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彼女は嘘を愛しすぎてる

先に言っておくと、この物語は浮気に関するものです。今現在浮気、不倫をしている方は心して読んで頂ければ幸いです。



俺は一人暮らしをしているごく普通の大学生だ。
そんな俺には遠距離恋愛をしている彼女がいた。

彼女は容姿端麗で人望も厚く、まるで映画のヒロインのような人だった。中学時代から仲の良かった彼女とは高校2年で付き合うことになった。

友達付き合いも長かったためか、喧嘩や口論はほとんどなかった。自他共に認められる程仲は良かったと思う。
そんな俺たちにも何度か揉めたことがあった。その全ての原因が彼女の異性との付き合い、そう、浮気だ。


浮気―他の異性に心を移すこと『広辞苑』


浮気を疑うようになったのは、友達とご飯に行くと言って出かけた彼女の帰りが非常に遅かった時からだ。
いつもは何時に帰るか伝えてくれる彼女だったが、この日はLINEの返信こそ返してくれるものの、「何時に帰る?」と聞くと決まって「わかんない、友達次第」と返してくる。夜10時、11時、、、。時間だけが過ぎていく。待ちきれなくなった俺は電話をかけることにした。しかし、いくらかけても聞こえてくるのは発信音だけ。そして毎度のことのように不在着信の記録だけがトーク画面に現れる。

夜遅かったこともあり、いつの間にか気を失っていた。LINEを開くと、いつものように「おはよう!」の文字。ビックリマークを見た時、少し苛立ちを覚えた。
「昨日はなんで遅かったの?何時に帰ったの?なんで電話に出なかったの?」俺は怒りに任せて問いただした。
すると彼女はこう答える。「女友達と2人で飲みに行ってた。2時頃帰ってすぐ寝ちゃった。友達と一緒にいたから電話に出たら悪いかなって。」嘘をついてるとは思ったが、証拠もないし、疑って傷つけてしまう方が怖かった。

その2日後、俺は友人からあるメッセージを受け取った。「一昨日、お前の彼女が男の人と手をつないで歩いてるのを見た。」
一瞬脳みそが字の如く真っ白になった。その直後、心の中に今まで感じたことのない、得体の知れない何かが込み上げてくるのが分かった。

震える手で彼女にLINEを送る。
「一昨日、男の人と一緒にいたの?」
すぐに既読がつく。
「なんで?」
「俺の友達が一昨日、お前と男の人が手をつないでるのを見たって。」
「男の人といたことを黙ってたのは悪かったけど、手はつないでない!」
「その男の人は誰?」
「ただの男友達。手はつないでないし、一線も越えてない!これだけは信じて!」
およそ浮気女の常套句であろう言葉が並べられる。これじゃあ逆に、「私は浮気女です」と言わんばかりだろう。しかし、友達の話が嘘かもしれない上に、男友達といたってだけで浮気と断言するのは無理がある。だから確証を得るまでは浮気とは言わなかった。
ただ、彼女が嘘をついていたという事実が彼女への信用を奪ったことだけは確かだった。

それから、彼女の浮気を疑いつつも、それらしい言動はなく2ヶ月が経とうとしていた。

ある日、俺が彼女と家で遊んでいた時のこと。彼女のiPhoneでYouTubeを見ていると、一件の通知が届いた。

LINE
真 「来週一緒にご飯行かない?」

明らかに男だろう。でも、彼女と一緒にいたこともあり、それには触れずにYouTubeを見続けた。
しかし、いくら時間が経ってもあのLINEの相手だけは気になって仕方がなかった。
いけないことだとは知りつつ、彼女が席を外している隙に彼女のiPhoneに手を伸ばした。
いつも横で見ていたパスワードを入力する。非表示にされてはいたが難なくLINEのトーク画面に辿り着いた。

「来週一緒にご飯行かない?」
「行きたい!どこで食べよっか?」

完全にアウトだろう。信じられない、信じたくないという微かな気持ちも残ってはいたが、それとは裏腹に画面をスクロールする手は止まらない。

「今度一緒に御殿場アウトレットにいかない?」
「ごめん、彼氏にバレたら嫌だし、今はやめとく。」
「そっかぁ、連れ回したかったな。」
「連れ回してほしい!また今度行こ!」

頭に血が上っていくのが分かる。もう確信せざるを得ない。
そのまま、2ヶ月前のあの日まで遡った。

「今日はすごい楽しかった!ありがとね、真!」
「彼氏にキスしたとかハグしたとか言っちゃダメだよ?」
「言うわけないじゃん(笑)大丈夫!バレないようにする!まことも誰にも言っちゃだめだよ。」
「うん。2人だけの秘密だね。」

2ヶ月前の彼女の言葉は嘘だった。
気持ち悪いとしか言えない。
言ってなかったが、この真って人にも彼女がいたらしい。ダブル不倫、もとい、ダブル浮気だ。

そんなトークを呆然とした気持ちで眺めていると、彼女が帰ってきた。
「ただいまぁ〜」笑顔で部屋に入ってきた。
イライラする。この全てを偽った笑顔に。

俺は単刀直入に切り出した。
「お前、浮気してるだろ。」
そう言って、彼女のiPhoneを宙に掲げる。

「………ごめん。」

そう言って彼女は黙り込んだ。終いには泣き出してしまった。
泣きたいのはこっちだ、泣けば解決するとでも思ってるのか、そんな言葉を押し殺しながら次の言葉を探す。

「どんな流れでキスとかハグするの?」

単純な疑問だった。だって、お互いに恋人がいるんだから。

「キスもハグも相手が無理やりやってきた。キスは口じゃなくてほっぺに。」

どうせ嘘だ。誰にだってわかる。聞いた自分が馬鹿らしくなって喋るのをやめた。

静寂な空間の中、時計の針だけが次の言葉を急かすように音を立てる。

10分、いや、20分程経っただろうか。
彼女が口を開いた。

「これからどうしたらいい?」
「お前次第。」

ぶっきらぼうに答える。

「こんなことしたし、別れるべきかもしれないけど、今でもちゃんと好きだと思ってるからもう一度だけやり直したい。」 

涙ながらに彼女はそう言った。
俺は少し悩んだ挙げ句、条件付きでもう一度だけやり直すことにした。

他の男と連絡を取らないこと。真は当然として、今仲の良い男のLINEもブロックすること。男と2人で会わないこと。出かける時は誰とどこに行くのか伝えること。

恐らく、大多数の人が「重すぎ」とか「メンヘラじゃん」とか思うだろう。今の俺でさえ思うんだから。
ただ、当時の俺はここまでしてもなお、彼女のことが信用しきれなかった。

彼女の浮気があってから、今までは普通にできていた他愛もない話ができなくなってしまった。まるで初対面の誰かと喋っているかのようだった。
しかし、俺たちは次に遊べる日を楽しみに毎日を耐え忍んだ。2人の馴れ初めやデートの思い出を1つ1つ振り返りながら崩れてしまった積木をもう一度地道に積み上げていった。
あと1週間。ついにここまで来た。長かった。あと1週間我慢すればようやく安心できるし、また笑い合えるようになるだろう。
彼女も楽しみにしてくれているようで、
「遊ぶのすごい楽しみ!いつもありがとう、好きだよ!」なんてLINEをくれた。久しぶりに心から嬉しく思った気がした。

そんなことを思った次の日だった。祖父が亡くなってしまった。
当然、彼女と遊ぶことなんてできない。俺はそのことを彼女に伝えた。家族の大事だし、分かってくれると思っていた。
だが、彼女から届いたLINEは
「今はLINEしたくない。ごめん。」
これだけだった。
確かに、ずっと楽しみにしていたから辛いのは分かる。
ただ彼女には俺のことも考えてほしかった。

それから何日かLINEは届かなかった。

2年記念日前日、夜9時。彼女からLINEが来た。

「この数日考えたけど、このまま付き合い続けるのはしんどい。好きかどうかも分からなくなったし。」

俺はなんて返信したらいいか分からなかった。
1時間程悩んだ末に、

「浮気が発覚して以来一度も会っていなかったから、別れるにしても面と向かってがいい。」

と送った。
彼女からの返信は早かった。

「実は、真のことが忘れられないんだ。会ってしまって気が変わったら嫌だから会えない。」

彼女が先週言った「好きだよ」も、あの時流した涙も嘘だったのだろうか。無機質なメッセージからは何も感じられなかった。そしてまた1時間程悩んだが、もう何も浮かばなかった。

「そんなに真といるのが楽しかったんだね。もうこれ以上何を言っても響かないっぽいし、もういいよ。別れよ。」

別れるより他はなかった。
彼女からの返信は相変わらず早い。

「今までありがとう。これからも友達として好きだよ。幸せになってね。」

時刻はすでに0時を回っていた。皮肉にも2年記念日に別れることになった。


彼女はその日から、真と遊んでいた。
もう俺の元からは完全に離れてしまった。

今ではインスタやLINEは彼女にブロックされている。
きっと「友達として好き」というセリフは「嘘」という置土産だったのだろう。

もしかしたら彼女の永遠の恋人は「嘘」なのかもしれない。

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