見出し画像

感情体験と本

 2009/06/10  No.25の便りを改変

★図書館の司書さん

 多くの学校に本年度から司書さんが入っておられますね。今まで静かだった図書室に人の気配を感じるようになって、生きている場になってきたな~という感じがします。
 以前出会った司書さんに、「本が心を育てる」というけれど、それは、本を読むことで心の中に「他を受け入れることのできる余裕」を作ることだという話を聞いたことがあって、心と本の関連に興味を持っています。
 教室ではおとなしくて臆病なくらいなのに、図書室では元気!なんていう子も結構居ます。学校に訪問するときは、できるだけあちこちの学校の図書室を見せてもらっています。

★コミュニケーションとしての物語


 いじめられっ子の中学生の話で、ちょっと面白いことをききました。
 小学校の頃から、いじめてくる子がいて、よく遊びに誘われるのです。遊ばなければいいと思うのに、普段は楽しいので断れない。
 ある日、電話で遊ぶ約束をしたとき、そのいじめっ子は「絶対に来てね、来なかったら~(学校生活を台無しにするようなことを)~してやる!」とふざけて脅してきたのです。
 今までの彼女だったら、その言葉にひどくショックを受けてシクシク泣いていただろうけど、その時は妙に冷静で
「そのセリフって、○○みたいだよ」(○○はマンガの中に出てくる、怖~いキャラクター)と答えたそうです。いじめっ子はニヤッと笑って
「お~っほっほっほ!(そのキャラのマネ)・・・ってなにやらせるんだい!」って答えて、2人で大笑いしたそうです。なぜか脅しがユーモアに変わってしまいました。

 「そんなことを言われると怖いよ」という素直な気持ちを、共有の物語を絡めて表現したことで、お互いの物語を読んだ時の楽しさや面白さが湧いて、楽しく気持ちを共有できたのでしょう。

 中学生の時は、流行っているマンガやTVを見ていて「それより勉強しろ!」なんて怒られたり誰も経験しますね。明日になったら学校でこの話題を共有したいって結構必死でした。友達と共有するツールを求めて、マンガや雑誌、流行りの本なんかを手放せなかった学生時代を思い出していました。
 今でも評判の本やドラマをみようとしてしまうのは、人と物語の体験を共有したいという気持ちの現れなのかもしれないですね。本を紹介する番組があるし、本サイトのレビューも盛んです。
 学校の図書館に人がいることで「本を読んで、人とつながる」ということをフォローしてくれる存在なのでしょうねなどと思ったりしました。

★感情体験としての本

 本を読んでていい気分ばかりではいられないことも多いですね。
 私がこの間、読んだ物語は裏切りがテーマだったせいか、2,3日はその本のことを思い出すたび不機嫌な気持ちになって過ごしてしまいました。実際に自分が裏切られたわけじゃないのに、消化不良な気持ちをどうにかしようと、他の人に話の内容を語ってみたり、別の本を読んでみたりして、しばらくもがいてました。
 何が自分をこんなに苛立たせたのだろう、こんな自分に出会うのも不思議な感じがしました。実際に体験したわけではないけれど、疑似体験になっていて、人に話したりすることで、立ち直る練習をしているのかもしれないと思ったりしました。
 青海典子さん(松江市出身)の詩集を先日読んだのですが、(「14歳の詩集」 文芸社)の中の「知識を広げるために読むんじゃない 私は私を感じるために読むんだ(15歳の作の詩)」を思い出しました。
 思いもかけないような感情を体験できるのが本の面白さですね。でもこの嫌な気持ち、わかってたつもりだったけど、大変だし奥深いわ、と思ったのでした。                

----------------------------------------------------------------------------        

 今は中学生でも、TVより動画の方を見ることが多そうで、共有の物語というのが、なかなか見つけにくいかもしれませんね。この文章は、今だったら別の切り口にするでしょう。 

                           ゆかり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?