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木曜日連載 書き下ろしチョイ怖第二話『Re:Co゠miu』 第三回

 初めましての方、ようこそいらっしゃいました。
 二度目以上お運びの方、本日もありがとうございます。
 こんにちは、あらたまです。

 木曜日は怖い話の連載。
 第二話は【御愛読感謝企画】です!!
 テーマは『オバケよりヒトが怖い』ですが、ところどころに「クスッ」と口元がほころんでしまうかもしれない仕掛けを施して、皆々様にお届けします。
 連載一回分は約2000~3000文字です。
 企画の性質上、第二話は電子書籍・紙書籍への収録は予定しておりません。
 専用マガジンは無期限無料で開放いたしますので、お好きな時にお好きなだけ楽しまれてくださいね。
 ※たまに勘違いされる方が居られるとのことで、一応書いておきますと『無期限無料の創作小説ですが、無断転載・無断使用・まとめサイト等への引用は厳禁』です。ご了承くださいませ。


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【第三回】

 「え、なにこれ。おうちで、キャンプ?」

 RICOは紹介したTシャツに、自分で古着をリメイクしたというショートパンツを合わせ、自宅の広々としたベランダで缶ビールを楽しむ様子をアップしていた。
 ビールは国産ホップにこだわった地方のマイクロブルワリーから取り寄せたもの。背景に小さく映るキャンプ用のグリルには野菜と表面がこんがり焼けた塊肉が乗っている。

 『たまにはワイルドに楽しみたい時もあるよね!友達と一緒にワイワイできなくても、ココまでやれちゃうよ。与えられたステージで、前向きに。今という状況もかけがえない瞬間だもの、できるだけ楽しまなくちゃね!』

 「素敵。RICOさん、すごい。やっぱりこうでなくっちゃ、私もクリエイティブにどんどん輝かなくっちゃ」
 師匠の教えの通りに。
 昔の自分のような、生き辛さを抱えた迷子たちを導かなくちゃ。
 みゅうの使命感は更に熱く燃えた。

 お気に入りのカーテンを乱雑な手つきで捲り、掃き出し窓をガラリと開けて、みゅうは盛大に舌打ちをした。
 「狭っ……内見でベランダはノーマークだったのよね。油断した」
 文句を垂れつつも台所からカセットコンロと『珍味』のシールが付いたビニール袋を持ってくる。IHでは火力が無いからと、母親がわざわざ田舎から送りつけてきたものだが、意外なところで役に立つことになるとは……こういう偶然が必然に変わっていく現象が、ますます増えてきている。正しい道を歩んでいる証拠よ、と思わず昏い笑みが漏れた。
 しかし、まともに料理などしたことが無いみゅうである。今すぐ塊肉に手を出そうという愚を犯すことこそしないが、ビニール袋の中から取り出したスルメの干物をどのように食べるのかすら見当もつかない。
 父親の酒のつまみを横から少し貰った、その記憶を頼りに、表面を焼けばいいのではないか?と思いつき、コンロの青い炎の上に直接、丸のままのスルメを置いた。
 「え?え、え?ちょ、ちょっと待って待って待って!」

 ――極限まで乾燥させたスルメイカは、よく燃えた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 「……この子、何者なんだろう。MYKO(まいこ)さんの関係者ってことはぁ……あるわけないよね」
 ピンクベージュの髪を掻きむしりながら――理子(りこ)は、ぞんざいに吐き捨てた。
 理子のSNSには3000人強のフォロワーが付いていた。
 熱心な信者のようなフォロワーも居れば、人間なのかAIなのかの区別もつかないアカウントそのものが怪しいものまで、その内訳は多様だった。
 しかし。
 最近になってフォローしてきた一人のフォロワーは、怪しいを通り越して少々不気味……というか、ある種の狂気を感じさせる振る舞いをして、フォロワーの間でも黒い噂が立っていた。
 理子のpostには『ほぼ秒』と言っていいほどの速さでイイネをしてくる。一番じゃなきゃ嫌だという気持ちはわからなくもないが、まあまあの長さのキャプションが付いている時でもその速度は変わらない。
 「ほんとに、ちゃんと見てんのかな?それともそういうスカウトマン的な?……なんかさ、ウザぃ」


 ※ ※ ※ ※ ※


 今日も今日とて外出自粛などどこ吹く風――みゅうは両手いっぱいの紙袋をどさりと床に放り出すと、着替えるのももどかしくソファーベッドに寝転んだ。
 不織布のマスクを顎に引き下げ軽く一呼吸する。締め切っていた部屋は微かな湿り気を帯びた段ボールの匂いが立ち込めていて、未だ自分の城と呼ぶにはよそよそしさを孕んでいた。
 実家では、そろそろ梅雨の心配をする頃だろう。青梅が出回り始めるとうんざりする。
 御祖母ちゃんは毎年、みゅうに梅干し作りを手伝わせた。決まり文句はこうだ。
 「漬物を上手に漬けられる女の子は、イイ嫁さんになれるんだよ。味噌も上手になったら、神様が一人前だって認めてくれた証拠だよ」
 だが、今年はもうそのうんざり行事とはオサラバだ。
 鼻腔を直接擽る空気の感触は、多少埃っぽくとも、部屋の外では味わえない軽やかさだ。
 まったく、都会のせせこましさと人の多さときたら、深呼吸も自由にさせてくれないのか。第一何なのだ、妙な流行病とは――同じ空の下にいるはずの『RICO』の笑顔を疑ってはいないが、彼女と自分の間にある決定的な【差】について、みゅうは事ここに及んで真剣に考え始めていた。難しい、哲学的な問いに立ち向かうことも、みゅうにとっては大きな学びである。
 SNSのアプリを立ち上げつつも、彼女は人生に対して大真面目であるという姿勢を崩さないのだ。

 「え……RICOさん、彼氏と別れたんだ」

 スマホの画面から漏れ出る薄らぼんやりした青灰色の光の中、みゅうはゆっくりとまばたきをした。
 小鼻が少し膨らんで、口角がだらしなく上がっていく。
 「災難、だったよね。東京は変な男、多いから。わたしも気を付けないとね」

 その時の自分の貌に、彼女は全く関心を抱いていなかった。


【第四回】に続く


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 それでは。
 最後までお読みいただいて、感謝感激アメアラレ♪
 次回をお楽しみにね、バイバイ~(ΦωΦ)ノシシ



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