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そうだ!けがれの大ちゃんと戦おう

前のおはなし

プディンの元に帰ると、彼は安堵の表情で駆け寄ってきた。

外に出ただけで倒れる虚弱体質だと思われてるかもしれない

この身体の主との間に何があったのかプディンに尋ねると「やっぱり自分のせいだ」とプディンは泣きながらも話してくれた。

プディンはけがれの谷に出る魔物に両親を殺されて以降、泣いて暮らしていた。親戚の迎えが来るまでと引き取っていた夫婦も心配しており、村長もプディンを元気付けようと渾身のギャグを披露していたが、プディンはどうしても笑うことができなかった。村長がサムい…というわけではなく、村一番の面白野郎であっても結果は同じ。プディンは笑うことができないのを謝るばかりだった。
そんな彼に、この身体の持ち主は言ったそうだ。
「だいじょうぶだよ プディン。
村のチャンピオンは 村のみんなが
笑って暮らせるようにするのが 役目。
村の仲間から 笑顔をうばうヤツは
チャンピオンの名にかけて……」
何そのカッコヨ発言。チャンピオンと言っても腕っぷしではなくお笑いだというのに。
チャンピオンはパノン師匠に弟子入りでもしてたのだろうか。

なるほどね…と独りごちていると、プディンはボクにひしとしがみつき、必要ならあげるからと自分のルーラストーンを押しつける。

「ボクなんかのために 命をかけないで!」
「ふやけるなーッ!!」

ヒュンと目の端を甘い香りが通り過ぎ、ベッタリと地面に貼りついた。

「そりゃ お前は 泣き虫でベソ柿で
ぐずりまくりで メソメソした ガキだっ!
ベイビーだよ キッズだよ チャイルドだよ!
でもなぁ!!」

プディンをあやし疲れたと外に出ていたピリッポは一気にまくしたてる。

「泣きたい時は 泣いていいんだ!
泣いて 泣いて 泣いて 泣いて 泣いて
泣くのに あきたら!!
オレや! ぱんイチや! 村のみんなが!
必殺の一発芸で!
プディン! お前を 笑わしゅてやるっ!」
あっ。大事なところ噛んだ。
けれどピリッポは構わずに続ける。
「みんな お前のこと心配してるんだぜ。
さっきだってな お前に食べさせてくれって
あの女の子が アクロバットケーキを…」
「投げたね……」
「やべえっ!? せっかくのケーキが!」
プディンは床に這いつくばったケーキを眺め「ごめんなさい… ありがとう…」と小さく呟いた。


ピリッポとプディンに見送られ、けがれの谷へ向かうと、谷はその名を表すかのように深い魔瘴で覆われていた。
意外にも空気は無味無臭だが、長居は危険だと脳が告げている。
少し気分が悪い。自分の中で何かが蝕まれていると感じる。
これは身体の記憶が成せるものなのだろうか。

ある程度行くと、地響きと共にシュルシュルと衣擦れのような音がした。
と、突然、岩影から大蛇が現れた。大蛇の吐く魔瘴の吐息はやみわらしへと変わりボクに襲いかかった。


やみわらしを退け、大蛇と対峙する。すると身体の持ち主のものだろうか、この場所でかつて起こった記憶がフラッシュバックする。「3年連続 演芸グランプリ チャンピオン!この ぱんイチが お前を たお……」名乗りの途中、大蛇の牙は青年を襲い倒れたのだ。

「ああ〜 いやだ いやだ。
エイドスさまの命令じゃなきゃあ
こんな こわい所 絶対に来ませんよ。」
ぶつくさと聞き覚えのある声がする。
声の主は青年の亡骸を覗きこみ、おもむろに荷物を漁ると、あろうことか有り金とルーラストーンを奪った。羅生門の老婆のごとき手際は、きっとこれが初めてではないはずだ。
声の主はティルツキン。あの商人の男である。

見て!このオンラインでのふてぶてしい姿!

「やっぱり、あいつ…!」
記憶に意識を奪われ大蛇から目を離すと、その一瞬を逃さず大蛇はこちらへ襲いかかりーー辺りが白く眩い光に包まれた。

白い光を浴びた大蛇は苦しみ、のたうち回るように何処かへ逃げてしまった。もう大蛇が出てくる気配は感じられない。
プディンの両親、それにこの身体の仇は…討てたのだろうか。モヤモヤしたままボクはけがれの谷を離れた。

プディンはエイドスに呼ばれて村を出たらしい。その足でエイドスの住む洞穴へ行くと、エイドスがティルツキンを酷く叱っている最中だった。エイドスの形相にプディンは酷く震えている。

使い込んだ…だと?

「………と いうわけだ ぱんイチ」
「というわけもへったくれもないです」
「不肖の弟子の無礼 まことに申し訳ない」
「弟子は選んだ方がいいよ」
「さあ これが お前のルーラストーンだ」
「お金は」
「さあ これが お前のルーラストーンだ」
「お金……」
「こ れ が お前のルーラストーンだ」
「……」

こちらの言葉には全く耳を貸さず、エイドスはけがれの谷で起こった出来事を問う。仇に逃げられた顛末を話すと、大蛇を退けた光は勇者覚醒の証だそうだ。けがれの谷だけでなく、アストルティア全土に光はもたらされていたのだという。

勇者覚醒の光

「……ぱんイチよ。
自分でも わかっているのだろう?
お前の肉体と魂は 別の物だと。」
エイドスはラーの鏡を取り出し、こちらへ向けた。鏡にはエテーネの民である自分の姿が映っている。

「……まだ くわしいことは わからぬが。
死んだ者の肉体に お前の魂が 入り込み
生き返ったということは お前に まだ
なんらかの役目がある という事だろう」
その言葉にプディンは「じゃあ……ボクを 元気づけてくれた あの ぱんイチさんは……」と顔を伏せる。
「もはや この肉体の主は よみがえらぬが
……ぱんイチよ。お前は やつのおかげで
生き返り こうして ここにいる。
せめて いつか……
こやつが背負っていた 夢を
代わりに かなえてやってくれ」
エイドスは神妙な面持ちで請うと、自分はこれから勇者覚醒について調べると旅に出かけるという。

「……最後に。予言をしてやろう。
ぱんイチよ。
お前は いずれ 宿命に導かれるままに
なにゆえ 自分が生き返ったのかを知るだろう。
まずは 5つの大陸を旅してみるといい。
心のまま歩め。いずれ 宿命がお前を捕まえる。
いやだと言っても 逃れることはできんぞ」


村へ戻り、プディンと共に村長宅を訪ねると村長ファミリーによるオンステージで出迎えられた。

平たくいうと「一人前の証を授けるから冒険の書を出せ」ということらしい。
冒険の書…?
サァっと血の気が引く。

もらった記憶がない。

転生のために訪れたあの神殿で話を聞かなかったために、もらえなかったかもしれない。慌てて体をハタハタとまさぐり、かばんをガサガサと探る。
と、かばんの奥底に見覚えのない本が仕舞われていた。

「倶生神さまぁぁぁぁぁ!!!!」

本を掲げるように五体投地する。村長はそのまま一人前の証を「冒険の書」に押し付けた。
みんなも人の話はちゃんと最後まで聞こうな!!!

ピリッポも村を出ると言っていた。
プディンもそろそろオルフェアの親戚の家に引き取られるらしい。
寂しくなるなと村長は目に涙を浮かべ…

「さらばだ ぱんイチ……。
わが 最愛の弟子よ!」

嘘…だろ…?
この自称「師匠」の笑いの系譜に組み込まれているだなんて…ぱんイチ…お前の笑いのスタイルはもしかしてしゃべくりじゃない…っていうのか…?
これは身体とのコンビ解散の危機だ…自失気味にフラフラと、プディンが先に待つオルフェアへ向かう。

数刻後…ボクは見覚えある教会で目を覚ました。
「ここはオルフ…いや、プクレット!?」

身体と魂のコンビ解散の危機

くっ…クソがっっっ!!!!

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
パノン師匠
言わずと知れたドラクエ4の旅芸人。笑いを求めるスタンシアラ王へ「この者たちは世界を救い人々が心から笑える日を取り戻してくれるでしょう」と進言するすごく…すごい人だ(語彙)
てんくうのかぶと目当てに仲間になってもらったので、勇者なのに目先のことしか考えてなかったことを幼心にとても恥ずかしいと感じたのを痛烈に覚えている。
ドラクエ10では、その内名前が出てくるでぱやのどん。

まだ詳しいことはわからぬが
MMOの性質上、元は「生き返る事件があちこちで起きている」という旨のセリフだった。最初に賢者の隠れ家を訪れた際の「お前もか」に対してのアンサーでもあるが、オフラインではその辺が投げっぱなしジャーマンである。
またオンラインでは、エイドスがティルツキンの大陸横断パスを奪い、主人公に渡すことで溜飲を下げてくれていたがオフラインではティルツキンお咎めナシというのもモヤモヤする。RPGによくある風の予言ぐらいで「不肖の弟子」を許すと思うなよ?って話だ。

倶生神
人の一生を全て記録する神様。女神「同生」が悪行を男神「同名」が善行を記録する。人間1人につき2柱が24時間365日休む間もなく働いているという八百万の神様の中でも特にブラックな労働環境にいる神様。
でも冒険の書って多分そういうシステム。だからスリープ中も冒険時間に含まれるんだ…ちくしょう…

レッドアーチャー
リリパットの転生モンスター。リリパットの倍の攻撃力でさみだれうちを使うため、Lv.11のキャラクターが1人で遭遇すると死ぬ(死んだ)

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