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木曜日連載 書き下ろしチョイ怖第二話『Re:Co゠miu』 第九回

 初めましての方、ようこそいらっしゃいました。
 二度目以上お運びの方、本日もありがとうございます。
 こんにちは、あらたまです。

 木曜日は怖い話の連載。
 第二話は【御愛読感謝企画】です!!
 テーマは『オバケよりヒトが怖い』ですが、ところどころに「クスッ」と口元がほころんでしまうかもしれない仕掛けを施して、皆々様にお届けします。
 連載一回分は約2000~3000文字です。
 企画の性質上、第二話は電子書籍・紙書籍への収録は予定しておりません。
 専用マガジンは無期限無料で開放いたしますので、お好きな時にお好きなだけ楽しまれてくださいね。
 ※たまに勘違いされる方が居られるとのことで、一応書いておきますと『無期限無料の創作小説ですが、無断転載・無断使用・まとめサイト等への引用は厳禁』です。ご了承くださいませ。


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【第九回】


 不動産屋がみゅうの部屋の扉を何度かノックした。
 返事はない。
 ドアノブに手を掛けたが、鍵はかかっているようだった。

 「嫌ですね、一年ちょっとで同じ部屋か」
 不動産屋は独り言にしては少々大きな声で、もごもごと零した。

 ガチャリ、と。
 マスターキーで、ドアを開ける。

 もわ……と、凝った空気がドアをすり抜け、不動産屋とオーナーと隣室の彼を置き去りにしていく。残されたのは得体のしれない不安と、生命の営みとは全くかけ離れた臭いと――
 隣室の彼は両手で鼻と口を覆い、なんだよコレと怖気づくことさえも忘れていた。
 「また、ですか」
 不動産屋が鞄からスリッパを取り出し、咳き込みながら履き替えた。
 その後ろから、サンダルのまま室内に踏み込んだオーナーは、部屋の隅々を睨みつけるようにして事の重大さを確かめていった。
 「違うね。同じと言えば同じだけど……前よりも一段、質が悪くなってる」
 組み立て家具やベッドなど大きな家具を除いて、荷物はほとんどない。
 けれど……

 「また動物飼ってたようだね。犬や猫じゃない、もっと大きい奴だ」
 「そんなバカな!」
 不動産屋がみゅうと連絡を付けるため電話を掛ける。

 『御客様の電話は電波の届きにくいところにあるか、電源が切られているため、掛かりません……』

 「だめですね、どうなってんだ」
 「完全に【カモられ】たね。アタシも迂闊だったよ」
 オーナーがずかずかと歩いた先、リビングと和室を仕切る壁の一角に彼女は前掛けのポケットから取り出したカッターナイフを突き立てた。
 妙に慣れた手つきで壁紙を引き裂き、裂け目に手を入れて雑に壁紙を剥がす。
 「こんな手の込んだこと、アタシの足元でやるなんざ……」
 「なんすか、コレ」
 職務を完全に忘れた不動産屋と、こめかみに青筋を浮かび上がらせたオーナーの目の前には、見たこともない絵とも漢字とも付かぬものがびっしりと描かれた札が貼られていた。

 何枚も、何枚も、折り重なることも厭わず。
 むしろ隙間ができる事を恐れるかのように。

 恐る恐る、オーナーに倣うように土足でつま先立ちしながら入室した半泣き顔の隣室の彼は、オーナーの肩越しに見たその壁の様子に言い知れぬ嫌悪感と全身の痒みを覚えた。
 何が描かれているとも分からないその中に、一つだけ意味を推測できるモノがあった。
 紡錘形とも取れるし丸型とも取れる図形の中に、縦方向に薄く切り開いたかのような、深淵の闇――執拗に塗りつぶされた【それ】はまるで此方を見つめ返しているかのようにも見えた。
 オーナーも同じモノを見つけ、同じように連想したのだろう。
 「なるほどね。なぁるほど……猫を飼ってたんじゃないかって話のカラクリは、これかい」


 ▲ ▲ ▲ ▲ ▲


 ファストファッション店で一足1999円で買った銀色のフラットパンプスを泥だらけにしながら、みゅうは息も絶え絶えといった様子で山道を歩いていた。
 いくらなんでも、こんな山奥とは思わなかったのだ。手入れはされてないとはいえ、あきらかに人家の庭とわかる写真は文明を感じた。山も小川も、写真映えを意識したらああいう写真になったというだけで、正直大した険しさはないほのぼのとした山だと高をくくっていた。
 DMに書いてあった住所は東京都下だったし。
 23区を抜けた先にみゅうの実家の裏山以上の大自然の驚異が広がっているとは想像だにしなかったし。
 何もかもが、みゅうを嘲笑うかのように、急角度を付けて、彼女の読みのはるか上空を飛んでいく。
 「あー、都会って、ほんとに、田舎者には容赦ないわね。早く優しい世界を、RICOさんと、作らなきゃ」
 こんな『都会の魂胆』がわかっていれば、もっとそれっぽいマシな格好で来たものを。
 アンダーバストに切り替えが入り、ギャザーをたっぷり寄せてゆるくてふわふわな裾を作り出している、お気に入りのオーガニックコットンワンピースが足にやけに纏わりついて腹が立つ。

 もうやめよう、引き返そう、ここから先はきっと、みゅうが思い描くような風景は広がらないから……そうやってみゅうの輝かしい冒険と、煌めく新時代の導き手としての試練を邪魔しようとする両親やクラスメイトの顔や手や言葉がちらついた。

 「わかってるわよ、こっから先は私だって見たこと無いものだらけなの。私はそれを掴みにきたの。あんたたちが見たことも聞いた事もないようなビッグチャンスを掴むのよ。今、そのチャンスが、私に、掴んでもらいに、来てんのよ」

 急斜面をずるずると引きずる、これまた山道に似つかわしくない大きなスーツケースは、実家を出る時も相棒を務めたものだ。
 しかし入っているものは、数か月前とはだいぶ違う。
 母と喧嘩しながら揃えた、新生活を彩る魔法がかかったアイテムは入っていない。
 実家から後日送り付けられた段ボールに入っていた、質より実、ダサくてときめきの欠片も無くて、なのに手にしただけで安心のあまり泣きたくなる服や道具の数々。
 毛玉のついたジャージや防水防寒に優れた服、御祖母ちゃんが編んでくれた御守マフラー、そして【作付け前の御祈祷】に使っていた道具一式……みゅうが一度は不要と決め、捨て置いてきたモノたち。

「家財道具は揃えてあるから、着の身着のままでもいいよ!とは云うものの自給自足やるなら、それなりに装備って必要じゃん?……それにしても、もう少し荷物少ない方が正解だったかな」
 体だけでなく、心も重い。
 果たして、自分は、追いかけてきたのだろうか?
 それとも逃げてきたのかしら?
 逃げきれずに諦めてる……わけではないのだけれど。
 忌み嫌っていた田舎の風習や価値観に、肩を掴まれそうになるたび、反射的に振りほどいてきたけれど。
 結局は【あの場所】に帰ってきてしまう。
 そんな自分は、どちらを向いて歩いているんだろう?

 みゅうの内で赤や黒や白や……本能なのか感情なのか判別し難いものどもが押し合いへし合いしているようだった。
 これを、都会の人は――洗練された人々は、なんて呼ぶんだっけ?葛藤?混沌??なんだっけ?
 なんだっけ。なんだっけなあ、ホラ……


【最終回】に続く


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 それでは。
 最後までお読みいただいて、感謝感激アメアラレ♪
 次回をお楽しみにね、バイバイ~(ΦωΦ)ノシシ


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