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そうだ!大地の方舟に乗ろう

前のおはなし

「レディース エンド ジェントルメン!
エーンド オルフェアの チルドレン!
そして……
勇敢なる旅人 ぱんイチ!!」

いきなりスポットライトを浴び、目を細める。
壇上のナブレット団長は集めたオルフェアの住人たちにこの人こそ英雄だとボクを紹介する。なんだかむず痒い。

団長は笑顔から一転、憂いた表情で話し始める。

「皆様に まずは お詫びを
申し上げねば なりません。
魔物から 隠すためとはいえ
オルフェアの子供たちを さらい
まことに 申し訳ございませんでした……」
ナブレット団長は団員ともども深々と頭を下げる。

「皆さまを お騒がせした
おわびとして……
当 ナブナブ大サーカス団は
本日をもちまして 解散!!
私も 町長の座をしりぞき
このオルフェアから 出ていきます!」

宣言にざわつく住人たち。対称に団員たちは事前に聞かされていたのだろう、静かに見守っている。
「サーカスをやめないで!」
騒然とした場内がひとりの子供の声で静まり返る。
その声に子供たちは次々に
「さらってくれなかったら、ぼくたち魔物に食べられてたんだ」
「ナブレットさんはいいことをしたのよ!」
と庇いだす。大人たちもそれに倣い団長を激励する。
サーカス小屋の中は温かい声援に包まれ、ナブレット団長は静かに涙を浮かべていた。

団長は「そこまで言われちゃあ」と解散を撤回し、ボクをステージに呼ぶ。
「そんなっ!演芸チャンピオンだからってリハもなしに…」
と渋る風を見せると「そうじゃねえよ」と大きなアクロバットケーキが運ばれてきた。

「えんりょしないで 召し上がりやがれっ!!」
団長はボクの背中を押す。押された勢いでケーキに飛びつくと、口の中にガツンッと硬いものが当たる。
「イテテ…何か噛んだ…」掴み上げると、それは白のキーエンブレムだった!

白いのって実はクリームじゃ…

「これって……こんな扱いしていいものじゃないよね?」
「おっと!まだ、中に大陸間鉄道パスも残ってるぜ!」
「……やだ、ベタベタするわ」

クリームにまみれた品々を抱え、ボクは拍手で見送られた。苦笑いしかできねぇ…

さて。 これからどこへ行こう。
テントを出ると鍛冶職人レポッチがおずおずと声をかけてきた。
「あ、あの…ピプゼールの魔法の道具を作ってもらうのって…」
「……あっ!」

団長に頼まれ、ミュルエルの森へ向かう時にそんなことを頼まれた気がする。
……今は無理って断った気もするんだけど。
うーん。ピプゼール…ピプゼール…そういえばミュルエルの森で出会ったおじいさんがそんな名前だった気がする。
お爺さんはヘトヘトになりながら走ってたボクを見かけて、薬草茶を振る舞ってくれたのだ。ナブレット団長に頼まれた話をすると、まだ団長が団長ではなかった頃の話をし、一枚の古い写真をくれたのを思い出した。
…イチかバチか…その古い写真をレポッチへ渡してみる。
「この写真は……若い頃の ナブレットさん?」
レポッチはまじまじと写真に映る必死なナブレットを見ると、そうか…と納得したように頷いている。
「ナブレットさんが ケーキ屋で成功したのは
魔法のおかげなんかじゃなくて……
成功したいと願って 必死でがんばったからだ」
「そうそう!!じいさんもそう言いたかったんだよ!」
ボクが適当にそういうと、レポッチはここでもっと頑張ってみるよと礼を言う。
なんとか誤魔化した…けれど、実際そうなのだろう。
裏通りのケーキ屋で成功できた努力や勤勉さがあるからこそ…
アルウェ…王妃ちゃん様…に「サーカス団をやって」と無茶を言われても成功できたのだ。皆に慕われる団長であり、町長なのだ。
オルフェアの町の英雄、三日月の紋章のプクリポはすごかったな…
ボクは町の中心にあるサーカステントを振り返り、そう思った。


駅の扉を開けようと手を伸ばす。
すると、その手をガッと掴まれ体が跳ねる。
先ほどまでのレポッチとのやりとりを見られていたのだろうか…
「哀れな老人の願いも聞いてもらえんかのう?」
フッフプという老人は町の東側にあるビッグホルンのメンテナンスのためウェナ諸島まで行ってポムポムボムからポムポムオイルを採ってきて欲しいという…
「ポムボムは…格下レベル42なんだが…」
「困っていたところに お前さんが来てくれて……
わしってば なんて ラッキーボーイ!
じゃあ よろしくね! キャピ♪」
一方的に依頼されてしまう。
なるほど、次の行き先はウェナ諸島でもいいだろう。
……ポムボムと戦うかどうかは置いておいて……
ボクは駅へ足を踏み入れた。

大地の箱舟……どこかで見たことのあるこの乗り物は600年程前にイザクというドワーフが世界を一周する鉄道を作りたいと、ひとりでレールを敷き始め作られたそうだ。
「…魔空界の何かとか…封印されてないよな…」
と少し不安を覚えながら列車に乗り込み、空いている席へ座る。
車窓から流れる景色を眺めていると、通路側に気配を感じた。

見知らぬ老人にまじまじと舐めるように見られている。
なんだこいつ、気持ち悪いな…と老人の方を見る。

生き返リスト…

なんでそんなことがわかるのだろうか。訝しむと
「ホッホッホッ……図星かね?
なんで そんなことが わかるのかと
聞きたいようじゃのう?」
サトリかのようにこちらの思考を読む。

「わしの名は 放浪の賢者ホーロー
このアストルティアに
知らぬことなしと うたわれる
賢者の中の賢者じゃよ❤︎」
「そういう感じの賢者、もう既にひとり会ってるんですけど…」
対抗しているのだろうか?
ホーローにはボクが「生き返リスト」だと一目瞭然だという。暗に、ラーの鏡を使うエイドスより上だと言っている気がしてならない。

ファイッ!

ボクはホーローに聞かれるままに名乗ると「いかにも エテーネの民らしい」と言われる。
ホーローはエテーネの存在を知るようだ。

「……そう お主の故郷 エテーネの村は
冥王ネルゲルの手で 封印されし大地
レンダーシアの真ん中に 位置しておる。
そして 勇者覚醒の光が 放たれたのも
レンダーシア…… そう。
おぬしは かの地を目指さねばならぬのじゃ!」

そのために何をすべきか…ホーローは「まずは各地でキーエンブレムを集めて実力を示せ」という。

「時にお主はどこまで行くんつもりじゃ?」
「頼まれたこともあるし…ウェナ諸島ですかね」
他愛ない話をしていると「次は〜 岳都ガタラ〜 ガタラ〜」とアナウンスがかかる。
「では 今日のところは お別れじゃ。
運命の線路が交差するとき また 会おう!」
別れの言葉と共に席を立つホーローについて席を立つ。
「なんじゃ、お主の降りる駅はジュレットじゃぞ?」
まだアストルティアの地理に慣れておらんのか?と地図を開こうとするホーローを制す。
「おじいちゃん。ガタラには…キーエンブレムより大事なドルボードがあるんですよ」
ホーローは「そういうことは知っとるんじゃな」と呆れた顔でボクを見ていた。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
やだ ベタベタするわ
シャボンディ諸島のヤルキマンマングローブから出た樹脂を触った(そして人に擦りつけた)ニコ・ロビンの台詞。
鉄道パスは高価なものなのにクリーム塗れにするなんて、ひどい事するわ…

魔空界の何か
ドラゴンクエスト9に出てくる「魔空5兄弟」の長女、フォロボシータ。
大地の箱舟にそっくりな天の箱舟に封印されている。
なぜこの箱舟が瓜二つなのかなど、9と10の関わりは徐々に明らかにはなるのだが…「はっきりするまでオンラインやめられねぇぜ!」と結局ver.6まで来るとは
思わなかった。6にはイザヤール師匠が出ますん。

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