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オレンジ

学校から帰ると、紺色のセーラー服がオレンジ色に染まるのを見ながら床に転がる

陽の暖かさに心地よくなり目を閉じると、
一階のキッチンからトントントンと包丁の音がする

ほんのりと香るごはんのにおい

家だ!ここに生活があるぞ!
と、なんだか嬉しくなり背伸びをする

陽に照らされた手を見つめる

少し透けた手のひらの中に赤い血が通っている


「生きとるな」


とぼんやり呟く


熱でじんわりと身体は溶け、いつの間にか感覚がなくなる


宿題のことも
好きな人のことも
明日のことも

全部溶けてなくなる

もしこのまま本当に消えてしまえたらと考える

オレンジ色になったセーラー服だけを残して、
自分はピンク色の空を飛ぶ

まず一番に好きな人の家を見に行こう
学校までの道もなんとなく見ようかな
せっかくだから海も見たい
外国まで行きたいけど暗くなる前に帰らないと


「ご飯できたよー」


親の声で目を覚ますと、
どこにもオレンジの面影は無くセーラー服も紺色に戻っていた

魔法がとけたような気持ちだ

せっかく気持ちよく寝ていたのに!
と腹を立てながらセーラー服を脱ぎ、
一階に降りると晩御飯の答え合わせが始まる


いただきますと手を合わせたときに見た手は、

夕日のオレンジがまだ指先に残っているみたいにほんのりと赤く染まっていた

あの瞬間は本当にあったのだと安堵した


本来の色に戻った部屋を見て


宿題のこと
好きな人のこと
明日のことを考える


「全部めんどくせー」とつぶやきながらカーテンをしめた





実家のオレンジに染った自室のことを思い出したのでエッセイにしました🍊

あれ以降どんなに西日の射す部屋に住んでも、
当時のようなオレンジ色に染ることは無く

思い出す度に鮮やかさの増すあの部屋が、よりいっそう輝いて仕方ないです

トホホ

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