【おはなし】窓 #01

フミヤー ただいまぁー
窓の下からユカの声がする
あぁおつかれ

シャワー浴びちゃうからも少し待ってね
はいよ

ユカは隣の家に住む幼馴染だ
兄妹のように育ったけどお互いに県外の大学へ行ってその間は正月にあいさつするくらいになった
地元に就職を決めて実家に戻ると同じようにユカも地元に就職していた
お互いの仕事にも少し慣れてきた頃に、ちょっと一杯飲まない?と誘われて今日がその日だ

オレとユカの部屋は向かい合わせの窓があって窓を開ければ会話ができるくらいの近さだった
幼稚園の頃は窓を開けてお互いの部屋からシャボン玉を飛ばして遊んだ
相手の部屋まで飛んで行ったら成功だ
小学生の時はゴムのボールでキャッチボールをしたな
ユカがミスって下にボールが落ちても、なぜかじゃんけんに負けたオレが下まで取りに行ってた
中学生になると、なんとか先輩がかっこいいとか、誰と話して嬉しいとか一方的な手紙をうちの部屋に放り込んできてたな
オレは特に返す言葉も報告することも無くてただ読んでただけ
高校生になると少し開いた窓から楽しそうに電話をする声が聞こえてた
いつもより高い声が耳についた
休みの日には部屋に居ないことが多かったな

そのころから窓越しに何かが行き来することは無くなったけど
高3の冬に
フミヤーーー!
と呼ばれて
ん?
と顔をだすと
大学に合格したのーーー!
とユカは窓を閉めていても聞こえるような大声で叫んだ
おめでとう よかったじゃん
と言ったら
部屋が暖かかったのか、嬉しさで高揚しているのか頬をピンクにして
満面の笑みで、なんなら目まで潤ませて
うんっ!ありがとっ!
って言った

そのあとはお互いに入学準備でばたばたして
先に引っ越すオレが
行くわ またな ユカもがんばれよ
って挨拶して
ユカは元気に
うん!フミヤも元気でね!がんばって彼女つくりなよ!
なんて言うもんだから
うるせー余計なお世話だよ
って最後の最後に憎まれ口で別れちゃったよ

あれからもう4年以上も経つんだな…

そんなことを考えていたら向かいの窓が開いた
お待たせ こっち来てー
うん
と返事をして家の冷蔵庫からビールと母親が持っていきなさいと
タッパーに入れてくれていた鶏肉のレモンマリネを買い物袋に入れて家を出た
徒歩5歩
インターホンを押す
はいはいっ
おばさんが玄関を開けてくれた
あらっいらしゃいフミちゃん!改めて見るとすっかりイイ男になったわねー
あいさつをする隙も与えないマシンガントークだ
あ、おじゃましまーす
さえぎるように挨拶をして2階への階段を上がる
きたぞ
部屋の中のユカに声をかけると押し入れから座布団を引っ張り出していた
んーいらっしゃい これをっはいどーぞ
さんきゅー
ユカは帰宅時のスーツ姿から、洗い髪を無造作にまとめ、楽なパンツに派手なTシャツを着て、口からはスルメの足がのぞいている
なんだよ 色気のひとつも無いな
と嫌味を言うと
はぁ?フミヤ相手に色気出してどーすんのよっ面白いこと言うわね!
あ、それより見てこのTシャツ 推しのコンサートTシャツなの!
そとで着られないから部屋着にしてんだろ
ま…まーそーだけど!とにかく座って座って!飲もうよーゆっくり話すの久しぶりだねっ
そういいながら部屋のドアをバタンと閉めた

おい こういう時は部屋のドアは開けておくもんだろ
ん?なんで?少し寒くない?……え?
…そういうもんなんだよ!

なんか…こっちが意識してるみたいでかえって恥ずかしくなったんだけど…

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