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ギャラリーストーカー-美術業界を蝕む女性差別と性被害 読書メモ

2023年1月10日に発売されたばかりの本、美術業界に限った話ではないけれど、最近セクハラに関する報道が増えてきた。アートスペースを運営していることもあり、この本は読んでおくべきだと思った。

著者は弁護士ドットコムの編集者、新聞記者などを経験して現職。


ギャラリーストーカーの存在は知っていたし、美大の中でも様々なハラスメントも少なからずあるということは聞いていた。

美大では、表現すべきことの意味を問い、美術史の文脈の中でどのような新たな挑戦をするのか、作品との向き合い方は教えてくれる。しかし、学生たちは卒業後に作家活動をする上でふりかかるさまざまなリスクから身を守る術は得られないまま、美術業界に放り出されるのだ。

P.44

ストーキングもひとつのリスク、単純に展覧会を見に行き、作品を購入していた時よりも格段に作家とのコミュニケーションが増えた。その会話の中で、驚くような条件なども聞く。美術業界のクローズドな部分も関係しているとは思うけど、契約に関して、著作権などの権利に関して、美大に在籍しているうちにきちんと押さえておきたい。

さて、タイトルになっている”ギャラリーストーカー”、インタビューに基づく事例を紹介している。どのような問題があったのか、どのように解決したのか、巻末には対処法や、相談のための窓口も記載されている。

具体的な対処方法としては、ギャラリーでは1対1での応接をなるべく避けるようにすること、違和感を感じたら距離を保つこと。ただ、作品を購入した人や、購入してくれるかもしれない人には、中々塩対応は難しいのでしょう。ましてやアトリエで作品を向き合っていた日々を過ごしていると、人とコミュニケーションすることが楽しいという人もある。中にはギャラリーが接客を強要するようなケースもあるという。

まだ、アートスペースを始めようと考える前だったと思うが、「くじらのほね」では、禁止事項をネットで提示し、反響があった。

その後のインタビューを読んだ記憶があるが、店主は小売業からの転身、他の業界・業種では当たり前にハラスメント禁止の教育や、啓発があるのに、ギャラリー界隈ではなく、作家からも被害を訴える声を聞いたことがきっかけであるという。

僕の本業でもハラスメントに関する教育は、結構早い時期から実施されていたと思うけど、日本でも同じような意識が醸成されてきていると感じる。それでも、パワハラやセクハラはあるみたい。パワハラは実際に経験した。セクハラがあるらしいけれど、発生したことが広くアナウンスされるわけではない。ただ、ハラスメントで退職に追い込まれた人は何人かある。

本書にあるが、弁護士によると美術業界のハラスメントは他業界と比較して身体的な被害にまで及ぶことがあるという。フリーランスが多いためと分析していた。

美術業界では作家の身を守ってくれる存在はいない。

P.60

音楽業界では事務所が守る存在としているし、企業であれば労働三法などでも守られている。そんな中で「くじらのほね」の対応が注目されたのでしょう。

美術業界のジェンダーバランスの歪みも一因という。指導者側に男性が多く、学生は女性が大半である。

本書はタイトルにも”ギャラリーストーカー”とあるが、その言及は半分ほど、美術業界に蔓延るハラスメントについての内容になる。

ギャラリーストーカーは氷山の一角に過ぎず、水面下をのぞくとさらに暗い、底のしれない問題が横たわっていたのだ。

P.84

キュレーター、学芸員、大学の指導者が、ハラスメントの加害者になってしまう。ギャラリーストーカーの取材をしているうちに、明らかになってきたこと。

文春でも一部読めることから、Twitterでもあるあるなどの発言を見かけるようになった。

東京藝大の彫刻家の一発芸については、大学にも取材を試みていた。ハラスメントの窓口を設けるなどの対応をするとしている。

美術業界が狭いために、セクハラの被害を訴えると誰だかわかってしまうという。被害者が声を上げにくい構造が出来上がっている。

本書を読み、生々しい事例の記載を読み、今まで考えていた以上に根深い問題だと、電車の中で読んでいたのだけど、かなり暗い気分になった。

今まで読み流していたハラスメントの問題、きちんと見ておく必要がある。




些細なことと流してしまうことが、一番危険なこと

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