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晴旅雨筆(エッセイ)

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これまでの人生で書き散らしてきたノートの切れ端をちぎれ絵のように張り付けたエッセイ。本を読み、山に登り、酒を呑み、街を歩く。
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#小説

原稿用紙を買う男 (エッセイ×読書の愉しみ)

「……そういえば、本で読んだのか、テレビかラジオのドラマだったのか憶えていないんだけど、たしか『原稿用紙を買う男』というタイトルだった」  酒を呑みながら友人が話し始めたのは、私が自分の創作に触れたタイミングだったかもしれない。大学3年ぐらいだったと思う。 「……主人公は作家志望なんだ。でも、結局何も書けないまま、くたびれたサラリーマンになっている。もう40をいくつか過ぎて、……もちろん、ひとり暮らしだ」 「ふうん……なんか」  ── なにか、自分の将来を暗示しているような

「その間の逸失利益です」と人事係長は小銭をジャラジャラ出してきた (エッセイ)

社員の慶弔に際して少額の祝い金や弔慰金を出す会社は多い。 私は既婚者として新卒入社したので、当然、結婚祝金はもらっていない。 最初の子供が生まれたのは入社後2年ほど経った後だったが、そもそもそういう《ルール》があることを知らなかった ── 出産日に特別休暇を取ってもいい、ということは勤務規則に書いてあったので、仕事を休んでビールをたらふく飲んでいたけれど。 それから2年後に2人目が生まれ、さらに1年ほど経ったある日、ヒラ社員だった私は、人事の係長から会議室に呼び出された。

北大恵迪寮の夜 (エッセイ)

昨日投稿したエッセイに、入社面接で学生時代に自費出版した小説の中身を、 「いかがわしい内容じゃないだろうね?」 と尋ねられ、 「── いかがわしいです」 と答えたエピソードを書きました。 この話と、 ➀ 自費出版本 ➁ いかがわしい の2点において共通するエピソードがもうひとつあるのを思い出しました。 明日はどうなるかわからない身の上、忘れないうちに書き残しておこうと思います。 ********** 高校1年の頃から、リュックやバックパッカー(当時は背負子と呼んでいまし

入社面接における《いかがわしさ》の意味 (試験の時間)

学生時代、ある企業の見学兼面接に出かけた時の話です。 夏休みに2週間の《遅いハネムーン》に出かけ(↓)、戻ってきたらほとんどの同級生が既に内定をもらっており、少しあせっていました。 国立研究所の事前面接に出かけ、《天の声》を聴いて断念した話は既に書きました。 そこで、進路を技術系企業へと変え、3か所に見学に出かけました。 そのうち1社でのエピソードです。 社内見学を終えた後、役員面接(それほど大きな会社ではなかった)に臨みました。 人事担当者に案内された会議室に、技術担

初のポータブル日本語ワードプロセッサは(開発者には敬意を表するけれど)《創作》には使えなかった…… (エッセイ)

昨日投稿の「お代官様…」で書きましたが、20代後半に懸賞論文に応募し、副賞としていただいたのが、業界初のポータブル日本語ワープロ《富士通OASYS Lite》でした。 1984年5月に発表、8月に発売された製品を、発売とほぼ同時に手にしたのです。 このワープロは、それまでの製品が重量11.9 Kgだったのに比べ、3.5 kgと大幅な軽量化を実現しました。 カタログ表紙は秋吉久美子さん、ページをあけると、彼女が砂漠でこの製品を使っており、「思わず言葉でカメラしました。」のキ

《長めの小説》分割後《これまでのあらすじ》私の作法 (エッセイ)

人生で《あらすじ》を書く機会はあまり多くありません。 小学校で読書感想文を書く(書かされる)時に、まず最初にあらすじを書きましょう、なんて指導を受けたような気がします。 あとは、小説募集とか懸賞論文(と題していても、実際にはエッセイですね)など《賞》に応募する時にも、 「**文字以内で《あらすじ》を書いて添えるように」 など要求されたりしますね。 こうした《あらすじ》を書く、── 技術? ── はたぶんあるのでしょうね。 工学系の学生に、 「英語論文を読んだら、内容を忘れ

《長めの小説》の分割は《試食用》でもある (エッセイ)

noteにアップする長めの小説を《分割》し、各回に[1/4],[2/4]……のように《全分割数の中の何番目か》も明記すると、物語の全体ボリュームがイメージできて、Customer-friendlyだよね、というような話を書きました(↓)。 noterさんからいただいたコメントに応える中で、このエッセイに大事なことが抜けていると気付きました。 紙の本の場合、単行本のような《一気掲載》がいいか、新聞小説や月刊雑誌のような《分割連載》がいいか、は読者の好みや読書スタイルによるで

カンニングには4種類ある (ニュースに連動した加筆・再掲エッセイ)

昨日(2022/1/27)の日本経済新聞朝刊に掲載された情報によれば、 うーむ、《世界史》でのカンニングか! 懐かしい! これは《Pochipico式カンニング分類法》によれば、4分類のうち、  《点カン》X《複数犯》 であーる。つまり《1番マズイ》カンニングが実行されたわけだ。 などと、昨年4月10日の投稿記事を思い出したので、前後に多少加筆した上で再掲させていただきます。 ************* 空腹の万引きに逆転無罪=「食べなければ死ぬ」―伊最高裁 【ローマA

《長めの小説》上げ方悶々 (エッセイ)

(お、ようやく半分ぐらいまで来たか) とページに🔖をはさんでコーヒーを淹れる。 そして再び本を手に取る。 ( ── ここまで読んでも、誰が犯人かさっぽりわからないな) などと思いながら。 紙の本を読んでいる時、 ➀ 本全体の厚み ➁ 本の内容(展開、面白さ) ➂ (読書の)進捗状態 の三者を《無意識のうちに意識》している。 なかでも、➀の《本の厚み》は、書店で買う時から意識しますね。 あまりに厚い本は、 (……寝転んで読むには重そうだな)とか。 (……最近忙しいから、読み終

《集団の成人式》より《個体の成人》 (エッセイ)

noteには、《エッセイ》と《短めの創作》を上げています。 ダッシュボードでPV数をながめれば、創作(ショートショート)はエッセイに比べて低めの傾向にあります。 その中では、読んでいただいた(開いていただいた?)数が2番目に多かった創作が、先週投稿した(↓)「肩の上に」でした。 《成人の日》をお題にした小品です。 この記事へのコメントに、あるnoterさまから、 「(私は)徹夜で麻雀をして(成人式には)行かなかった」 という、当日の想い出を寄せていただきました。 私自身の「

2021年を振り返り、《横書き》と《ネット向け》の文章表記 (エッセイ)

2021年を振り返り、個人的な《事情》から《作法》まで、noteに関連した記事を書かせていただこうと思います。 会社を退職後、頼まれ仕事(英語系、技術系、ライター系)を細々とこなしながら山歩きなどしていましたが、コロナ禍で身動きが取りにくくなり、原点のひとつである書き物を再開しようと思いました。 SNSはやめときなオヤジ、と警告していた長女から、これならいいかも、と薦められたのが《note》で、2月下旬から始めました。 基本は、 ➀ 昔発表したけれど、マイナーであまり読ま

《ESC社発 デコモニ・システム》の先進性を一席 (エッセイ)

昨日、またまた、かなり昔に書いたショートショートを投稿しました。 本エッセイは、その内容(というか、ビジネスモデルのアイディア)に関わる、少々自画自賛的エッセイです。スミマセン。 このため、その話「みんなディスプレイ」の最後に、 《初出:Materials Integration, Vol. 15, No.2 (2002)》 と余計なメモ書きを残してあります。 この話は、おなじみエレクトロニック・ショート・サーキット(ESC)社が開発した《額モニター》、通称《デコモニ》を使

誰かの「あったらいいな!」「こんなの欲しい!」は、誰かが実現する (エッセイ)

「再勉生活」中に研究室の同僚だった友人が、日本で工業高専の先生に就任し、この先生から2時間×2日がかりの「特別講義」を頼まれました。 これも、かなり前のことです。 学校で講義をするのは初めての経験だったので、なかなかうまく行かず、一方的な知識の伝達は、学生たちを退屈させただけでした。 翌年も頼まれたので、内容を見直し、知識の伝達に使う時間を半減させて、以下ふたつの「KAIZEN」を加えました。 ➀ 講義内容の材料を使った電子部品やデバイスを回覧して実演する、という《大道

先生に「先生」と呼ばれた学生 (エッセイ)

2年前の今月、工学部(卒論研究)と大学院(修士論文)で計3年間、担当教授としてお世話になった恩師が亡くなった。 先生はクリスチャンで、真面目で穏やかな人だった。学科の他の教授のように、権力争いをしたり、高圧的だったりすることが皆無だった。 修士課程進学と同時に結婚した僕は、その専攻でただひとりの既婚学生だった。 いわゆる披露宴は行わなかったが、担当教授からは、 「おめでとう。これ、少ないけれど」 とお祝いをいただいた。 そして、 「同じ松戸市内だからね。……別の面で《応