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【創作小説】猫に飼われたヒト 第35回 もう1人の人間

フルーメンは唖然とした。

「助けて」

メスの人間。それは体も身につけている衣服もボロボロで、大粒の涙を流していた。

「…まさか、そんな…」

そして、フルーメンは人間の背後に倒れている猫の足らしきものを見つけた。

慌ててそれに駆け寄る。するとそれは。

アウラの死体だった。

「アウラさん…!!」

アウラの死体の頭部には、何かで殴られたような痕があった。

「君は…君が…やったのか」

この状況から、そう考えるしかなかった。すると人間は膝から崩れ落ち、泣き叫び始めた。


「あああああああ!」


フルーメンが駆け寄る。そしてその人間をじっと見た。

(…ずいぶん精神が錯乱しているな…何かあったことは明白だ。今は休養が必要だ…)

(こいつがアウラさんの死に関わっているとみていいだろう。アウラさんの死の真相を聞き出す必要がある)


そして、フルーメンはその人間をそっと抱きしめた。

「大丈夫。大丈夫だ」

すると人間は泣き止み、フルーメンの胸の中でぐたりと意識を失った。

「…………」

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コスモス畑にいるネイサンの元に、電話が入る。フルーメンからだった。

「主任?今どこですか?もうバスで旅館に向かいますよ!」

『俺はこのまま帰る。社員旅行、楽しんでな』

「え、ええっ?!ちょっと…」

電話は乱暴に切れた。

「切れちゃった…」

呆然とするネイサンに、ティオが尋ねる。

「主任、なんだって?」

「社員旅行、楽しんでなって…」

「「……」」

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フルーメンは人間を連れたまま、林を抜け国道沿いに出、タクシーを呼んだ。

人間には廃墟にあったカーテンを破り、それを頭から被せた。
タクシーに乗り込む。

「行き先は研究所…いや」

私はこの人間からアウラさんの死の真相を聞かなければならない。心理的に不安定な今、まずは暖かい場所での十分な休息が適切だろう。

「…中央区のまたたびマンションまで」

そしてフルーメンと人間を乗せたタクシーは走り出した。

次回に続く

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