2021.3.27. 峯澤典子『ひかりの途上で』詩集
今日は、白い詩集の紹介です。
今の日本を生きる峯澤典子さんの『ひかりの途上で』より。静けさが漂います。
丘のかげで
小鳥たちの食べる分を残し
煮詰める初夏の果実に
さくり、と
木べらが奥深く入っていった午後
いつか わたしがかえってゆくはずの
土のやわらかさを、おもう
写真が、ふんわりとした川内倫子さんのような写真が、浮かびます。
はつ、ゆき
いまにも降りだしそうな
はつ、ゆきに耳を澄ます
ひとつ
またひとつ
どこかでいきものが
息をひきとる 純粋なおとが
聞こえてくる
ほんとうは ひともまた
ゆきおとのなか
しずかに ほこらしく
ひとりきり、になって
いのちを いのちとして
だいじに終わらせたいのだ
と わたしは
けものたちにやさしく伝えた
この詩には、途中、「血」も登場し、雪のなかに死の気配を湛(たた)えています。
途上
何度いのちが絶たれても
ひとの手はなお
花びらを模して
どうしても
やさしく生まれようとする
詩集の題『ひかりの途上で』にも、映っている、「途上」という語をタイトルにした詩です。
また、別の詩より。
灯台の祈りのまなざしを頼り
波にまぎれて
泣いているひとがいる
(それは
地上の番地を永遠になくしてしまった
あなたたちの声なのでしょうか)
住所をうばわれたひとは、死人であり、たとえば東日本大震災で失われた命なのでしょうか。灯台はそこに立っています。
しずかな弧をなでた波が
あまたの泣き声をのせて帰ってくるのを
点滅する光は
夜が明けるまで
待っている
峯澤さんも待ち続けているのでしょう。
帰らないその声を。
海辺にて。
『ひかりの途上で』峯澤典子 七月堂
出版社の「七月堂」さんは、明大前駅そばで本屋も開いています。
雑貨コーナーも可愛らしく、充実してきています。
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