見出し画像

誰も整理してこなかったポエトリー史【ふろくnote】⑤ ヒップホップ世代の詩人とポエトリーな映画

ヒップホップ世代の詩人たち

1990年代中ごろ。有名な「ニューヨリカン・ポエツ・カフェ」や同じくNYの「ブルックリン・ムーン・カフェ」「シュガーシャック」といった店を拠点に、主にアフリカン・アメリカンの詩人たちの活動が盛んになります。彼らはみなヒップホップを聴いて育った世代であり、テキストや朗読スタイルにもヒップホップの影響を見出すことができます。

90年代に登場した詩人の筆頭はジェシカ・ケア・ムーア。デトロイト出身の彼女は、地元の大学のカフェなどでリーディングをしていたそうです。1995年にNYにやってきてすぐラスト・ポエッツと知り合い、交友を広めていきます。1996年には、ハーレムにあるアポロシアターのアマチュアナイトでリーディング。これがテレビ放映され、一気に注目されます。アポロシアターはハーレム・ルネサンス時代からの伝統ある劇場で、アフロ・アメリカン文化の象徴的存在です。

ジェシカ・ケア・ムーアは現在も活躍中。2015年にはアルバムデビューしていて、Youtubeでもチェックできます。MVは彼女のキャリア集大成という感じの映像で、貫禄あるリーディングがかっこいいです。

彼女が立ち上げた出版社から詩集デビューしたのがソウル・ウィリアムズ。彼もNYで注目を集める若き才能でした。初めての詩集が出版された直後、ソウルは映画『SLAM』の主役に抜擢され、一躍有名になります。まさにポエトリーリーディングをテーマにしたこの映画がとてもエモーショナル。ポエトリーリーディングのシーンは圧巻です。ソウル・ウィリアムズはラッパー、ミュージシャンとしても活躍しています。楽曲やアルバムも多いので聴いてみてください。

もうひとり、この時代にデビューしたのがアースラ・ラッカー。1994年、地元・フィラデルフィアの老舗ライブジャズ・レストランZanzibar Blueにて、初めてステージに立ったそうです。早口になっても柔らかさを失わない、歌うようなリーディングが魅力的です。彼女はThe Rootsというヒップホップグループのアルバムにゲスト参加して注目され、2001年にアルバム『SupaSista』でソロデビュー。その後も数多くのアーティストと共演しています。

実は1997年時点でジェシカ・ケア・ムーアそしてアースラ・ラッカーをフィーチャーした、日本のアーティストがいました。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど世界でも高い評価を受けるSILENT POETSのアルバム「FOR NOTHING」がそれ。NYのポエトリームーブメントとも完全にシンクロした、クールな一枚です。こちらも是非。

ポエトリーリーディングを感じる映画

この時代をさらに深掘りしたい人向けに、ポエトリーリーディングが出てくる映画をもうふたつ紹介しましょう。

1997年公開の『ラブ・ジョーンズ』は、若いアフロ・アメリカンたちのライフスタイルをお洒落に描くラブロマンスです。舞台はシカゴ。主役は恋に疲れた写真家志望のニーナと新進作家のダリウス。このダリウスがThe Sancutuaryというカフェでポエトリーリーディングをしていて評判の詩人という設定。”ラブ・ジョーンズ”というのは”強く、抑えきれない想い“という意味の慣用句だそうです。もちろんポエトリーリーディングのシーンもあります。

もうひとつ、1994年公開の『ポエティック・ジャスティス 愛するということ』はシンガー、ジャネット・ジャクソンの映画初主演作。彼女が演じる美容師・ジャスティスは、天涯孤独ながらも詩作を心の拠りどころにしています。そして助演にラッパーの2パック(トゥーパック・シャクール)。ビッグネームの共演なのにイマイチ知名度が低いのがもったいない! 過酷な環境を生きる若者たちのタフなラブストーリーです。

90年代ニューヨーク発のポエトリーリーディングの熱気、感じていただけるでしょうか。気になったアルバムや映画があればぜひチェックしてくださいね! もちろん番組でもポエトリーリーディングの楽曲を紹介していきますよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?