#22 おそるべき君等の乳房(西東三鬼)/ブラマンジェ
夏だ!薄着だ!西東三鬼だ!(?)
おそるべき君等の乳房夏来(きた)る
西東三鬼
愛唱しているうたのひとつ。西東三鬼のなかでも特に好き。
おっぱいという生命力
と言っても、多くの方が「は??」となると思うので、すこし説明を。
三鬼による解説はこちら。
薄いブラウスに盛り上った豊かな乳房は、見まいと思っても見ないで居られない。彼女等はそれを知ってゐて誇示する。彼女等は知らなくても万物の創造者が誇示せしめる。
西東三鬼『三鬼百句』(昭和23年)
見まいと思っても見ないで居られない…
超すなおである、よく言ったな(笑)
それはさておき、「君等(彼女等)の乳房」であるから、特定のおっぱいに対しての驚きではない。「おっ巨乳じゃん」という世界とは一線を画する。
おっぱいの裏側(?)にある、「万物の創造者」つまり生命の源への驚きであり「おそれ」(「畏れ」であり、やたら生命力を誇示するべつの生きものに対する「恐れ」でもあるだろう)なのだ。
戦後と若い女性のパワー
おそるべき君等の乳房夏来(きた)る
この句ができたのは昭和20−22年ごろ。「戦後すぐ」である。
荒れた敗戦の町に颯爽とあらわれる若い女性たち。その盛り上がった乳房。それは三鬼にとって卑猥な、というよりは、目のさめるような崇高な驚きだっただろう。「夏来る」のも驚きだ。敗戦しても、町は傷ついても、あの人は帰ってこなくても、夏はまた来る。その自然のたくましい生命力も句にバチッと詠み込んでいる。
「乳房」を詠んだ斬新さだけではなく、曇った世界を吹き飛ばすような鮮やかなパワフルさが印象的な句だ。
この句については多くの優れた評論があるけれど、俳人・姉崎蕗子さんによる評は戦後の街が目に浮かぶようでイイ。
戦後の混乱を経て時代が大きく変わり、いままで抑圧されて慎ましさを求められた女性が夏へ向けて薄着となった。そして街には乳房のかたちが鮮やかに見える女性のさっそうと歩く姿を見掛けるようになった。
敗戦後、男性がすっかり自信を失いかけているとき、自由を手にした若い女性たちの胸を張って歩く姿に、三鬼は、乳房に焦点をあてて「おそるべき」と詠んでいる。「夏来る」という生命感と乳房の生命感とをぶつけることで、その時の驚きが伝わってくる。
女性用スタイルブックが復刊されるのは意外にも早く、敗戦翌年の春というから驚き。細かいフリルやリボンなど、ものがない中でも工夫して楽しんでいるのはさすが、女子のパワーだ・・・
※画像は「むかしの装い」様からお借りしています。興味深い!
2年前の戦争中(1944/S19)はこんなんよ…
戦後文学の金字塔である石川淳もまた、『焼け跡のイエス』(昭和21年)という短い小説を戦後すぐに発表していて(その事実がすでにスゴイ)「浮浪児が女の足にかじりつく」という印象的なシーンがあった。最悪な食料状況のなか、闇市場でおむすびを売る女の描写はこちら。
炊きたての白米という沸き上がる豊穣な感触は、むしろ売り手の女のうえにあった。年頃はいくつぐらいか、いや、ただ若いとだけいうほかない、若さのみなぎった肉づきの、ほてるほど日に焼けた肌のうぶ毛のうえに、ゆたかにめぐる血の色が匂い出て、精根をもてあました肢体の、ぐっと半身になったのが、白いシュミーズを透かして乳房を匕首のようにひらめかせ、(中略)強烈な精力がほとばしっていた。人間の生理があたりをおそれず、こう野蛮な形式で押し出てくると、健全な道徳とは淫蕩よりほかのものでなく、肉体もまたひとつの光源で、まぶしく目を打ってかがやき、白昼の天日の光のほうこそ、いっそ人工的に、おっとりとした色合いに眺められた。
《石川淳『焼け跡のイエス』より一部抜粋》
若さみなぎる豊穣さー「性的魅力」と言われるものは、生命力の象徴でもあるらしい。強烈な光源なのだ。
戦後文学を研究していて、こういう生きもののもつ生命のパワーに圧倒されることがよくある。
生命体は、肉体は、パワーをもっている。
その若い命が、『現人神』『お国のため』という精神性に踊らされ多く失われたことを、わたしたちは忘れてはいけないとおもう。
今ここにある生命を、抑制されることなく、
大切にできる時代がどうかずっと続きますように。
白いブラマンジェのつくりかた
白いブラウス、夏、生命、弾力…そんなふうに考えて思いついたのはブラマンジェ。「白い食べもの blanc-manger」ふるふる、なめらかな白いスイーツです。
材料
牛乳 450ml
砂糖 45g (グラニュー糖がおすすめ)
コーンスターチ 40g
作りかた
牛乳、砂糖、コーンスターチを鍋にかけ、沸騰しはじめたら火を弱め3,4分ゆっくりかきまぜる。とろみがついてきたら型に流し入れ、冷蔵庫で固める。
アレンジとして、ジャスミン茶やラヴェンダーを入れたりしても◎
今回は句にあわせ、真っ白にしました。
あんずのソースやベリー系のジャムともあいます。
今日で終(敗)戦から75年。
二度と戦争が起きないように、切に、切に、切に願います。