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そうだ!誘拐犯を捕まえよう

前のおはなし

「おや ぱんイチか。
どうだった? 銀の丘で
ナブレット団長には 会えたかい?」
オルフェアで会うはずだと言う言葉に、サーカス小屋に戻ってみるとハカルが迎えてくれた。

「こっちに戻ってくると思ったんだけど…」
「いや……。今のところ サーカステントには
ナブレット団長は 戻ってきていないが……」
銀の丘で起こった出来事を話していると、団員のひとりホホップが転がり込んできた。

「た たいへんだ!!
空が! 不気味な色に!!」

慌てて団員たちと外へ出る。すると、不気味な声が町に響き渡った。

空には槍を構える悪魔の姿があった。
「約束の 15年目だぞ アルウェ!!
この悪魔ザイガスとの契約
忘れたとは 言わせんぞ!!
さあ! オルフェアの子供らの命!
すべて この私に 差しだしてもらおうかっ!」

悪魔の言う「アルウェ」とはナブレット団長の妹のことだろうか。団長の話では既に故人だったはずだ。

「き 貴様ーっ!!
町内侵入罪で タイホするのであるっ!!」

威勢良く吠えるパクレ警部を、ザイガスはジロリと一瞥する。

そういうところだぞ!パクレ!!

ザイガスは辺りを見回し…気付く。
「だましたな! アルウェぇえええ!!
この町には 子供など
ひとりも いないではないかっ!!」
「……おどろいたぜ。
何もかも アルウェの言ったとおりじゃねえか」
怒りに震えるザイガスをあざ笑うかのようにそれは現れた。

「オルフェアの ガキどもはなぁ……
このオルフェアの町長いして
ナブナブ大サーカス団長の ナブレット様が
ぜーんいん さらっちまったのさ!!」

ザイガスは「ゆるさんぞ」と火球を放つが、団長はそれを躱し「ガキどもの居所が知りたければ俺を捕まえてみろ」と挑発する。
ザイガスは火球を撃ち続けるがナブレットもひらりひらりと躱し続ける。ナブレットはこちらに気付くと「手を貸してくれ」という。
ミュルエルの森にあるフォステイル広場でザイガスを倒して欲しいのだそうだ。

なんでみんな演芸チャンピオンに腕っぷしを求めるのか

彼の団員たちからも託されミュルエルの森へ急ぐ。
すると、町の入り口で鍛冶屋のレポッチに話しかけられた。
「あ、あのすみません!ミュルエルの森に行くならピプゼールさんという伝説の職人に魔法の道具を作ってもらってきてもらえませんか?
場所が悪いのか、工房に全然お客さんが来なくって……」
「すんません!今、そんな場合じゃないです!!」


フォステイル広場に向かうと、既に団長とザイガスが対峙している。
「貴様! オルフェアの子供たちを
どこに隠したのだっ!?」
「悪魔のダンナよ。
そいつを知りたきゃあ……
この俺を 倒してみるんだな!」
団長の挑発にザイガスは「この森ごと 焼きはらってくれるわ」とこれまでになく大きく息を吸い込み火球を放つ。
しかし、その火球はオルフェアの町で放ったものよりもはるかに小さく、広場には小火すら起こらない。
団長は得意げに鼻を鳴らし、広場に佇む像の上へ飛び移る。
「ふん……。
もう 逃げられんぞ……」
と渾身のチカラを込め、ザイガスは炎を吐く。
すると像から聖なる光が発し炎を跳ね返したのだ。

聖なるバリア ーミラーフォースー

フォステイル広場――プクリポの英雄と呼ばれるフォステイルを祀ったこの場所は、プクリポのための聖域である。ここでは彼のチカラであるかのように、プクリポに仇なす存在のチカラは大きく削がれるのだ。

「貴様……謀ったな!?」
ザイガスが気付いた時にはもう遅い。
「今だ! ヤツを 倒すんだ!!」
団長はボクにそう叫んだ。
「ちょっと待って!そっちに行ってミラーフォースの恩恵にあやかりたいんだけど!!」
有無を言わせず、戦いの火蓋が切って落とされた。

「旅人は 来た……。
……まだか! まだ 現れないのか!
三日月の紋章は!!」
ナブレットは険しい顔で戦況を見つめる。
そして何かに気付き

「アルウェ! お前の予言は
わかりづれぇんだよ!!」
団長は一言空に吠え、こちらへ加勢した。


「おのれ……いまいましき プクリポよ……。
……やはり…15年前……
子供をすべて……食っておけば…よかっ……」
そう言ってザイガスは倒れ、地に着くまでに塵となって消えていく。
見届けると、団長はこちらへ振り向き「そういや まだ名前を 聞いてなかったな」と手を差し出す。
握手を交わし、名乗ると「じゃあ おめえが プディンの恩人か!?」とナブレット団長は驚き頭を掻いた。

「こいつぁ……俺の妹の 遺言なのさ」

ナブレット団長はオルフェアの町で起こった始終を話し始めた。

団長には何年も前に死んでしまった年の離れた妹がいた。
その妹は小さな頃から予言のチカラを持っていたらしく、15年前にナブレットに言ったのだそうだ。
当時、ケーキ職人として成功をしていた兄に「サーカス団を始めて」と。

「アルウェね わかるんだもん。
15年後にね 銀の岡に来る
2人は すっごい強いの!
ひとりは 旅の演芸チャンピオンさん
もうひとりは 三日月の紋章のプクリポ」

ザイガスとの戦いのさなか、団長が待っていたのはこの「予言」のプクリポだったのだ。「このふたりが チカラを合わせれば 悪魔ザイガスだって 倒せちゃうかも」と妹の予言を信じていたのだ。

サーカス団を始めて15年経ったら、オルフェアの子供をみんな攫ってほしい。
ザイガスをこのフォステイル広場へ誘き出せば、その頃に現れる旅人が悪魔を倒してくれる……と。

「……おっと。こうしちゃ いられねえ。
くわしい話は 後回しだ。
銀の丘へ ガキどもを 迎えに行くぜ!!」

子供たちを襲う脅威は去ったのだ。
これ以上、彼らを不安にさせるのはいけないとナブレット団長と共に銀の丘へ向かう。

「悪かったなあ ガキども。
もう だいじょうぶだ。
そこから 出てきていいぞ!!」

自動ドアだったのか…

その言葉に反応したのか、これまでビクともしなかった扉はひとりでに開く。
わらわらと駆け出す子供たちの中、プディンは笑顔を浮かべる。

「扉、勝手に開くんだね…」
「言ったろ? この扉は
開くべき運命の時だけ 開く……って。
ぱんイチ。おめえが 悪魔ザイガスを
倒してくれたから こうして 扉は開き
ガキどもは おうちへ 帰れるんだ」
ありがとよと団長はボクの肩を叩くと、プディンも「また助けてもらっちゃったね」と嬉しそうに感謝を述べる。

「……ねえ 団長さん。
どうして オルフェアの町の子供を
悪魔は 食べようとしたの?」
プディンがそう聞くと、団長は一呼吸置き、「昔話をしてやろう」と話し始めた。


15年前、ケーキ屋の看板娘だったナブレットの妹アルウェは予感し、ここ銀の丘に来たそうだ。
銀の丘でこの扉を発見すると、扉はひとりでに開き、フォステイルというプクリポから「なんでも願いがかなうノート」をもらったという。
ノートに書ける願いごとは3つ。その3つめの願いを書いた時、その者は破滅するという恐ろしいノートだ。
アルウェは効果を確かめるため「本物のお姫様になりたい」と願いを書いた。
すると翌日、メギストリス城からの使いがアルウェを王の妃へ迎えたいと訪れたのだという。

城で暮らしていたある日。アルウェの前に悪魔ザイガスが現れたのだ。
「お前は 予知のチカラを持つ娘……
アルウェに まちがいないな……?」

悪魔にこの態度である

かわいいアルウェ王妃ちゃん様の言葉に怯みながら、ザイガスは続ける。

素直だな、お前…

「……この大陸の どこかに……
プクリポの救世主が 生まれているはず……。
そいつの居所を 予知してもらおう……」
彼ら悪魔は、5種族の中でもひときわ魔力の高いプクリポを食べることで自身の魔力を蓄える。そのため救世主が現れることをとても恐れているのだ。
アルウェは「やだぁ」とゆるく拒否するが、ザイガスはチカラに任せアルウェを威迫する。

「………救世主くんは………
救世主くんは まだ 生まれてないの」

アルウェは恐るべき災いが迫っていることを悟り、話しはじめる。

「……救世主くんは まだ いない……。
でも もうすぐ……
これから 15年の間に
オルフェアのどこかで 生まれるの…」

アルウェは予知をした交換条件だとザイガスに要求する。

「15年よ。15年間 ぜったいに
オルフェアの子には 手を出しちゃダメ!!
15年経ったら オルフェアの子を
全員 食べちゃえばいいわ!!
でも それまでは ぜったい……
ぜったいの ぜったい ダメなのっ!!」

アルウェの予言に満足したザイガスは、15年くらいならと闇へ消えていく。
彼は…帰って怒られたりしなかっただろうか…
「生まれてないなら、先に親始末したらいいんじゃない?」とか「条件聞く前に契約しちゃったの?」とか上司に詰められていないだろうか…
彼の敗因は……終始、素直なところだったのだろう。

彼はこの後、上司より減給を言い渡された(史実)

その後、アルウェはオルフェアでひとり息子のラグアス王子を産んだのち、住んでいた別荘もろとも、ひと晩でミイラのように干からびて死んだと言われている。

「おおっと。ついつい 長話になっちまったぜ」
ナブレット団長は話をやめ、後でサーカステントへ来てほしいとボクに言うと子供らを引き連れて銀の丘を後にした。

アルウェ王妃はノートに3つの願いごとを書いたのだろうか。
不思議な扉に目をやり、町の方へ向きなおると…パクレ警部が「悪漢ナブレットのアジトはここか!?」と駆けてくるのが見えた。
「神妙に お縄に かかれいっ!」
勢いよく扉へ飛び込み……そして、静かに扉は閉じたのだった。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
ミラーフォース
「聖なるバリア -ミラーフォース-」。遊戯王の罠カードである。
攻撃表示にしたモンスターを全部破壊するという、初期のぶっ壊れ性能のカード。因みにこのカードがはじめて出てきたのは、あのインセクター羽蛾戦。

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