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【あなたに贈る詩】すーっと澱みが流されるような、清らかな詩

SNSで「どんな詩が読みたいですか?」と呼びかけたところ、リクエストをたくさんいただいたので少しずつお答えします!

▼これまでのリクエストはこちらから

リクエストをくださったのは、大島奈緒子さん。

岡山県北の西粟倉(にしあわくら)村で、ようび建築設計室室長をされています。「やがて風景になる場所づくり」というコンセプトで自然にやさしいものづくりをされていて、いつも素敵だなぁと思っています。

奈緒子さんからのリクエストは「すーっと澱みが流されるような、清らかな詩」。奈緒子さん、存在自体がとってもみずみずしくて美しいひとなので、清らかさを求めるんだ〜ってむしろちょっと驚きましたよ。

心から湧き出ることばたち

澱みが流されるような清らかなことば…パッと思い浮かんだのは、塔和子(とう・かずこ)さんという詩人です。塔和子さんは、11歳でハンセン病になり、13歳から高松の大島青松園で約70年もの隔離生活を余儀なくされました。(22歳ごろ薬で治ったのに、世間のらい病への偏見がすさまじく、普通の生活に戻れなかったそうです)

そんな塔和子さんの「泉」という詩を紹介します。

「泉」

汲んでもつきないものがある
それを何と呼ぼう
深い森に
木の葉にうもれ
しんしんと湧き出る
あの澄んだ液体

泉の「すがすがしい冷たさ」は、それ故に「汲みとることのよろこび」を教えます。そして「私」は問いかけます。

それを何と呼ぼう
たとえば愛
たとえば哀しみ
たとえば英知
あまりにひっそりと
目ただないところで
私のかわきをいやしてくれる
何と呼ぼう
なんと呼ぼう

彼女の心から湧き出たことばにふれると、すーっと気持ちが浄化されます。
愛も、哀しみも、英知も、「すがすがしい冷たさ」をともないながら渇きを癒す。

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彼女は過酷な運命にもかかわらず自分から愛し、求めようとしたひとで、「かかわらなければ/この愛しさを知るすべはなかった/この親しさは湧かなかった(『胸の泉』)という詩も残しています。

詩のソムリエをしていると、「美しいことばを並べても、美しい詩は書けない」ということに気づかされます。また、海外詩や伝統詩を勉強し、新しい詩に挑んだ"文学史的価値のある"詩が、ほんとうに人の心をゆさぶるとも限りません。

『自分の本質から湧き出してくる言葉を繰り返し追求している』と詩人・大岡信(おおおか・まこと)に評された塔和子さん。彼女が懸命に生きてきたからできた詩こそが、読む人の渇きを泉のように癒やしてくれます。

2016年に工房全焼というたいへんな目にあいながら、人とのつながりで立ち上がっていく「ようび」さんの信念は、塔和子さんと重なるような気も。

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わたしが相当すさんでたときに買った本で、今でも澱むとこの本を手に取ります。あんまり説教臭いと背を向けちゃうところを、「そうだよなぁ、こうありたいなぁ…」とすなおに思えるのは、詩のちからです。

では、また。岡山と福岡を行き来しているので、奈緒子さんの近況をどこかでうかがえるのを楽しみにしています。

それまでどうぞ、すこやかで!

そのお気持ちだけでもほんとうに飛び上がりたいほどうれしいです!サポートいただけましたら、食材費や詩を旅するプロジェクトに使わせていただきたいと思います。どんな詩を読みたいかお知らせいただければ詩をセレクトします☺️