2021.4.12. パステルナーク祭り(1)ロシアの大地に育まれた詩人
しばらく連載でロシアの詩人、パステルナークの詩を紹介します。
情熱を生涯、忘れることなく、ロシアの広々とした草原(ステーピ)や氷原、雪の降る街を駆け抜けたような詩を詠みました。
二月だ インクをとって泣け!
泣きじゃくりながら二月について書け
ざんざめく霙(みぞれ)の雨が
黒い春となって燃えているあいだに
疾走する辻馬車をつかまえよ 60カペイカで
教会のミサの刻(とき)告げる鐘の音 車輪の叫びをくぐりぬけ
そこ どしゃぶり雨がインクよりも涙よりも
もっとざんざめく場末へ駆けつけよ
そこでは焼け焦げた梨のように
無数のミヤマガラスたちが
木々から一斉に水溜りに落下し
乾いた寂寥(さびしさ)を眼底に浴びせるのだ
これは最初期の詩のひとつで、最も有名な作品の冒頭です。
次の詩も、同じ時期に書かれています。
詩の竪琴(リラ)の迷宮へ
詩人たちが目をこらす時は
左手にインダス河がひろがり
はるか右手にユーフラテス河が流れる
そして そこと かしこのあいだに
伝説で知られたエデンの園が
おそろしいほどの純朴さで
樹幹の列をくりひろげる
……
ぼくは──光だ
みずから影を落とすことでぼくは有名なのだ
ぼくは──大地のいのちだ 彼女の頂点だ
彼女の最初の一日なのだ
疾走するような詩句は清冽な熱情を湛(たた)えています。
原文は複雑な韻を踏んだものと聞きます。翻訳では、韻までは伝わりませんが、素晴らしい訳業なのだろうと思います。
初期1912-1914 の詩より
『パステルナーク全叙情詩集』工藤正廣訳 未知谷
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