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記憶の鍵は破れるか

「もしもしー!久しぶりじゃーん、元気ー?
Nだけど覚えてるー?」

突然の知らない番号からの着信。
受話器をあげると聞こえてきたのは懐かしい声だった。

N「必死に色んな人に聞きまくって◯◯(筆者)の番号調べたわー」

Nは小学校からの同級生の女である。
幼少期は家が近所なこともあり通学時はよく一緒になった。
しかし彼女は中学くらいからヤンキーになり
卒業後はヤマンバギャルに転身
特に繋がりもなく成長と共にお互い疎遠になっていた。
わざわざ調べてまでなぜ連絡してきたのだろう。

N「あんたさー、小学生のとき私の自転車の鍵開けたじゃん?
久々実家帰ってきてチャリ使おうと思ったら鍵の番号分からなくてさー、鍵の番号覚えてない?」

脳内がじわっと水に浸されていくような感覚に襲われた。
10年以上も使われていない脳の奥の奥にしまわれた記憶にニューロンがアタックしたのだろう。

misuchai「あぁ、懐かしいな!開けた開けた!」
N「あんたあの後番号みんなに言いふらしてまじ最悪だったし」
misuchai「そうだったっけ?笑。まじ最悪なやつじゃん笑」
N「で、◯◯頭よかったじゃん?◯◯ならチャリ鍵ワンチャン覚えてないかなと思って連絡先必死に調べたわー」
misuchai「いやいや、何年前の話だし!覚えてるわけないだろ…」

当時Nの自転車の鍵はボタン式のロックだった。

小学生の私は鍵師と言う渡辺謙主演のドラマを見て触発され
翌日Nの自転車のロック解除を勝手に試みた。
正解を押したときの音が違うのでは?とか
隙間から見える形状が正解のボタンだけ違う?とか
小学生ながら必死に観察していると
特定の番号だけ表面が微妙にすり減って光沢があるのに気付いた。
正解の番号は毎回押されるので
表面が少しずつ摩耗していたのだろう。
その光沢のある4つのボタンを押したらあっさり解錠した。

ガチャン!というアンロックの音に興奮した。
開けた自分の凄さをみんなに伝えたくて
知り合いにNの鍵の番号わかったぜ!と言いふらした。
(←とんでもねえ奴)
せっかく開けた鍵番号を人に伝えるためには
この無機質な4桁の数字を記憶する必要があった。

笑っていいともでよくタモさんが記憶力のよさを披露していた。
タモさんは記憶のコツは体の部位にあてがって覚えたり
くだらないストーリーを自分で考えて
記憶に定着させると言っていた。
なるほどなるほどと感心し、
私はその4桁の数字にくだらないストーリーを作り上げた…

あの人、Nのおじいちゃん?
え、違うの?
え、あれお兄さんなの?
え、Nのお兄さん80歳!?
…にいさん80歳
…にいさんはちじゅう

misuchai「あ、覚えてるわ、2380だわ」

電話の向こうでガチャンとアンロックの音が鳴った。

N「いや、まじやべーし、凄すぎるわ」
misuchai「おう、讃えろ」

Nは地元で立派に2児の母をしているらしい。
縁なく長い時間が流れたが、自転車の鍵による
不思議な巡り合わせ。
何よりNが元気そうでよかった。
ありがとう、渡辺謙。

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