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【創作小説】猫に飼われたヒト第42回 決別には秋がよく似合う

秋風が気持ちいい休日。

グッダは大学で公開講座をしていた。

月に数回しかない、一般の人向けに行われる特別講義。この日は特別に大学が開放される。

「皆さんもご存知かと思われますが、人間、特に我々が住む日本に生息していた日本人の歴史はとても古く--」

グッダが今日取り扱っているのは、日本人史。

グッダの専門である人間歴史学は学生にはあまり人気がないが、この日は大きいホールが数席しか空かないほどの人数だった。

「…それでは、今日の講義を終わります。ご清聴、ありがとうございました」

グッダが締めの挨拶をすると、大人の学生たちは席を立ちぞろぞろと講義室を去っていった。


その中でこちらに向かってくる一人の猫。



「グッダ」



「…ミント?何故ここに。この講義は事前に申し込みした人しか受けられないんだぞ」


「いいじゃない!ちょうど大学の辺りに用があったのよ。それより、この間の話考えてくれた?」


グッダは開いてあった教科書をぱたり、と閉じた。


「…ああ。ミント、もう俺に関わらないでくれ」


きっぱりと言い放たれた言葉に、ミントは唖然とした。

「…え?」

「俺はもうお前の言葉を信じられない。これ以上、自分を粗末にするのはやめる」

「粗末にって…そんなことしていたの?」

「君にどれだけ裏切られてきたと思っている……君の言葉を信じることが、自分の気持ちを蔑ろにすることになるんだ」

「そんな…」



「俺は、もうお前抜きの人生を歩んでいきたい」



動揺するミントと対照的に、グッダはいたって冷静だった。
その揺るがない瞳は覚悟を決めていた。

「…じゃあな」


今までと違うグッダの表情に、ミントもこれ以上反論することができず、肩を落として講義室を去っていった。

その後ろ姿を見つめるグッダ。


分厚い歴史の教科書を握っていた右手に力が籠る。




ピロン♪

スマホが鳴った。レックスからメッセージだ。

"お疲れ。急だが、今晩飲みに行かないか?"


レックスは強張った表情を緩め、眉を下げて少しだけ微笑んだ。


次回に続く

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