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#31 新しき年の始めの初春の(大伴家持)/ヌガーグラッセ

初春の雪は吉兆

年が明け、暦のうえでは春。

近所のおばあちゃんから蕪や大根をおすそわけいただき、おしゃべりしていたら雪がちらりと舞った。

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お正月の雪は豊作を意味し、縁起がいいとされている。
そこで思い出すのがこの和歌。

新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重け吉事
(あらたしきとしのはじめのはつはるの/けふふるゆきのいやしけよごと)
ー『万葉集』巻二十 大伴家持

大伴家持が因幡国(鳥取)の長官だった天平宝字3年(759年)の正月に、新年の宴をしたときの歌。新年と立春が重なり、さらに縁起のよい初雪が降っためでたいづくしの正月だったようだ。このまっさらな初雪のように「吉事(よいこと)」が降りつもりますように。その日から1200年以上がたった今もそらんじることができるリズムと、願い。めでたく、高らかだ。(宴会、さぞ湧き上がっただろうな)。

今年はお正月をひとりで過ごす人も多いだろう。どうか、ひとりひとりに、よいことが重なりますように。

純白のヌガーグラッセ

雪が降りつむイメージで、ヌガーグラッセをこさえた。お正月のごちそうのあとに大人のアイスクリーム、ぜひ。

《材料》
・生クリーム200cc
・卵白1個分
・はちみつ(癖がないもの)50〜60g
・ドライフルーツ
・ブランデーまたはキルシュなどの洋酒 適量
・アーモンド
・砂糖大さじ1
・水大さじ1
・(飾り用)いちご、柑橘類
道具…電動ミキサー、ボウル、ゴムべら、鍋、フライパン、型

《作りかた》

下準備…ドライフルーツは洋酒につけておく
①生クリームを9分立てにして冷やす
②砂糖と水をフライパンで熱し、カラメル色になったところにアーモンドを入れてからめる
③はちみつを鍋であたため、その間に卵白をメレンゲにする
④はちみつがサラ〜っとなったらメレンゲ、生クリームをあわせたボウルに入れ、まぜる
⑤ドライフルーツ、②のアーモンドを入れ、型で冷やす
(ゼリー型やクグロフ型がなければ、ケーキ型にいれて切り分けても)
⑥いちごを細かく切って飾る

いちご切りすぎてどうしようと思ったけど、「いや重け吉事♫」と盛り盛りにしてやった。

万葉集さいごの歌にこめられた願いは、時をこえて

今回紹介した歌は、二十巻ある万葉集のいちばん最後におかれている。

15歳のとき、3800円(税抜)する万葉集(Manyo Luster)を当時のお小遣いからすると清水の舞台から飛び降りる気持ちで買ったのだけど、いちばん最後にこの歌が置かれていることをずっと不思議に思っていた。「今年もいいことがいっぱいありますように」で終わるのは、なんか変だな…と。

万葉集の編纂者ははっきりわかっていないけれど、大伴家持が大きく関わっていたことは定説となっている。だとしたら、巻二十の最後、つまりは万葉集の一番最後にこの歌をおいているのは、単に「この一年が幸せであるように」と宴会に参じた地方役人たちと願っただけの歌ではないのだ。

"これから続く世のなかに、ずっとずっと幸せが降りつもりますように"
"歌がずっと人の心のなかにありつづけますように"

そんな、家持の壮大な願いが込められているのだと思う。
「いや(ますます)重け(重なれ)」という命令口調や倒置法に、彼のつよい想いが伝わってくる。ことばには力をもっていると信じていた古代日本人は、言祝ぎ(ことほぎ)をとても大切にしていた。

新型コロナウイルスの影響を受けに受けた2020年。そのなかで、ひとりひとりが日常で感じる小さな幸せの尊さを感じた一年でもあった。まだ今年も落ち着かない年になるかもしれないけれど、それでも時をこえてわたしも願う、"新しき年の初めの初春の今日降る雪のいや重け吉事"と。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

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作者とおすすめの本

作者についての個人的解説
大伴家持(おおともの・やかもち 718―785)
 左遷と昇進を繰り返した波瀾の貴族・歌人。官吏としては政争に巻き込まれたけれども、歌人としては地方(富山、鹿児島、鳥取、太宰府など)に赴任するなかで防人をはじめとする庶民の歌にふれ、さまざまな表情を見せる自然とふれあったのは大きかったのではないかな、と思う。
 恋もまた、家持の人生をいろどった。万葉集にある「振りさけて 三日月見れば 一目見し 人の眉引き 思ほゆるかも」(空の三日月を見上げると、ひと目見たあなたの眉を思い出す)という歌が個人的に好き。細い三日月を見るとこの歌を思い出す。大伴家を背負う官吏として政争のさなかを生ききった強さもありつつ、とても繊細でやわらかい感情を自然に響かせ詠み込んだ、魅力的な歌人。

おすすめの本

写真がとにかく美しい。日本のいにしえの心に直接ふれる思いがします。

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