見出し画像

もし、未来が変えられるなら『7話』

 塩おむすびを食べ終わると、僕たちはゲームセンターに向かった。LINEのやり取りで決まっていたのだが、なぎは行きたくないって言ったのだけど、僕がどうしてもプリクラを撮りたいと食い下がって、やっとなぎが折れて決まった。だから僕はゲームセンターに行くのが、無性に楽しみだった。LINEでは嫌と言っていたけど、実際は全然嫌そうじゃなかった。むしろ撮ったあとの落書きは、すすんでしているくらいだった。今日のなぎは髪型をサイドポニーにしていた。普段、見たことがない髪型だったので、すごく可愛く感じた。その髪型で出てきたプリクラは今でも大切に保管している。


 プリクラを撮り終わったあとはカラオケに行った。僕は歌うのが好きだ。なぎはどうなのだろう? なぎがちゃんと歌ってくれるなら(なぎの性格なら歌ってくれない可能性がある)僕は初めてなぎの歌声を聴く。LINEのやり取りをしてわかったことだけど、なぎと僕の趣味はかなり似ている。好きなアーティストも一緒だった。だから僕が好きな歌を歌ってくれるに違いなかった。


 僕はなぎも好きな曲を入れて歌う。歌いながらなぎの方を見ると、なぎは興味深そうに聴いていた。でも特に何も言ってくれない。普通の子だったら、お世辞でも上手いとか、いい声だねとか言うだろうけど。僕が歌い終わる。なぎは拍手もしてくれなかった。でも、それでもいいと思えるのが、なぎだ。今度はなぎが曲を入れた。僕も知っている曲だった。なぎは上手くもないけど、下手でもない。でも聴いていて悪くない。そんな歌声だった。僕はなぎがしないかわりに大袈裟に拍手をした。なぎは満更でもなさそうだった。なぎが歌っていて気持ちが良ければいい。僕はなぎがそう思えるように努力した。

 僕は今度はなぎが知らなそうな歌を入れた。ちょっと変わった感じの歌だ。曲が始まって僕が歌い出すと、なぎは面白そうに笑った。歌っているのに笑われるのは不本意だが、なぎが楽しいならそれでもいいかと思える。

「ははは! 何その歌?」

「ニジファブリックの宇宙」

「知らない。変な歌」

「そう? まあ確かに変な歌かも」


 今度はなぎも僕が知らない歌を入れた。でも知らないけど聴いていて心地よかった。そんな感じで、あっという間に時間は過ぎていった。僕はまだなぎと一緒にいたいと思った。でもだめだ。なぎは高校生だ。遅くまで一緒にいるわけにはいかない。

「そろそろ帰ろうか?」

「? まだよくない?」

「いや、ダメだよ。遅くなったらいけない」

「そう? じゃあ帰ろうか……」

「うん。帰ろう。また会えばいいんだし」


 そう言って僕たちはカラオケ店を後にして、なぎが乗るバス停まで歩き僕は、なぎを見送って別れた。なぎを乗せたバスが見えなくなるまで、僕はずっとそこに立っていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?