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お守りは必要な人の手に渡った

旅行会社で海外ツアーの企画や手配を担当していた時、実際に行ってみたくなり同僚と2人でトルコ周遊の旅に出た。手配会社の計らいで他のツアー客と混載ではなく、私たちのために専用車とガイドを用意してくれた。トルコ人のガイド、ドライバーと私たちの4人で10日間の旅が始まった。

最初にガイドが、私たち2人にトルコでの名前をつけようと提案した。友人につけられた名前の響きはかわいらしかった。外見のイメージに合う名前をつけたんだなと思った。
次にガイドは私を見て「あなたはファットマン」いい命名をしたといいたげな満足そうな笑顔。
え?Fat Man ? ひどい、私、やせ型なのに、なぜ太っちょ呼ばわりされるのだろうと思ったが、気を取り直して「どういう意味?」と聞いたところ、「ファティマはイスラム教の創始者ムハンマドの娘で理想の女性、だからすごくいい名前」
ファットマンとファティマ、聞き間違えたようだ。

観光後、みやげもの店に入ると、日本では見たことがないものがずらり。ブレスレット、ネックレス、置物になりそうなものなどいくつか買った。その中の一つは手のひらの真ん中に目が描かれたもので「ファティマの手」と呼ばれるお守り。魔除けになるといわれた。
旅先で買ったものは、その時はワクワクして買ったものでも、日本に帰ると熱がさめてしまうことが多い。おみやげのことはすっかり忘れていた。

ある日、断捨離をしようと思い立ち、何年も開けずにいたジュエリーボックスを開けると、ファティマの手がでてきた。未開封のまま。手のひらに目が描いてある奇妙なデザインのブレスレットは身に着けることはないだろうと思い、メルカリに出したらすぐに売れた。
その後、本棚を整理している時に、読まずにいた本があったのでパラパラめくってみた。お医者さんが書いた命を大切にすることがテーマの内容だが、その中に「ファティマの手」のことが載っていた。
ファティマは高貴な身分でありながら、困った人々をその手に抱き看病したという。
当時、ファティマの手に触れられた人たちは、その手を通して慈愛や加護の力を感じ取ったのかもしれない。その後もファティマの手は、家の壁や妊婦のいる部屋のドアにかけたり、お守りとして使われているという。手のひらの目は、睨みつけて邪悪なものをとり払うためのものらしい。

知れば知るほど、トルコで買って、長年しまいこんでいて、売りに出したとたん即売れた、あのファティマの手が恋しくなった。
ご縁があって買ってくれた人の元で、大切に活かされていればそれで十分。そう思うと手放したことを清々しく思えた。

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