文献レビュー(後編)生活期における短下肢装具の問題
こんにちは、義肢装具士のみうらです。
前回の続きで、生活期における短下肢装具の問題と再作製時の注意について書いていきます。
退院後の行き先によっておこりうる装具の問題
回復期リハビリテーションで装具を作製した患者の行き先としては、「自宅」か「施設」が考えられます。それぞれの行き先によって起こりうる問題について以下にまとめます。
【1】自宅における装具の問題
回復期リハビリで装具を作製して自宅に帰ると、装具の使用方法、装着時間などすべてが自己判断に任されることになります。
そのため、もし回復期リハビリで十分な装着練習がなされていなければ、装具の装着不良による、関節拘縮や歩容の悪化を容易に起こしてしまう環境であるといえます。
だからこそ、家族やケアマネージャーが装具に関して理解し、装具の使用状況を見守っていく必要があります。
【2】施設における装具の問題
近年、老健施設において装具を使った機能訓練が、セラピストによって適切に行われるようになっています。
さらに、装具の作製に関しても制度上は可能な状況にあります。施設における装具の作製に関しては、前の記事をご参照ください。
それでもやはり、施設においては自己装着ができるかできないかで、装具の使用に大きな影響がでるのが現状です。
介護士は終日、入所者の生活介護に追われているうえに、すべての介護士が正しい装具の装着方法を把握しているとは限りません。
施設職員が知っておくべきことは、適切な装具の装着によって「移乗時の安全性向上」「長期的に見た介助量の軽減」が見込まれることです。こういった、装具の利点を理解したうえで、装具の着用方法を把握し、装具を管理していくことが大事です。
回復期リハビリを終えた後の行き先が「自宅」であっても「施設」であっても、退院して数年たつと装具の作り替えが必要になってきます。身体状況の変化があった場合は、数か月で修理や再作製が必要になる場合もあります。
生活期での装具の作り替えに関する問題と注意点
生活期に装具の作り替えをする際、身体機能に大きな変化がなく同じ仕様で作り替える場合、トラブルは起こりにくいです。しかし、生活期においても身体機能は刻一刻と変化していくものなので、仕様変更が必要な場合が多々あります。
そういった場合に、本人・セラピスト・義肢装具士の間で認識の差があるとトラブルになりかねません。ここでは、そういったトラブルに対する解決策を紹介します。
【1】装具の仕様変更に対する受け入れの問題
生活期において装具の仕様変更が必要になった場合の多くが、制御力の大きい装具への作り替えではないでしょうか。例えば、足関節の緊張が高くなったり、痙性が強くなって膝のロッキングがでてきた場合は、底屈制動力の強い装具が必要になります。
その場合、制動力の強化に伴って装具の見た目が大きくなってしまうので、患者の多くが仕様変更に対して拒否を訴えます。
それに対して「自分が使用するものは自分が選択すべき」という考えもあるかと思いますが、セラピストや義肢装具士は専門職として、制動力の弱い装具を使い続けた場合に起こり得るトラブルについて、説明する責任があります。
例えば、足関節や足部の変形進行が予想される場合は、写真や動画で実際に進行した症例を見てもらう。または、患者自らの歩行を鏡や動画で客観的に見せることで状況を把握してもらうこともできます。
こういった助言を繰り返しうえで、それでもやはり今の装具を変えたくない、という方もいます。(特に、脳卒中による高次脳障害が伴っている場合は、いくら説明しても受け入れられない場合があります。)その場合は、経験上こちらの意見を押し通しても「結局は以前の装具しか使わない」ということが多いので、本人の許容できる範囲で仕様変更をするにとどめることが、得策かと思います…。
【2】使用中の装具に対する批判について
最後に、在宅における患者と義肢装具士間のトラブルの原因として、他の医療職(義肢装具士を含む)からの「現在使用中の古い装具への批判」があります。
ここで述べられているのは「どのような不適合の装具を見ても、患者の前で不用意に装具の批判をしてはいけない!」ということです。
この一文を読んで、私自身ハッとするところがありました。実際に生活期で装具の作り替えにあたっていると「なぜこのような装具を作ったのか…」と批判的な気持ちが沸き上がることがあります。
しかし、古い装具の批判をしてはいけない理由が以下のように挙げられています。
過去を否定するのではなく、現状に対しての建設的な話をしていくべき
当時の正確な状況や経緯は、患者や家族からの情報だけではわからない
義肢装具士への不信感が、今後作製される装具への不信感へとつながる
不適合の原因は、まず患者自身の身体状況の変化を疑うべき
装具への批判は患者の前で行うのではなく、義肢装具士へ行うべき
すべて、正論です。古い装具の批判を患者や家族の前で大袈裟に行うのは「自分自身の知識や経験を誇張したい」という思いが潜んでいるように感じます。
自分自身の過去の言動も含め、反省して取り組んでいきたい内容でした。
以上が生活期における装具の問題点と介入に関する注意でしたが、いかがだったでしょうか?
生活期においては、患者の性格や生活環境、身体機能と機能的予後を総合的に判断したうえで、装具を決めていく必要があります。
そのため、決して義肢装具士一人の考えで決められるものではありません。周囲の医療職と義肢装具士の連携が不可欠です。
今後もこのnoteでは、生活期における装具の介入例などを具体的に書いていこうと思いますのでよろしくお願いします。