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【開催レポ】障がいは環境がつくるもの~マイペースカフェの活動~

こんにちは、ちひろ@自由七科です。今日は11月14日に開催したランチタイムセッションのレポートをお届けします。ゲストは、10月に引き続き、たまりばネイル代表の石野有紀子さん。今回は有紀子さんが、息子のげんちゃんとそのお友達のみおちゃんとで始めたマイペースカフェの活動についてお伺いしました。


障がいがある子もない子も一緒に過ごした頃

小学1年生の時、同じクラスに知的障害のある男の子がいました。ほとんど会話が成り立つことはなかったけれど、どう接したらいいかわからないということはなく、図工や体育や給食は一緒に過ごしていました。中学校になってから、彼がいないことに気づき、それ以降、日常的に障害のある人と関わることはなくなりました。関わるどころか、見かけることすらほぼない日々。たまに電車で障害のある方が大きな声を出している場面に遭遇すると、どうしたらいいのかわからず、避けることしかできません。

私と同じような経験を持つ人も多いのではないでしょうか。子どもの頃は、特別視せずに同じ空間にいることができたのに、自然と助けることができたのに、なぜそれが出来なくなってしまったのでしょう。

マイペースカフェのはじまり

マイペースカフェは有紀子さんの息子さんで知的障害を持つげんちゃんと、友人で書字障害のあるみおちゃんが不定期で営むカフェです。最初の活動は2022年8月。調布市にある多世代が利用するコミュニティスペース「しばさき彩ステーション」を運営する方から有紀子さんに息子さんと何かやってみないか、と声が掛かったことがきっかけでした。

すぐにカフェはどうかと思いついた有紀子さん。有紀子さんを喜ばせるために、げんちゃんはいつもコーヒーを淹れてくれていたのでした。初めてのカフェの活動は、ぐったりするほど疲れたけれど大盛況。すぐにまた次の声が掛かり、Polarisが長野県飯綱で行ったイベントや、げんちゃんが通うアートスクールが開催するマルシェに次々出展し、今では有紀子さんやみおちゃんのお母さんが手伝うことはないほどに。

欠点はみんなが繋がる余白になる

マイペースカフェのコーヒーの提供はだいぶ特別。コーヒー一杯に30分待つこともあります。それは、げんちゃんがゲームをしているから。最初の頃は不安で見ていた大人たちも、今はげんちゃんを信じて待っています。

その信じる空気をつくっていったのは、みおちゃん。
みおちゃんはゲームをしているゲンちゃんにダメ出しをしたり、急かしたりしたことは一度もないそうです。キリがいいところまでやったら必ずやめてコーヒーを淹れる。みおちゃんは誰に教えられるでもなく、ゲンちゃんを信じて、ゲンちゃんのやり方に寄り添っていたのでした。

みおちゃんの書字障害は、外からはわかりづらい障害です。単に怠けているのではないかとか、心無い言葉に傷つけられることもあり、学校に行けなくなっていました。人と話すことも怖くなり、いつもお母さんの後ろに隠れていたそう。それが今や、ゲンちゃんがゲームをしていても、戸惑うことなくカフェを切り盛りする頼もしい存在に。堂々と接客しているそうです。

そして、このコーヒーを待つ30分には思わぬ効果も。考えてみたら、急いでいて10分でカフェを出ないと行けない人も、カフェで仕事をしようという人もマイペースカフェにはいません。30分の間に生まれたのは、同じ空間に居合わせた人同士のコミュニケーションでした。

想定外のプレゼント

マイペースカフェに流れるのは、ゆったりほっこりの時間ばかりではありません。ゲームに集中するあまり、げんちゃんが周囲の音がうるさいと怒りだしてしまうこともあるそうです。電車ならまさにみんなが下を向く瞬間です。

有紀子さん:周りにいた、立ち会っちゃった人たちの責任で、なんか皆さん、ちょっとずつ手を貸してくださいみたいな、 なんかこう、見放さないで見守りましょうみたいな、なんかそういう空気とかも生まれたりするのも面白いなと思ってて。

げんきのいいところは、謝るのがすごく上手なところ。
「僕、わがまま言っちゃって ごめんなさい」みたいなことを、なんか最後にね、散々散らかした後に言うと、そこでみんなドカーンってウケて、 違う空気が生まれるとか、なんかそこらへんも、マイペースカフェの本当に予期せぬ魅力というか。そういうのを期待しながら来ていただくっていうのも面白いかもしれない。

このエピソードを聞いたとき、すごく温かい気持ちになりました。至らないところがあるからこそ面白い。毎日、なるべくミスをしないように、人に迷惑をかけないように気をつけてる自分を緩めてくれるような感覚がありました。

障がいをつくっているのは社会

私が感じた自分が緩まる感覚。それは裏を返せば、息が詰まるような感覚があるということ。

有紀子さん:自分の思いを抱え込んで外に出さないようにしている人も多い。げんきたちの姿を通して、ちょっと自分を許してあげるとか、そういうメッセージも伝えられる気がする。

マイペースカフェは2人だから作れる空間で、そこに「障がい」はありません。では、障がいとは何なのでしょう。

有紀子さん:障がいのある人たちは専門家に任せるみたいな世の中じゃないですか。障害年金もらって、税金使って生かしてもらってるっていう、障がい者の親ってそういう感じになっちゃうんですよ。

でも今の社会が彼らの障がいをつくっているという風にも考えられる。社会の寛容さが足りないから障がい者になっちゃってるじゃんて。その社会の寛容さをげんきたちが少しでも壊せることがあるんだったら、小さなコミュニティからでも少しずつ変えていきたい。

今、有紀子さんは社会福祉士を目指して大学に通うと同時に、マイペースカフェを法人化すべく準備を始めているそう。今は、げんちゃんとみおちゃんだけの活動ですが、メンバーを増やしたり、活動場所も企業の社員食堂でやってみるという構想を描いているところです。

障がいについて、誰もが「当たり前」と思っている価値観を、マイペースカフェの活動を通じて変えていきたい、と話す有紀子さん。これからいろんな場所で開催されていくといいですね。応援しています!

▼アーカイブでは、マイペースカフェのエピソードや有紀子さんがマイペースカフェで伝えたいことについてさらに詳しく聞くことが出来ます。

▼げんちゃんの幼少期や有紀子さんがネイルを仕事にするまでのエピソードはこちらからどうぞ


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