きーちゃんとの出会い(2)
前回の続きです。
(※ヘッダー画像は nimojiさんによる写真ACからの写真です)
保護猫or???
(長いです)
これまでの2件の募集は、いずれも里親募集サイトでの投稿とはいえ、保護猫活動をしている個人の方や団体の里親募集ではなく、いわゆる一般募集(飼い猫などを無償で譲る)というやつだった。
今回はまさに保護猫の里親募集で、「里親希望の方はまず実際に猫を見て頂きアンケートにご回答下さい。内容をこちらで審査し里親になって頂きたい方にのみご連絡します」と書かれていた。
わたしは悩んだ。かつては”お迎えするなら保護猫を”と思っていたはずだったのに、実際は保護猫の里親に応募したことは一度もなかった。
わたしは、里親募集サイトを見始めてすぐの頃から、ずっとモヤモヤしていたのだ。
「ペットショップで猫を買わないで下さい」
これは、里親募集サイトのトップページ、保護猫活動をしている方のブログ、動物保護団体のサイト、全てに共通して書かれている文面だ。
彼らが保護している猫たちの中には、野良猫や保健所に収容されていた猫たちの他に、ペットショップやブリーダーから購入されたものの飼い主の勝手な事情で捨てられたり飼育放棄された猫や、その子猫なども多く居るらしい。
例えば、垂れ耳が特徴のスコティッシュフォールド、短足が愛らしいと言われるマンチカンは、日本国内でダントツの人気があるが(参考:ペット保険会社アニコムの最新ランキング)、両種とも、その特徴ゆえに、先天的に病気を抱える個体が生まれてしまうことをわかっていながら交配されているという。
人気があって可愛いからと安易な気持ちで購入する人が増える。そうすると、売れる猫を生み出すためにタブー(垂れ耳同士や短足同士で交配してはいけない)をおかす悪質なブリーダーが増える。それらの猫種を販売するペットショップも増え、人気種の猫がどんどん「作られて」いく。
しかし、耳が垂れていないスコティッシュフォールドや足が短くないマンチカンは人気がなく、先天性の病気を抱えて生まれてきた子たちは「売れない」。
ショップに並ぶ猫はまだいい。
その陰で捨て置かれてしまう、たくさんの「売れない」猫たちがいる。そして、売れた猫たちの中にも捨てられてしまう子がいる。人間のエゴのために、たくさんの命が粗末に扱われているという。
ペルシャ猫も鼻が潰れている。突然変異で鼻が潰れて生まれて来た猫を近親交配して作られた種であり、スコティッシュフォールドやマンチカンと同様に、先天性の病気を抱える子も多い。
こういった猫達については「繁殖そのものが虐待」と書かれているサイトもあった。
そんな「可哀想」な猫たちを一匹でも多く救ってほしい。だから「ペットショップで猫を買わないで下さい」というのが、里親募集主の思いだ。
潰れた鼻と短い足をもって生まれて来たるーこ。生まれつき体が小さくて「売れない」と言われたるーこ。そんなるーこを「作った」くせに、余ったからあげるとわたしの妹のところに連れて来たブリーダー。
るーこは「可哀想」な猫だったんだ…
るーこが貰われてきた経緯を知った時は「血統書付きの猫って大変なんだな…体が小さいとショーにも出られないしペットショップに並ぶことも出来ないのか」とは思ったが、るーこのことを可哀想だとは思わなかった。
るーこはのんびりおっとりしていて、ショーに出て美しさをアピール!なんてタイプには思えなかった。そういうのはきっと、生まれつき気が強くてショーに「向いている」猫が出ればいい。るーこはうちに来てお気楽な飼い猫として過ごす方がきっと楽しいだろう。そう思ったからだ。
るーこは確かに身体は小さかった。でも先天性の病気もなく17年も生きてくれた。
毎日わたしの膝で喉を鳴らし、わたしの布団で爆睡し、窓際で日向ぼっこをしながらいつも満足そうな顔をしていた。
わたしも毎日るーこと一緒で楽しかった。幸せだった。
でも。るーこが「作られた」猫であることは紛れもない事実だった。
「可哀想」な「作られた」猫。
そう言われてみると、なんだか、るーこの猫生も、るーこと過ごした自分の思い出も、否定されたように感じた。
るーこは「可哀想」な猫だったのだろうか。
「作られた」猫たちはみんな「可哀想」なのだろうか。
私財や時間を投げ打って動物を保護する活動をされている方達は本当にすごいと思うし、保護猫を家族に迎えることで「捨てられるはずだったかも知れない命を救える」としたら、それはとても尊いことだと思う。
でも。
ブリーダーやペットショップで売られている猫たちも、保護猫たちも、命の価値は同じではないのか。
保護猫の里親になる条件はとても厳しい。まず単身者はダメ。所帯持ちであっても子供が未就学児の場合はダメだったりする。フルタイムの共働きもダメ、お留守番の時間が長くなるからだ。
るーこと暮らし始めた時、わたしは単身者だった。るーこがもし保護猫だったら、わたしはるーこの飼い主になることを許されなかっただろう。
るーこは保護猫になってわたしじゃない人に貰われた方が幸せだったのか?
保護猫の里親になれる条件を全て満たしている人たちに貰われていたら、もっと良い猫生を送れたのか?
幸せってなんだろう。幸せかそうじゃないか、誰が決めるんだろう。
里親募集サイトを眺めるたびにそんなことばかり考えてモヤモヤしてしまう自分。
わたしは保護猫の里親になるには「向いていない」のではないか。
自問自答の毎日に、わたしはすっかり疲れてしまった。
里親募集サイトを見るのはもうやめよう。
ある日とうとう2度目の決意をした、そんな時に目に入ったのが先の募集だった。
さっき売れちゃいました
まあ見てしまったものは仕方がない。
それにきっとまた断られるに決まっている。2度あることは3度あるって言うし。
次は思い切ってブリーダーを探すかペットショップに行こう。そう決めてわたしは指定の場所へと向かった。
これまでの2匹については夫にも都度相談していたが、またダメだったらまた夫もガッカリさせてしまうと思い、今回は何も話していなかった。ネットの里親募集で探すのはこれで最後にするつもりであることも。
方向音痴の自分にしては然程迷わずに着いたものの、目隠しされた扉を前に一瞬は躊躇した。が、どうせダメなんだし!見るだけだし!と思い直し、ドアを開けた。
すぐに物腰の柔らかい女性が出て来て「どうぞ、猫ちゃん見て行って下さい」と中に案内された。
「●●(里親募集サイト)の猫を見に来たんですが…」
店内の狭さに圧倒されながらも速攻で要件を告げる自分。
女性「どの子ですか?」
自分「白い…」
女性「あーーースコティッシュですか?」
自分「はい!成猫の」
女性「さっき売れちゃいました」
は?
はあああああああ???????????
どうせダメだろうと思っていたはずなのに、存外に大きなショックを受けている自分がいた。
ああ、また会えなかった。また門前払いだ。猫を見ることすら叶わないだなんて。
ムシのいい話かもしれないが、里親にはなれなくても猫を見ることは出来ると思っていた。
ひさしぶりに、実際に、猫を見られる。そんな期待は一瞬で裏切られてしまった。
この子にします
思いっきりガッカリしているわたしに、女性は他の猫の説明をしてくれた。
「こっちはブリーダー経由で仕入れた猫で、販売している子達になります」
あ…ここにいるのは保護猫だけじゃないのか。
改めて室内を見回すと、なんと10匹以上の猫がいた。その中の数匹だけが保護猫で、あとは販売されている猫だという。とても狭いスペースだったが、不思議とそれほど窮屈には感じなかった。
「どうですか?この子可愛いですよ!抱っこしてみますか?」と女性はとても気さくに勧めてくれた。けれど、ケージの中の猫達はほぼみんな寝ていた。
あはは…ほとんど寝てますね…と半笑いになりながら、一応全ての猫を見てみる。
ペルシャ猫はいなかったけれど、長毛のメインクーンやもっふもふのラグドール、マンチカン、ロシアンブルー、アメショーなど、実にいろんな種類の猫がいた。
ひっさびさに至近距離で見る、猫、ネコ、ねこ。どの子もみんなめちゃくちゃに可愛い。
夢中になって眺めていたら、販売猫のエリアからふと視線を感じた気がした。そこには、おじさんみたいな顔をした、縞模様の子猫がいた。
「この子ずっと寝てるから売れなくて」と女性が苦笑しながら猫に声をかける。
寝てるから売れないって斬新にも程が有るな…と思いながら一緒にケージを覗き込むと、その猫が突然目を開けて飛び出して来た。
ちっちゃい。
生後3ヶ月と表示されていたが、どう見ても1kgもなさそうだった。おそらく成猫になっても3kgに届くかどうかだろう。るーこもそうだった。
金色に若干グリーンが混ざったような瞳が、じっとこちらを見つめていた。
「抱っこしてみてもいいですか?」
るーこがいなくなってからわたしは猫に触れたことは一度も無かった。るーこ以外の猫を抱っこしたいと思ったことも無かった。でも、なぜか、この子には触れてみたいと思った。
ちっちゃな猫は、膝に乗るなりわたしの腕を引き寄せてザリザリザリザリと指を舐めて来た。
彼は、垂れ耳のスコティッシュフォールドだった。
この子の親猫はタブーをおかして交配されたのかも知れない。これから骨に異常が出るかも知れない。体も小さい。売れない。
里親募集サイトで何度も見た「可哀想」という言葉たちが瞬時に頭の中を駆け巡った。
「この子、今日、連れて帰れますか?」
わたしは猫を下ろしてすぐに夫に電話をかけた。
「猫、決めたから。迎えに来てくれない?」
(3へ続きます)
もしも万が一サポートを頂けたら、猫のごはんやおもちゃを買います!そしてレビューを書きます!もしくは、生活が元に戻ったら双子と女子旅をしたいので、旅先でへんなものを買ってその記事を書きま(文字数)