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木曜日連載 書き下ろしチョイ怖第二話『Re:Co゠miu』 第一回

 初めましての方、ようこそいらっしゃいました。
 二度目以上お運びの方、本日もありがとうございます。
 こんにちは、あらたまです。

 木曜日は怖い話の連載。
 第二話は【御愛読感謝企画】です!!
 テーマは『オバケよりヒトが怖い』ですが、ところどころに「クスッ」と口元がほころんでしまうかもしれない仕掛けを施して、皆々様にお届けします。
 連載一回分は約2000~3000文字です。
 企画の性質上、第二話は電子書籍・紙書籍への収録は予定しておりません。
 専用マガジンは無期限無料で開放いたしますので、お好きな時にお好きなだけ楽しまれてくださいね。
 ※たまに勘違いされる方が居られるとのことで、一応書いておきますと『無期限無料の創作小説ですが、無断転載・無断使用・まとめサイト等への引用は厳禁』です。ご了承くださいませ。


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【第一回】

 照明すらつけるのももどかしく、みゅうは荷物を床に放り出し、スマホを操作しながらソファーベッドにごろりと横になった。

 未だカーテンすら吊るしていない殺風景な部屋の窓の下、人通りがほとんどない生活道路では、街灯が一本、無感情にして主張の強いLEDの光を放っている。
 愛想笑いに疲れた顔を、あの灯りは容赦のない【白さ】で照らす。
 彼女も彼女で遠慮など無く、ほとんど脊髄反射のように舌打ちをした。

 「無駄に明るいんですけど。バカみたい」

 両親に半ば泣きつくようにして地元の大学には進学せず、合格ラインギリギリで滑り込むことが出来そうな東京の大学を必死で探した。
 元々努力することが大嫌いだ。
 今回も楽勝街道を選んだつもりだったが、勉強を含め、これまでの人生の中で一番の努力をした。
 そうまでして。
 みゅうは故郷から……子供の頃からどうにも水が合わず、反吐が出そうな毎日続きのあの場所から、飛び出したかった。

 ――三代子(みよこ)は夢見る夢子だからねえ。

 みゅうのことを本名の『三代子』で呼び捨てにすることを止めず、なにかと突っかかってきた同級生の顔が、ふと瞼の裏に浮かんだ。
 みゅうの【真なる使命】の事も知らず、クスクスと笑い続ける凡人ども。

 「見下すばっかのヤツを、今度はわたしが見下すターンなんだから」

 だって、わたしは――
 みゅうは「三代子」なんていうお祖母ちゃんがお寺だか神社だかで付けてもらった意味不明な名前が大嫌いだった。親ならいざ知らず、赤の他人から押し付けられたいい加減な名前に、人生を委ねるなんて有り得ないことだ。
 「そうよ!アナタは見渡す限り山と田畑しかない田舎で燻っているような『存在』ではないのだもの……だから私がちゃんと名付け直してあげるね。宙(そら)の存在がアナタの本当の名前を教えてくれるわ」
 そう言って宙(そら)に祈り、みゅうという本当の名前を付けなおしてくれた師匠――唯一の彼女の理解者である放送部の先輩は、東京への引っ越しの時には直接挨拶できなかったけれど、きっと今も宙を介してみゅうの行く末を見守ってくれているに違いない。

 掃き出し窓に背を向けるように、寝返りを打った。
 自分の影で街灯からスマホの画面を守るようにして、アプリを一つ立ち上げ、慣れた手つきでスクロールしていく。

 「やっぱり……素敵な人。わたしもこうならなくちゃいけないのよ」

 スマホの画面の中には、美味しそうなスイーツや彩り豊かなワンプレート、力みのないシンプルなリネンでさり気なく飾られた、カントリースタイルの『提案』がずらりと並ぶ。
 みゅうが知る素敵でも何でもない田舎暮らしと、東京のおしゃれな女の子たちが発信するこなれたナチュラルライフの間には、圧倒的な隔たりがあった。価値観?センス?そんないまどきのキーワードでは説明できない。
 彼岸と此岸
 お互いにその存在を知ることもないだろう、故にお互いが存在することすら知らないのかもしれない。
 そのくらいのレベルでの、圧倒ぶりを見せつける。
 越えられない隔たり……しかし、この隔たりを越えていかねばならない。
 三代子からみゅうへと【真の目覚め】を果たした自分を世に知らしめることが、みゅうに与えられた真の使命の、大きな一歩となるのだ。

 「わたしは知っちゃったから。ココから飛び出て、大河を越えて、洗練されたオンナのこになるから!それでね、世界中の女の子の夢を叶えてあげる……昔のわたしみたいに、生まれ間違えちゃった子たちを救う」

 みゅうはよく、そのように高校の教室で友人たちに語って聞かせたものだ。ある子は「また始まった」と呆れ、ある子は鼻で嗤っていたけど。
 冷ややかな眼差しはまったく気にならなかった。と言えば噓になるかもしれない。けれども、三代子の時のように簡単には挫けなかった。
 何故なら、自分が夢を叶えることは当然のことだったから。師匠がそう教えてくれたから。
 卒業式の次の日には美容院に行き、父親譲りの太くて硬くて真っ黒な髪をピンクベージュに染めた。母親に車を出してもらって隣県まで出向き、旬のワンピースを厳選して買った。

 「わたし絶対に、RICOさんにみたいになる。そのために、東京まで来たんだから」

 みゅうがイイねを押した投稿には、キラキラしたエフェクトパーツの真ん中で微笑む若い女性が写っていた。
 今のみゅうと同じ髪色。もちろん、ヘアアレンジも一緒。
 さり気なくロゴを見えるように持っているトートバッグは彼女の最近のお気に入りだ。

 「今日、同じの買ってきたよ!RICOさん……と。送信っ」

 そうかぁこんなご時世、おうちで楽しく過ごす方法って工夫次第なんだ。さすがだね、RICOさん……みゅうはニタリと、口の端を歪ませる。

 憧れの、みゅうが当面の目標と呼ぶSNSの星――RICO(リコ)の投稿に次々と現れるケーキ、食パン、オーガニック食材にファッションの数々。今日のアイテム紹介では全ての商品に購入サイトへのリンクが貼られている。
 『最近は友達とお気に入りのカフェでランチするのも気まずい感じだよねえ。なので!RICOはお取り寄せを大活用~♥』
 取り寄せられた食材がオシャレなテーブルウェアに盛りつけられた様子は、まるで雑誌の特集ページのようだ。
 『自分のご機嫌は自分でとらないとね。私がハッピーだと、みんなもハッピーになる。ハッピーのおすそわけだよ!』

 すごい――

 みゅうはうっとりと、スマホを胸に押し抱いた。
 (やっとたどり着いた、この部屋。今はこんなに殺風景だけれど、いつかはリコさんの住んでる部屋みたいになる。だって、わたしはもう『こちら側』にやってきたんだもの……)


【第二回】に続く


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 それでは。
 最後までお読みいただいて、感謝感激アメアラレ♪
 次回をお楽しみにね、バイバイ~(ΦωΦ)ノシシ


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