定性分析において「お客様の意見は聞いていけない」理由
突然のタイトルに「え、サービスを改善するのにお客様に意見を聞くのは重要なのでは?」と思われた人も多いのではないでしょうか。
私は1年半ほど、主に消費財メーカー向けのプロモーションとマーケティングの支援に関わり、 その業務の一環として定性分析をしていました。
確かにお客様からもらうフィードバックから得られるものは多いですし、そこから企業の取り組み改善、新しい企画に繋がることもあります。前提として、私もお客様の声を聞くのは商品開発、品質改善においてとても重要なことだと考えています。
ですがそのお客様からのフィードバックを活かすことができていますか?
お客様の必要な声を聞き、正しく解釈できていますか?
必要のない声や、誤った解釈をしてしまっては、せっかくの定性分析も台無しになってしまいます。
実は、私も定性分析に関わり始めた頃、どう定性情報に向き合えば良いかわからずにさまよっていました。今回このテーマを選んだのは、そんな私みたいに迷う人を減らしたいと考えたからです。
Pomaloでは日々、定量情報から定性情報まで幅広く分析し、「心が動くコンテンツ」を探求しています。それに加えて私は前職で、飲食料品や化粧品といったジャンルの異なる100種類以上の消費財に対するクチコミを分析してきました。
そんな私がここで伝えたいのは、「意見だけを聞くな、事実を聞け」ということです。
このnoteでは、これから定性分析を含めたマーケティングに関わる人、すでに定性分析をしてはいるもののあまり活用できていない人に向けて「定性情報を正しく解釈して業務に活かすための視点」をお届けします。
少しでも学びになったと感じたらスキを押してもらえると嬉しいです!
それでは本編に入ります。
事実と意見の定義
まず、この記事の中で扱う「事実」、「意見」という言葉の定義を確認しておきます。
事実とは、「誰がどう受け取ろうと変わらない事象、実際に起こった事柄そのもの」と定義します。
例えば、「昨日の10時、東京都渋谷区では雨が降っていた」、「東京ドームでxxが2日間に渡ってイベントを開催し、2日間合わせて10万人を超える観客が来場した」などが事実に当たります。これは誰がどう受け取ろうと変わらない内容です。
意見とは、「事実を受け取りその人が感じたこと、考えたこと」と定義します。ここには仮説や解釈、判断なども含まれます。
例えば、「駅前のラーメン屋は美味しかった」、「今回の試験は難しかった」といった内容が意見に当たります。これは、事実を受け取る人の価値観や感覚、経験によって基準が異なる内容です。
よくロジカルシンキングの研修で「雲・雨・傘」のフレームが使われます。
というように事実と意見を分けることを理解しやすく説明しています。
株式会社ハートクエイクさんの記事も参考になるかと思うのでご覧ください。ロジカルシンキングの視点で事実と意見を分けることの重要性を説明しています。
お客様の意見だけを聞いてはいけない理由
では、なぜお客様の意見だけを聞いてはいけないのでしょうか。
2つあります。
1つ目は、意見(仮説、解釈)を出すのは商品企画やマーケティング担当の仕事で消費者の仕事ではないからです。
消費者はその商品についてどこまで知っているでしょうか。企画から製作、プロモーション、販売などその商品の背景をどこまで理解して意見をしているのでしょうか。多くの消費者は、そこまで理解をせずに「自分にとってどうだったか」、「だからこうしてほしい」という視点で意見を出しています。
その意見だけを素直に受け取ってしまっては、その人にとってフィットするものができるかもしれませんが、市場全体を見た時にフィットするかどうかはまた別の問題になります。
2つ目は、意見だけでは情報が浅く、業務につながる示唆が出せないからです。
同じ意見でも背景事情が異なることで得られる情報が変わってきます。背景事情のない意見は、N数の少ない定量アンケートのようなものです。正確な情報得られず、何も示唆が出せません。
「スポーツが好き」にしても、するのが好きなのか、見るのが好きなのかで得られる情報が大きく異なります。定性分析は深い情報だからこそ価値があり、事実と意見がセットになって初めて解釈ができるようになります。
食品を例に考えてみましょう。
あなたは食品会社の社員で商品開発の部署に所属しています。担当の商品はレトルトカレーです。
担当商品について以下のような意見を消費者からもらいました。
ここから、商品開発・改善の案を検討していきます。消費者の意見を素直に受け入れるとそれぞれ以下のようになります。
まとめると…
本当にそうでしょうか?運良く成果が出るかもしれませんが、可能性が低いことは何となくわかると思います。
このように背景情報が含まれていない意見をいくつか聞いて、その内容が万人に当てはまるとして物事を考えると誤った方向に進んでしまう可能性があります。
正しく分析して正しく解釈するためにも事実を聞くことが重要になってくるのです。
定性分析の視点
どのように定性分析をするのが良いのでしょうか。定性分析を商品開発やマーケティング活動に活かすための視点をお伝えします。
私は下記2つが重要だと考えています。
①定性情報を事実と意見に分ける
定性分析は事実と意見を分けることからスタートします。この際に、事実を明確にするために5W1Hを具体的に拾っていきます。属性情報を取得している場合は、その属性も合わせて事実として考えます。
事実と意見を分けて事実を具体的にすることで、それぞれの結びつきが浮かび上がり、業務に活かすための仮説が立てやすくなります。
②マジックワードの認識をそろえる
マジックワードとは「内容のあることを言ったつもりだけど、実は何も意味していない」言葉です。定性分析においては、曖昧な定義のマジックワードを最低限の共通認識が取れる状態まではっきりさせたいです。
例えば、「辛さがちょうどよく美味しかった」という意見ですが、人によって「辛い」という感覚は異なります。
「甘党でカレー屋ではいつも0辛、甘口を食べる人」と「激辛チャレンジが趣味で、カレー屋ではいつも10辛を食べる人」、この2人の「辛い」という感覚の基準は異なります。
背景事情がわからない曖昧な言葉について認識がずれると、定性情報を正しく解釈できずに仮説も方向性がずれてしまいます。数字を使ったり、基準を設けたりして最低限の共通認識を取れるようにしましょう。
さて、以上2つの視点を踏まえて具体的なコメントを例にとり、分析してみましょう。
事実
30代女性、子どもあり
身支度で忙しい朝に子どもの朝食として出した
以前はB社の商品を食べたが子どもたちは辛くて食べられなかった
A社の商品は「美味しい」と言ってあっという間に食べ終わった
意見
すぐ出せて助かる
自分にとって辛さは物足りなかった
子ども用としてリピートする
解釈
B社と比較するとA社の方が辛さは抑えられているので、B社の商品とはずらしたターゲット層にプロモーションを打つ方が効果的かもしれない
朝の忙しい時間に料理を簡単に済ませる商品は需要があるかもしれない
子どもにとって美味しいというのが他社と比べた時の強みなのかもしれない
今回のコメント内では「美味しい」、「物足りない」といったマジックワードがあります。ですが、事実があるおかげである程度の認識合わせができます。
「美味しい」→「B社の商品は辛くて食べられない子どもにとって」
「物足りない」→「辛党の30代女性にとって」
解釈として出した仮説は一例ですが、この仮説をもとに他の人のコメントを見てさらに分析を深めることもできます。同じような属性の人が同じようにポジティブに評価しているのであれば、一定仮説が正しく、商品の企画や施策の方向性を考えることができます。
このように、意見と事実をセットで聞くことで、業務に活かせる定性分析となるのです。
まとめ
このnoteでは「定性情報を正しく解釈して業務に活かすための視点」をお届けしました。
重要な視点は以下の2点でした。
①事実と意見を分ける
②マジックワードの認識を揃える
これから定性分析をする際は、この視点を持って取り組んでみてください。
また、事実と意見を分けるということは定性分析だけではなく、普段の業務やコミュニケーションでも役に立ちます。この機会にぜひ実践してみてください!
noteを書いてみて…
振り返ると、この視点が日常生活でも役立っているなと感じています。よく食べログやGoogle Mapのレビューを参考に飲食店を探すのですが、中には数値とコメントの内容が一致していなかったり、味を参考にしたいのに接客態度のせいで評価が低くなっていたりとあまり参考にできないレビューが多数あります…笑
この視点で世の中に溢れる情報を正しく取捨選択していきたいですね!
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記事を書いた人