巫者の戯

鯨はナイた。ライオンのように周りの生物が後退りする逞しい立髪が欲しいと。鯨はナイた。山羊のような曲円を描く美しい角、荒れた山肌を歩くバランス技術が欲しいと。鯨はナイた。人間のような恋愛がしてみたいと。鯨はナイた。軍隊蟻のようにフェロモンにつられて歩き疲れ死にたいと。

選べない。街路樹に選ばれた銀杏は、毎秋、アスファルトを灯す役割を従命する。選べない。粘土は自分の顔も選べない。造手のアイデア任せだ。選べない。今昼はハンバーグ弁当かエビフライ弁当か。選べない。山里に食物が減少した影響で、朝からゴミ袋を漁るカラスの気持ち。

植物に仇名を貼り付けるエゴよりも、乾燥機に駆られた靴下よりも、頂上で山彦をする大学生よりも。

僕は僕で幸せと言いたい。

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