ちいさな木 の ものがたり


ある もりのはずれに ちいさな木が ありました。


ちいさな木は ふしぎでした。


「まわりは みんな せのたかい にいさん ばかりなのに 

 ぼくは どうして こんなに ちっぽけなんだろう」 


ちいさな木は ちょっと かなしかったのです。


せのたかい にいさんたちは ちいさな木より 

ずっと ずっと うえのほうで

ざわざわ ざわざわ。

いつも たのしそうに おしゃべりしているようでした。


おなじ ばしょに いるのに

ちいさな木は いつも ひとりぼっち。


「あーあ、つまらない。 おしゃべりする あいても いない」


ちいさな木は そんなふうに 思っていました。


ちいさな木には ちっぽけなことだけではなくて 

もうひとつ いやだとおもっていることが ありました。


それは はるがすぎ なつがすぎて だんだんさむくなってくると

じぶんだけ 葉っぱのいろが まっかに かわってしまうことでした。



「はるや なつは まわりのみんなと 同じいろなのに。

 どうしてぼくだけ こんな めだついろに なっちゃうんだろう」


ちいさな木は いやで いやで しかたありませんでした。


「ただでさえ ちっぽけで めだつのに

いろまで ひとりだけ まっかに なって

ますます はずかしい」


せのたかい にいさんたちは ちいさな木を ばかにしたりは しません。

でも 「きみは ちがうからね」と わるぎなく いうのです。


ちいさな木にしてみても せのたかい にいさんたちとは 

あまり はなしがあいません。


だって 見ている めせんが ちがうのです。


たかい たかい めせんで せかいを みている にいさんたちと

ひくい ひくい めせんで せかいを みている ちいさな木では

しぜんと 考え方も すきなものも いろいろと ちがってくるのでした。


*  *  *


あきも ふかまり だんだんと 

さむさが きびしくなってきた

ある 朝のことでした。


ちいさな木は いつもどおり しょんぼりと たたずんでいました。


そこへ この森には とても めずらしいことに

にんげんが ふたり さんぽに きたのです。


「あ〜。こういうところで リフレッシュ するのも いいねぇ」


ふたりの にんげんは たのしそうに 

のし のし あるいてきます。


そして ふと ちいさな木の そばで 足をとめました。


「ねえ、みて! この木 まっかに こうよう してる」


「ほんとうだ。 このくにでは めずらしいね。

 でも なんて うつくしいんだろう 」


「ほんとうに きれい。 ふるさとを おもいだすな」


「そうだね。 まいとし あきには かぞくや ともだちと 

 こうようを みに いったなぁ」


「とっても とくべつな けしき だものね。

 わたし こうようって すごくすきなんだ」


「このくに では なかなか みられなかったからね。

 じゃあ これからも また このみちを さんぽ しようか」


「そうね そうしよう」


そういって ふたりは にこにこ しながら とおりすぎていきました。



ちいさな木は どきどき して いました。

いつもよりまた ちょっぴり あかく なっていたかもしれません。


ちいさな木は うれしかったのです。


じぶんだけ へんてこだと おもっていた あかい はっぱは 

じつは だれかを しあわせに するものだと しったのです。


とおい ばしょでは じぶんと おなじような めせんで

くらすなかまも たくさんいると しったのです。


そのよる ちいさな木は いままで生きてきて いちばん

ほくほくしたきもちで ねむりました。


*  *  *


そして ちいさな木は すこしずつ いろんな しりあいに

じぶんから おしゃべり してみるように なったのです。


木のなかまでは ないから 

いままでは はなしかけようとしなかった

鳥たちに はなしかけてみました。


鳥たちは 

「遠いくにでは いまのきせつ、

 たくさんの あかい木や 黄色い木がつらなって 

 ひとびとが それを みに こぞって おでかけをするんだよ」

と おしえて くれました。


木のなかまでは ないから 

いままでは はなしかけようとしなかった

虫たちにも はなしかけてみました。


虫たちは

「さむくなるいま あなたの落としてくれる ふかふかの かれはたちが

 とっても ありがたいんだ」

と おしえて くれました。


ちいさな木は いままで うえ ばかり みていました。


でも じぶんの めせんで まわりをみてみると 

おなじ わだいで 話せる なかまが

じつは ちらほらいるということに きづいたのです。


ちいさな木は もう かなしくありませんでした。


「なぁんだ だいじょうぶ」


と おもいました。


*  *  *


そして きょうもまた あの ふたりが きっと やってきます。 


あれから あのふたりは

しゅうに いちどは さんぽにやってきて

ちいさな木を ながめては

にこにこと げんきになって かえっていくのです。


ちいさな木は きょうも

たのしみに まっていました。



自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。