さらばポラリックス🇰🇭【スーパースターを目指すカンボジアの若者たち】第53話
2024年2月
私は数年に渡り父と共に介護をしていた母を、天国へ見送った。
長年、認知症と闘ってきた母だったが、最後は「進行性核上性麻痺」という難病指定を受けた。
身体が固まって動けなくなってしまったのだ。
食べることが大好きだった母だが、ご飯を食べることが出来なくなった。
しかし、この難病には一つだけ良い点があった。
側から見るほど本人は苦しくなく、多幸感すらあることだ。
認知症を患った頃から母の性格は荒れ、暴言、被害妄想等に本人も私たちも苦しむ日々だったが、旅立ちまでの最後の3ヶ月、母はたくさんの「ありがとう」を私と父に言ってくれた。
大雪が降った翌日に、眠ったまま旅立っていった母。
私も父もたくさん泣いて、そして後悔なく母を見送ることができた。
カンボジアの息子・娘たちも、母を気遣ってたくさんのお別れメッセージをくれた。
周りの人のお陰で、私は母の死を乗り越え、また平凡な日々を楽しんでいるのだが、ひと月ほど前、ポラリックスのリーダー・ノリから連絡がきた。
「俺、ポラリックスを辞めて、ソロアーティストとしてやっていくことを決めたんだ」
ポラリックスとして頑張ってきたノリと、リン。
お互いに成長し
それぞれにやりたいこと、さらなる夢が、具体的に見えてきたのだ。
積極的に新曲をリリースしているノリは、新曲を出せば、YouTubeの再生回数が当たり前に数日で100万回を超えるようになった。
The RAPPER CAMBODIA以降、ノリは後輩の育成にも取り組んでいる。
逆にリンは、アーティストとして活動が徐々にスローダウンしていった。
元々、夫の影響でカメラワークや映像制作が好きなリンは、様々なアーティストのミュージックビデオ制作にセンスを光らせている。
最近では、ノリのミュージックビデオをリンが撮影したりもしているのだ。
2人は「ポラリックス」にも愛着があり、ポラリックスを解散するという決断に至るまでとても悩んだそうだ。
「解散する道を選んで、ごめんね。」
頼むから謝らないで。
私や夫は、あなたの決断を心から嬉しく思う。
成長していくあなたが眩しく、愛おしい。
私と夫は、最後のポラリックスのステージを、Live映像で見守った。
一緒に頑張ってきたカンボジアの仲間たちも、現地で彼らを見ていた。
「ポラリックスの最初のステージを覚えてる。だから絶対、最後のステージも見たかったんだ。」
と、ミッキー。
ポラリックスの2人は涙を堪え、最後のパフォーマンスをやりきった。
彼らいわく「失神しそうだった」とのこと。
「最初の1日から今まで、約10年間。本当にありがとう。」
ノリとリンからきたこのメッセージに、思わず涙してしまう。
何言ってんの、こっちのセリフだよと。
その夜、
仲間たちのSNSにはこのメッセージが互いに向けて送られていた。
“Polarix” come from “Polaris”
Polaris is a star that guides people from ancient times when there were no maps.
You are my Polaris forever.
ポラリックスは、北極星に因んでいる。
北極星は地図のない太古の昔から人々を導いてきた星。
あなたは永遠に私の北極星。
星繋がりで、朝ドラで有名なこの短歌をポラリックスたちに送る。
『君が行く 新たな道を照らすよう 千億の星に 頼んでおいた』
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