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広津和郎の初版本エトセトラ

【広津和郎】という作家を知る人は限りなく少ないだろう。

戦前から戦後にかけての流行作家。戦後は文壇の重鎮として多くの文豪と親交を持っていた。
父親は尾崎紅葉の門下生・広津柳浪。

ざっと紹介するとこのような感じ。
私はこの作家の単行本(初版本)を重点的に集めている。

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函付きのものを中心に並べてみた。
このほか文藝叢書の数冊を除いて、ほぼ棚に揃ってはいる。

主要な単行本で入手が難しいのは『握手』と『二人の女』の2冊。『明るみへ』を含め、広津の小説で完成度の高い名品はこの3冊が傑出している。収録作品としては『明るみへ』が1番だと個人的に思う。

『風雨強かるべし』『青春行路』はこの中でも異質な装丁。
東郷青児の石版装丁で、モダンな見た目が光る。彼の単行本は地味なものがほとんどだが、装丁の点でこの二冊は突き抜けている。(なお内容は…)

美麗なブックデザインとしては『神経病時代』以前の翻訳本も負けないチェーホフの翻訳『接吻』は橋口五葉の木版をその道の大家・伊上凡骨が彫刻した美本。

その膨大な著作数に反して、古書としてはあまり流通していない。なにしろ裸本でも見かけない本が多い。
画像の並びで言うと『お光と千鶴子』より以前の単行本がない。あっても古書価としての相場は安くなく、気楽には手を出せない雰囲気がある。

広津の初版本を集めている人に出会ったことがないのは残念だが、今後この作家が注目される日がくるのか…となると贔屓しても自信はない。
だけれど、集めるというのは誰かに評価してもらうのを期待してすることではないし、自分が好きならそれだけで十分ではある。
コンプリートの報告が早くできる日が来ることを祈りながらこれからも集め続ける。


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