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今週の詩|冬のある日(八木重吉)

こんにちは。詩のソムリエです。

今週の七十二候は「朔風葉を払う(きたかぜ このはをはらう)。
福岡でも昨日から北風が吹いて、「冬だなぁ」と窓の外を見つめています。

今日は、こんな詩をどうぞ。

冬のある日 八木重吉

くさがかれたんだから
わたしのおもいだって
すなおにかれたらいい

ひらがなで書かれたみじかい詩なので、するっと読めます。
でも、なかなかにすごいことを言っている詩。

この詩を最初に読んだときは、失恋の歌だととっさに思い、「わかる…」となりました。

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わたしにとっての「失恋」は、大学生のころ4年ほどつきあった恋人との別れ。恋人関係を解消したからといって、じゃあ「わたしのおもい」が「すなおにかれる」かというと、そんなことはまったくなく、忘れることがとてもとてもむずかしいことのように感じていました。

ある日、紫陽花が立ったまま散りもせずそのまま枯れていく姿を見て、まるで自分のようで胸が傷んだことがあります。

失恋にも読めますが、詩人・八木重吉は結核で愛する妻と子を残して死にゆくという状況におかれた詩人でもありますから、「おもい」=現世への未練、とも読めるかもしれません。

▼八木重吉の生涯についてはこちらでもレシピとともに紹介しています

この詩は「み名を呼ぶ」というタイトルがつけられた詩稿におさめられた詩です。

「み名」というと、キリスト教の神をさします(八木重吉はクリスチャンです)。そしてこんな詩も。

富子
神様の名を呼ばぬ時は
お前の名を呼んでいる

富子というのは妻の名前です。(夫婦のラブストーリーと重吉逝去後のはなしは泣けるのでこの記事のあとがきを読んでね)

死を感じていたであろう重吉。
「死ぬ」という動詞は、日本語の「ぬ」(葉っぱなどがシナシナに枯れる)から来ていたり、フランス語で「枯れ葉」はfeuille morte(死んだ葉っぱ)だったりと、「死ぬ」ことと植物が枯れるさまは結びついています。

でも、「おもい」だけはすなおに枯れてくれない…

この世でやり残したこと。残していく妻のこと。まだおさない二人の子どものこと。

きれいに消えていけない。そのむごたらしさに、人間の生きるさまがあるのかなと思います。

秋を愛した八木重吉ですが、冬には厳しさと無垢な美しさを感じていたようです。ほかの詩もぜひ見てみて下さい。


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