どうか気長にお付き合い下さい。

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