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おはぎに関する私の推理

土曜日のお昼ちかく。
最近、自分の用事に付き合わせてばかりで申し訳なく思ったのか、夫がミステリーランチに行こうと言う。

高級なお店でないことは予想できたが、少しわくわくしながら助手席に座った。

着いたところは、江戸時代の商家、国の登録有形文化財だ。

歴史的建造物を見るのは私も好きなので、嬉しい。

その建物内ではNPOか何かの団体が、ちょっとしたカフェを運営している。
ランチというのはそのお店のことだった。

メニューは3種類
ライスカレー、カレーうどん、おはぎセット。
どれもワンコインという驚き価格。

ふたりとも迷わず「おはぎセット」と頼んだ。
だって、おはぎ2個とカレーうどん(小ぶりの丼だけど)なんて、お得!
少々変わってるけど、辛いものと甘い物の組み合わせなんて、嬉しい。

感じのよい三角巾の女性は、注文を取ると奥へ戻っていった。
賑やかな厨房では、私より少し年上の女性が数人、働いているようだ。

数分後、三角巾の女性が来て「おはぎの用意ができなくて」と、とても申し訳なさそうに言った。
そして、夫も私も、改めてライスカレーを注文した。

ところが、待てども待てども、もう20分以上待ったと思うが、ライスカレーが出てこない。
待っているお客は他にいない様子なのに。
早い安い美味いが当たり前のご時世、あかんあかん、怒ったらあかんと、夫と他愛のないおしゃべりをした。

そこへ、若い夫婦のお客さんが入ってきた。
サイクリングの途中らしく、テーブルの横に足を延ばしてマッサージをしている。

建具を開け放った大きな広間、それぞれ8畳ほどの部屋は、2〜4人のお客1組ずつで埋まった。

開けたガラス戸からは爽やかな風が通り抜け、気持ちいい。

すると、サイクリング夫婦が「おはぎと抹茶のセット、ありますか?」と聞いた。
三角巾の女性は、一旦厨房で確認してきたらしく、「ご用意できます」と言っている。

おしゃべりしていた私達の耳が、ん?と反応した。

ここでちょっと整理したい。

①私たちが注文したとき、おはぎはなかった。
②でも20分以上経った今、おはぎはあるようだ。
③おはぎセットができない理由は、カレーうどんがないからなのか。
④ライスカレーとカレーうどんの、カレー部分は同じもののようだ。

以上のことを手掛かりに、夫と私はそれぞれ黙り込んで推理した。

そして、ようやく、私たちのライスカレーが出てきた。
ちょっと怒りたくなる気持も、三角巾の女性の笑顔で、忘れてしまう。

笑顔っていいな。

あの女性のツヤツヤのおでこは、たぶん忘れないと思う。

四角い塗りの盆に載せられたライスカレーを、私達は食べ始めた。
結構スパイシーで、おかあさんのカレーというより、少し現代的な味がした。

しかし、2口目を口にした私は、ふと何か違和感をもった。

そして、夫のライスカレーと、私のライスカレーを見比べた。
明らかに、ご飯が違う。

夫のは普通の白ご飯。
私のは、ツヤッツヤの、透きとおるように白いご飯。

私の違和感の原因は、炊きたてご飯だからかと思ったが、それ以上に不思議なモチモチ感…。

このあたりで、勘のいい方ならお気づきだろうか。

私の推理はこうだ。

私達が店に来た時、確かにおはぎはなかった。
代わりに2人ともライスカレーを注文したのだが、ご飯は一人前しかない。
そこへ、おはぎ用に炊いていたご飯(もち米5割と推定)が炊き上がる。

ひとり分のライスカレーを、おはぎ用のご飯で代用した。
この推理が正しいと、私は確信する。

あの三角巾の女性は、おはぎ用ご飯のライスカレーを、夫か私か、どちらに出すかを悩んだに違いない。

笑顔の三角巾さんが、厨房のやかましいババ、いや先輩女性の圧に負けてひとり悩んだとしたら、ちょっとかわいそう。

ワンコインと言ってもこちらは客だ。
私がクレームをつけなかったのは、常に笑顔だった三角巾さんと、妻を喜ばせようと思ったナイーブな夫のためだった。
その割には妄想推理して盛り上がってたけど。

夫は、ご飯の借りを返そうと、ランチのお客様にはスイーツセット100円引きのメニューから、ロールケーキセットを頼んでくれた。

もう話が長くなってしまうので申し訳ないのですが、またここでちょっとしたことが。

もうスルーしてくださって結構です。

「ロールケーキのセットと、単品でホットコーヒーをひとつ」と夫が注文。セットのロールケーキは2個なので、1個ずつ分けようと思ったのだ。
念のため、写真を指しながら「ケーキは2切れですか?」と確認すると、「申し訳ありません、大きめのロールケーキが1つになります」と三角巾の女性が、また笑顔で。

夫は投げやりになるのを堪える様子で、でもトレードマークの目尻のシワ最大の笑顔で「じゃあ、ロールケーキセットを2つ。ホットコーヒーで」と注文した。

またケーキとコーヒーの割には長い時間をかけ、運ばれてきたロールケーキは、メニューの写真にあるケーキの2個分はありそうな厚さ。
三角巾さんの言うとおりだった。

そのロールケーキは、手作りらしく甘さ控えめで、ふわふわと言うより少ししっかりめのケーキが美味しい。
だが、2口目のクリームの硬さの違和感に、今度は2人同時に、ん?となった。

凍ってるのか。
だから薄切りにできなかったのか。
ロールケーキを冷凍にした場合、ケーキとクリームと、どっちが先に融けるのか。

もう推理ゲームを楽しむのはやめ、商家の空間を楽しむことにした。

そんなことがあったからだと思う。
この後に行った地下街で、間違って「豆大福」を買ってしまったのは。

そんな日もある。
でも、困った出来事や勘違いも楽しんでしまえば、今日もハッピーだったねと日が暮れる。

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