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2021.4.13. パステルナーク祭り(2)木イチゴと灌木とアカシアの詩

ロシアの詩人、パステルナークを紹介する連載です。今回のタイトルは、詩のなかの単語をつなぎました。

(1)に続いて、初期の詩集より。

どの詩が、どういう意味、というよりも青春と恋愛を凍える雪国で駆け抜けた、若きパステルナークの言葉の奔流を感じてみてほしいです。

木イチゴの葉っぱたちが銀色に光るだろう
葉うらをうえへと反りかえらせて
きょう陽射しはきみのように悲しげだ
きょう陽射しはきみのように北国女だ

また、べつの詩から。

発着駅
発着駅よ ぼくの別れたちの
出あいと別れの耐火性のひきだし
ぼくを導く経験をつんだ友
ひとたびその功績をかぞえあげれば──きりがない

訳者の工藤正廣先生は、この詩を読むと、自分にとっての「発着駅」である札幌駅を思い出すといいます。

札幌駅は北海道のなかで一番大きな駅で、道北、道東、道南へ向かうすべての列車が通るターミナル駅です。

マールブルグ
ぼくは戦(おのの)いていた ぼくは燃えだし 消えかけた
ぼくはふるえていた たったいまプロポーズしたのだ──
しかしもう遅い ぼくは怖じ気づいた 見よ ぼくは──拒絶された
ぼくは彼女の涙が傷ましい! ぼくは聖人以上のおめでたさ
《歩きを学び 走るのはそのあと》──と彼は復唱した
そして新しい太陽は天頂から見つめていた
そしてマールブルグ市中では
ある者は口笛をうるさく吹きながら玩具の石弓作りをし
またある者は黙々と三位一体祭(トロイツァ)に売り出す饅頭づくりに精出していた
ぼくがきみの前でひざまずき
あの霧を あの氷を あの表面を
(きみはなんという美しさだ!)──その息苦しい疾風を抱きしめたとき……
理性は? しかし理性は──夢遊病者の月のようなもの
ぼくらは友達だ しかしぼくは理性の入れ物じゃない
夜々はチェスをさすために
ぼくと一緒に月光の寄せ木張りの床に座るではないか
アカシアは匂い 窓々は開け放され
そして夜が勝利し チェスの駒たちはしりぞく
ぼくは東の白む朝ぼらけと顔をあわせる

ただ若いというだけではない、消えることのないろうそくの炎のような、儚くも白い熱情がほとばしり出ています。


初期1912-1914の詩より

『パステルナーク全叙情詩集』工藤正廣訳 未知谷


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