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【創作小説】猫に飼われたヒト第30回 決意

2530年の12月某日、18歳になった私はアウラさんから呼び出された。

「フルーメン」

「はい、なんでしょう」

「お前は、日頃から研究所の中心となって職務を全うしてくれている。だから、お前を主任に命じ、私の右腕となって今後も役立ってもらおうと思う」

「…本当ですか!」

「ああ。今後は外部との連携や研究所の研究目標についても一緒に相談し、人間の未来のために一層精進していこう」

「ええ…もちろんです!ありがとうございます!」


ようやく、アウラさんに認められたと思った。私は胸がいっぱいになった。

苦労して育ててくれた天国の父さん母さん。やっと、私もアウラさんと同じステージに立てたんだよ。そう、思っていた。

だが、その数週間後のことだった。

私はアウラさんの異変に気がついた。

いつもとはまた違った、険しい表情をしていたのだ。

「アウラ所長。いかがされましたか」

「…いや、なんでもないさ」

「でも…」

「なんでもないと言っている。私の言ったことが素直に聞けないのか」

「……私はあなたの右腕です。何かあればなんでも相談してください!」

「うるさい!お前に私の何がわかる!1人にしてくれ!」

それからアウラさんは、その険しい表情のまま、この研究所から姿を消した。

あの時、アウラさんは私に何を隠していたのか。

私は研究所に入所してからずっと、アウラさんに尽くし、サポートしてきた。

アウラさんの命令を誰よりもこなし、アウラさんの期待に応え、アウラさんのこのデスクを整頓してきたのは、この私なのだ。

…それが、姿を消してから、次期所長に選んだのが全くの無関係者である猫だなんて。しかもそれが、アウラさん直々の任命だって?

私はアウラさんの右腕だったのだ。なのに。なのに。なぜ私が所長ではない。

私は所長席のデスクに触れた。
ここに座るのは、私だったはずだ。

あの時アウラさんは、何を思っていたんだ。

…私が丁寧に整頓してきたアウラさんのデスクの面影も、アウラさんの仕事用のメガネも、アウラさんとともにどこかに消え、今では別の猫がここに座っている。

アウラさんがいなくなってから、研究員の募集人員を増やし、今は誰もが程よい負担で職務に勤しむことができている。この環境を作り上げたのは私だ。この私なのだ。私が認められるべき人材なのだ。

「___任、主任!」

我に帰り、はっとするフルーメン。

「主任、今度の社員旅行の場所なんですが、研究員たちで意見が割れていて…」

「…はあ。どいつもこいつも私の気も知らないで…」

「え?」

「いや。なんでもない。そんなこと、私に聞かず勝手に決めろ。私はどこでもいい」

「ですが…」

「いいから」

「…分かりました」



研究員が去り、フルーメンは1人レックスの席を睨みつける。

アウラさん。私はあなたに直接聞きたいことがたくさんある。

いつか絶対、あなたを見つけ出してやる。

次回に続く

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