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ソムニウム(60)煙草


おまえのせいやわ、
と昔の友人が電話で言う
はっとして正座する
俺、何した?
答えない
電話の向こうで女が叫ぶ
カミソリで胸を切り刻んでる!
銀のエッジがぎらりと光る
新聞記事がぼんやり浮かぶ
通夜の会場の前に立つ
電話がかかってきたんだよ
変だな、と友人の一人が言う
あのときお前はよくやった
四百億の契約取りつけて
へえ そうなんだ
覚えてない
砂丘を歩いて老人になる
海辺の自販機で煙草を買う
箱から全部抜き出して
もう一度ていねいに詰め直す
金色の包み紙が邪魔をする
煙草なんて吸いたくない
中身を箱に詰め直したい


(終わり)

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