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そうだ!サーカスを観に行こう

前のおはなし

オルフェアに着くと「ここまで来るのは 大変だったでしょう」と町の住人から労われる。
本当に…レッドアーチャーと出会ってから…うさぎに追いかけられ…
「お前、絶対アルミラージの皮を被ったゴールデンコーンやろ!」
と逃げ惑いここまでやってきた。疲れた…これは町を素通りしてでもガタラに行かなければ…駅に向かおうとして思い出す。賢者エイドスから大陸横断パスをもらっていない。
「何それ…ガタラ大勝利じゃん……」
絶望と疲れが相まり、膝から崩れ落ちると心配そうに住人が駆け寄り「サーカスでも観て疲れを癒せばいい」と教えてくれた。

今日は町の「ナブナブ大サーカス団」の特別公演だそうだ。宿屋や酒場で冒険の手続きをしている時もサーカスの評判が聞こえてくる。名をあげようとキーエンブレムの場所を聞く他の冒険者にもサーカスに行けと勧めている。
どうやらプディンもそのサーカスの一員として頑張っているらしい。それは是非観て行かなければ。気を取り直し、ボクはサーカス小屋を訪れた。


空中ブランコに綱渡り、玉乗りにピエロのジャグリング…目眩く演目に歓声が絶えない。

「レディース エンド ジェントルメン!
エーンド……
オルフェアの チルドレン!!」

ステージにスポットライトが当たる。
次の演目が始まったのだろうか、ド派手なスターコートに身を包んだプクリポが誇らしげに客席を見渡している。

「本日は 当 ナブナブ大サーカス団の
15周年を祝う 特別なショーへ
ご来場 まことに ありがとうございます!」
謝辞を述べる男にヤジが飛ぶ。
「よっ! 待ってました!!
オルフェア町長っ!
いや ナブナブ大サーカス 団長っ!!」
なるほど。キーエンブレムを求める冒険者に「サーカスに行け」と言うわけだ。キーエンブレムはその都市の権力者から貰えるもの。町の一番の権力者がこのサーカス団の団長なのだ。

団長と呼ばれたその男は不敵な笑みを浮かべる。
「……お集まりの 皆さま。
本日 最後にお見せする この奇術は
15年目の この日に 相応しい
とっておき中の とっておき。
どうぞ 目をこらして
よーく ごらんくださいませ」
パチンと指を鳴らしたのを合図に、無料招待されているオルフェア中の子供たちに順にスポットライトが当たる。
「このサーカスを 観ている
オルフェア中の子供たちを……
いっしゅんにして!
……消してごらんにいれましょう!」

ステージ上の男はカウントダウンを始める

フッと場内は闇に包まれ…次に明かりがついた時には、壇上の男の姿も客席中の子供たちも1人残らず消え去っていた。

「すばらしい! 見事に 子供を消し去るとは
さすがは ナブナブ大サーカス団!!」
先ほどのヤジを飛ばした人物ーー住人によるとパクレ警部というらしいーーは絶賛する。
「うちの子 どこに消えちゃったのかしら?」「おいおい どうなってるんだよ?」絶賛するのはパクレ警部ただ1人、住民たちは事の異常さに響めいている。

団長の高笑いが響く。
「レディース エンド ジェントルメン!!
当 ナブナブ大サーカス団の
15周年を記念する 最後の大奇術。
お楽しみ いただけましたでしょうか?
残念ながら オルフェアの子供達は
もう 戻っては きません」
姿の見えない団長の宣言に住民たちはふざけるなと口々に抗議する。
流石にパクレ警部も「……ゆうかい事件では……?」と気付きごくりと息を飲む。

「苦節30年!! ワガハイこと パクレ警部の
優秀な頭脳を オルフェア中に知らしめる
ビッグなチャンスが やっと おとずれたっ!!」

オルフェアが犯罪のない平和な町…というわけではない。しかし、この世界には「警察」のような組織はなく「警部」という肩書きは彼の自称である。
実際のパクレは高利貸しから逃げつつ、優秀な自警者を夢想する町の変わり者だ。

「たった今 オルフェア中の子供たちが
ナブレット団長に さらわれてしまいました!
しかし ご安心めされい!
このパクレ警部が かならずや!
子供たちを 取り戻してみせますぞ!!」

皆に宣言すると、自称警部はサーカス小屋から飛び出したが住人たちはそれを気に留める様子もない。
ボクはまだ幼いプディンの安否が気になり、サーカス小屋の控え室に通してもらう。控え室では先ほど飛び出して行ったパクレ警部が団員に詰め寄っていた。
団長は奇術で消えてしまい、どこにいるかわからないと団員たちが説明するも警部は取り合わず逮捕だ逮捕だと喚いている。

そこへ、プディンが「待ってください!!」と駆け寄ってくる。

「おお。子供ではないか!
悪漢ナブレットから 逃げてきたのだな!」
「ちがうよ! ぼくは さらわれてないよ!
それに……ナブレット団長は
子供をさらったりする人じゃないもの!!
団長さんは この町の しんせきに引き取られた
ぼくを 団員にしてくれた。いい人なんだよ!
子供をさらうなんて なにかの まちがいだよ!」
消えた団長を庇うプディンに、自称警部は「さては 貴様も共犯だな!?」と詰め寄る。何を考えてるんだ、とプディンのそばに向かおうとすると、
「そうか……うっかりしてたぜ」
とどこからか派手なスターコートに身を包んだ団長が控え室に現れていた。

「団長っ! いつのまに!?」驚く団員たちを尻目に団長はプディンに向かう。
「プディン。よその町から来た おめえも
今じゃ すっかり オルフェアの子供だ。
おめえを忘れてちゃあ 意味がねえな」
言うが早いか、プディンをヒョイと脇に抱え、
「今度こそ オルフェアの子供は
全員 さらったぞっ!」
と一瞬の内に消えてしまったのだ。
パクレは怒りに身を震わせながら、団長を追いどこかへ走り去っていく。
嵐のような出来事が過ぎ、団員たちはやっとこちらに気付く。
オルフェアから来たこと、プディンの知り合いであることを伝えるとハカルと名乗ったその団員は「プディンからよく聞いているよ」と何かを思い出したようにプククと笑う。何を伝えたんだろう…少し心配だ。
こちらの不安げな顔を見てハカルは「そうだよな」と呟き
「……ナブレット団長が 行きそうな場所に
心当たりが ないわけじゃない」
と「銀の丘」という場所のことを教えてくれた。あ。今、プディンじゃなくて自分の名誉を心配してました。

「ちょっと ハカル!?
こんな どこの馬の骨とも わからないヤツに
教えちゃっていいの!?」
「ナブレット団長が言ってた 例の旅人ってのは
もしかしたら こいつかもしれない。
……そんな気がするんだ」

やはり彼らは騒動が起きる前、団長になにかを聞いていたようだ。
子供たちを攫うことは知らなかったとしても、きっとパクレ警部の言う「共犯」には値するのだろう。

「俺は プディンを心配してくれる
この人に 賭けてみるよ」

ボクは一言ありがとうと告げ、銀の丘へ向かった。


白銀色に覆われた丘の上に子供たちとナブレット団長はいた。
そこに立っている不思議な扉を開けると、団長は子供たちを押し込める。
「ど……どうして? 団長さん!
団長さん あんなに 優しかったのに……。
いつも おいしいケーキ焼いてくれたのに……。
どうして こんな ひどいことをするの!?」
プディンは精一杯の抗議を団長に向けるが団長は「もう 時間がねえんだよ」と呟くとプディンを扉の向こうへ放り投げ、閉じてしまった。

扉に向かいぽつりと呟く。

ボクは一歩、団長のいる扉へと近付く。
草を踏む音にナブレットは振り向きもせず「誰だ?」と問いかける。

「いや いい……。 なにも言うな。
おめえの種族を 俺が 当ててやろう。
おめえは プクリポの……
演芸チャンピオン……そうだな?」

そう言って振り向くと「やっぱりな」と笑いかけ
「これで あとは もうひとつ
三日月の紋章 か……」
と独りごちた。

「子供たちは…」
「ガキどもは あの扉の中に 閉じ込めた。
今は 絶対に 開かないぜ。
なにしろ……開くべき運命の時にのみ開く
不思議な扉だ……って
死んだ妹が 言ってたからな」

なにしろ、その扉はうちの妹のお手製ですからね!
妹自慢に乗っからなければと本題を忘れそうになっていると、
団長は「次は オルフェア で 会うことになるだろう」と銀の丘を後にした。

扉の中から「ここから出して」と泣き叫ぶ子供たちの声が聞こえる。
ボクは扉に触れると「プディン、もう少し待ってて」とオルフェアの町へ踵を返す。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
ガタラ大勝利
当初、ドワーフプレイヤーも少なく、種族に関わらず住むことができる住宅村もその利便性から過疎地となっていた岳都ガタラ。
各地の人口調整なのかガタラ関連の有利な出来事があると都度、コアなガタラファンたちからは「ガタラ大勝利」と叫ばれていた。
なお当時のプロデューサー齊藤陽介氏がドワーフ推しだから優遇されたのでは?と疑う声もあった。

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