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芸術祭から肝だめしまで

国際芸術祭あいち2022「STILL ALIVE」が、名古屋市を中心に開催中だ。

通しのチケットがあるので、その一部を見に出かけることにした。
まずは奈良美智さんの作品から、感じるスタートとなった。

絵画の他に、動画やインスタレーション、よくわからないものもあったが、今夜夢に出てきそうなほど心に残ったものもあった。

そのひとつが、モニターに映る文字とスピーカーから流れる朗読による表現だ。
またその場所というのが、元看護学校の実習室ときている。
明るく綺麗な室内に並ぶベッドはカーテンで仕切られ、否応なく病室を想像させる。
そこに流れる平坦な声が、自分の身体や生命に迫ってくるようで、不思議な気分になる。

そして私の想像力は時空を超えて、あの日の病院(正しくは病院だった場所)へ、飛んでいた。

それは10年以上遡る。
職場の建物の耐震化工事のため、半年ほど他所の大学に間借りすることになった。
引っ越し先で使うものは机など最小限にするため、しばらく使わないファイルや事務機器は、まとめて倉庫に保管されることになった。

その倉庫というのが、移転のためいずれ取り壊される予定の病院だった。

引越し業者に搬入先を指示するため、上司や同僚数人でその病院を下見に行った。
周りはすっかりフェンスで覆われ、鍵を開けて敷地内に入った。

それが、いくらもう使われてないとは言え壊す前提なので、内部の貼り紙などは残されたままなのだ。
昭和なタッチの筆文字で【小児科】と書かれた診察室には、折り紙の花などが飾られている。
ベッドも医療機器もないのに、まだ人の気配を感じるような空間だった。

それを横目に見ながら、搬入先の2階を見ることになった。
病室だったのかどうかは記憶がないのだが、割と広い2部屋だった。
その部屋の大きさを見ながら、キャビネットが入るかどうかを確認した。
メジャーなどないので、だいたいの感覚で。

私以外の人は、軽く見ただけでわかったのか、それともあまり深く考えていないのか、すぐに次の部屋に移動するため廊下に出た。

誰か残るだろうと思ったのに、私以外の全員が階下に行く気配がした。
ちょーっ、待ってよと思った。
なんせ懐中電灯を持っているのは2人だけ。
もちろん私は持っていない。

いくら昼間でも、もう電気が通っていない廃墟のようなところだ。
窓のある部屋はいいけれど、廊下、さらに階段室などどこからも光が入らない真っ暗な世界なのだ。

女性は私以外に1人だけ、先に行った人たちはキャーキャー言うこともなく、かすかに遠くで話す声が聞こえるだけだ。
真っ暗な階段の上から「すいませーん、どこですか」と聞きたかったが、声を出す勇気が出なかった。

背中に迫る闇を感じながら、片側の壁をたよりになんとか1階に降りた。
廊下の向こうに懐中電灯のぼんやりした灯りが見えたときは、ホッとした。

「あー、御手洗さん来た?」という、さほど心配もしていなかったような声が、私を現実世界に戻してくれた。

いや〜怖かった。
しかしみんなと合流したとはいえ、また人の息吹を感じる薄暗い廊下は続く。
あーもうムリと思ったころ、パッと明るい屋外に出ることができた。

時間にすれば30分ほどだっただろうか。
まさか仕事中に病院廃墟で肝だめしするなんて、想像もしなかったから。

そんな衝撃的だったあの日に、ひとりタイムトリップをした芸術祭だった。
あ〜、芸術って本当に不思議です💧

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