食事

施設での食事は、毎食一食ごとに300〜500円ほど発生している。3食出してもらっている人から、朝食と夕食だけ出してもらっている人など様々。

私は朝が弱いのもあって、昼食と夕食だけお願いしている。

ただここ数日は、食事をキャンセルしている。

今日もつい数分前に夕食となったが、食堂に行った途端に食べる気が失せ、食前後に飲む薬だけもらって部屋に戻ってきた。昼食もそうだった。

自分でこうなった原因を考えてみたが、いまのところ考えついたものは2つある。

1つは「大して動けもしないのに飯だけ食らうなんて、デブのそれすぎる」というもの。

健常者だったときは、毎日2〜3kmは歩いていた。いまは歩くことはおろか、自力で立つこともできない。それどころか、リハビリは週1回に大幅に減り、体を動かす機会はほぼない。自分で行うリハビリもたかが知れているし、長くやろうとがんばっても数十分で終わる。

日々の運動量はゼロに等しい。そんな自分が物を食べる怖さが日に日に増しているだけ。もちろん、面会で差し入れられた食べ物は、喜んでいただくしそれがコミュニケーションのひとつだとも思っているから平気。もっとも、月に1回ほどしか面会は無いので、罪悪感もほぼ無い。これが1つめの理由。

もう1つは「他人が大勢居る中で食事を摂る事が辛くなってきた」というもの。おそらく、これが一番大きい。

前提として、鬱のせいなのか前頭葉の損傷のせいなのか、何かに対してイライラする事が増えた。そのせいで、他人と関わる時間を意識的に減らしている。できるだけひとりで済ませられることは他人を介さないようにしているし、デイサービスに誘われているが、今の私にはもってのほかだと思っている。

そんな中で少しずつ、他人の中に居ることが怖くなってきた。他の入居者がもそもそと食事を摂る中、私も無言で食べ進める。

職員が忙しく配膳だの薬の手渡しや確認に勤しむ様。苦手な職員の声。認知症の入居者は職員が部屋まで迎えに行って、食べ終わり次第また部屋まで送り届ける。そのバタバタとした一連の光景。調理場から聞こえる食器を洗う音。職員同士の明らかに同僚を貶めるような会話。飛び交う会話の内容から私が食事に来た最後の入居者だったと分かると、少し食堂に来るのが遅かっただろうかと申し訳なくなる。

その感覚が少しずつハッキリしていくにつれ、早くこの場を去りたいという気持ちが強くなってきた。"出された物は食べ切る"という教育の元生きてきた為、食事を残すなんてあり得ない。急いで食べ切って、気持ち悪くなって部屋に戻ってから吐く。そんな日が続いた。

叔母には食事の回数を減らしたい、昼食でも夕食でもいい、と伝えたが「せめて食事くらいしっかり摂って」と注意された。

改めて叔母にその希望を伝えたいが、卵巣ガンの治療中で、子宮を全摘出したばかりの叔母にこれ以上あれこれ伝えるのが心苦しい。それなら嘘でも「施設で元気に過ごしてる」と思わせた方が良いと思う。

もちろん叔母を介さず食事の回数を減らしたいと掛け合えるなら、既にそうしている。しかし私は自殺願望を持って飛び降りた身。鬱病でセルフネグレクトの気がある事から、こういった希望は全て叔母を介して施設が決定する。

前述した通り、食事は一食ごとに料金が発生している。お金がもったいない。自分でもそう思う。食べなかった分の食事で、そろそろ5000円分ぐらいになる。毎月の支出から5000円を浮かせられるなら、是が非でも浮かせたい。だからこそ、自分がすごくもったいない事をしているのはよく分かる。だがどうにも、どうにもならない。

そうは言っても、一応腹は空く。食事を拒んで、部屋で紅茶やスープを飲んでそれで満足している。馬鹿だと思うが、不快さと都度の嘔吐に比べればまだマシだと思っている。

早く一日が終わるように、職員によって管理された適切な量の睡眠薬でずうっと眠っている。

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