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そうだ!寄り道をしよう

前のおはなし

岳都ガタラは今日も平和そのものだ。
町の広場には人が集まり、井戸端会議に興じている。

平和ダナー

目もくれず、ボクは研究員と整備士の格好をした女性たちに声をかける。
「……あなた もしかして
ドルボードに興味があって 私の所へ?」
研究員の女性、メンメはそう問いかけた。

ドルボードとは、ドワチャッカ大陸3000年の歴史の間に失われた技術で出来た「反重力浮遊移動台」のことだ。この古代の神カラクリを彼女らはこよなく愛し、残骸を見つけては修理し、現代に蘇らせている。
ボクがもし冒険の途中でドルボードの残骸やプリズムを手に入れれば修理し、カスタムしてくれるという。

メンメは「あっ…」と呟き、両耳に手をあてて目を閉じた。
「え…いきなり何…」
「しっ!ドルボードの声を聞き取ってるのさ」と整備士の彼女、デコリーはボクを制した。
「メンメはドルボードを愛しすぎて、遠くの残骸の呼ぶ声が聞こえるようになっちまったんだ」
なるほど、ちょっと危ない人なのかもしれない。宗教とか誘われたらどうしよう。
「聞こえたわ」とメンメは残骸の声が聞こえた場所を教えてくれる。
ガタラ原野の東の遺跡の森……そこでボクを呼んでいる声がするというのだ。

この後ツボとか買わされるんだろうか。
半信半疑、森へ向かう。
森…というには拓けており、建物の残骸があちらこちらに残されている。
遺跡が元の姿であった頃は石畳が敷かれて整備されていた様子も伺える。
積み上げられた床石の下から何かが突き出していた。
キリンのツノのようなレバーのような、明らかに周りとは材質の異なるそれをボクはチカラの限り引っ張り出した。

残骸は思ったより重く、本当に浮くのか疑わしい。
なんとかメンメの元まで引き摺るが…見つけた時よりも確実に傷が増えている。
「なんて ひどい……。
今まで見た中で いちばんの重症だわ」
「ガタラ…階段多いから…」
この広場に戻るまで2つの大きい階段を登ってきた。
ドルボードを使っていた頃の古代の文明があればエレベーターのような移動装置があったはずだろう。岳都ガタラは比較的新しい町なのかもしれない。
メンメはドルボードの修理を終わらせると「大事にしてあげて」とボクに渡す。

テッテレテッテッテー

「お金とかは…?」
「ドルボードを大事にしてくれればそんなのいらないわ」
「ツボとか買わなくていいの?」
「ツボ?錬金でもするのならレンドアに行くといいわよ?」
ボクは怪しい宗教の勧誘を疑ったことを反省した。

ボクは2人に手を振ると(デコリーはカスタマイズさせて欲しそうだったが)広場を後にする。
オルフェアでポムボムのオイルを頼まれているし、他の冒険者たちが「この町にキーエンブレムをくれる人がいない」とも噂していたから、この町の散策はまた今度でいいだろう。
ガラクタ城と呼ばれている建物に黒い影が忍び込むのが見えたけれど、きっと気のせいだ。
ボクは岳都ガタラを旅立った。


列車は目的の地、ジュレットに着く。
白亜の壁に揃いの青の屋根が映える美しい町だ。
駅と町を繋ぐ木製の桟橋がカタカタと鳴っている。なんかすっごいリゾート感。

嬉しくなって波打ち際を歩いていると、物憂げに海を見つめるウェディの女の子がいた。その子はボクを見つけると「冒険者さんですか?」と呼び止めた。
「先日 海岸で 紙切れの入った小ビンが
流れ着いているのを 見つけたのです。
小ビンのふたに 『かわいいコ 読んで❤︎』と
書いてあったので つい開けてみたところ……
なんと 中には 銀色の長い髪を
後ろに たばねた 美しい殿方の写真と
心ゆさぶる 素敵な愛の詩が入っていたのです」
「さすが直結厨の町…」
「それ以来 寝ても覚めても
その方のことが 頭から離れませんの……。
ああ。小ビンのお方に 私の思いを伝えたい!」
「えぇ…やめときなってぇ…」
マリーブと名乗る彼女は、タップペンギーの持つ「幸せのはね」で手紙を書けば恋が叶うおまじないがあると、ボクにラーディス王島へ行って欲しいという。
「うーん…いいけど、『かわいいコ 読んで』から書き始めるヤツはたぶんやめといた方がいいよぉ…」
ボクはそういうこと言いそうな魚のおじいちゃんの顔を思い浮かべながら、渋々引き受けた。

そういうこと言いそうな魚のおじいちゃん

この町には有名なかばん工房があったはずだと思い出し、その場所へ向かう。
高台の井戸の中に工房を構えている変わった店だと聞いている。
階段を上っていると、ネーキィという老人に声を掛けられた。

「お前さん 旅の人じゃな。
ひとつ 頼まれてはくれんか?」
「恋愛系の相談はおなかいっぱいなので他の人にしてください」

そうではなかったらしい。
おじいちゃんはこの町にひとりで住むソーミャという小さな女の子が寂しそうにしているのが心配なので旅の話でも聞かせてやって欲しいという。
「おじいちゃんはロリコン…」
「小さい子がさびしそうにしていれば誰でも心配するじゃろうて」
「それもそうですけど…」
「だというのに最近はやれ事案だなんだと、町長が『ネーキィさんは出禁』とか言うんじゃ」
やっぱり、なんかやらかしてるんじゃなかろうか…。
かばんを頼んだら行ってみるねと約束をして工房へ向かう。

残念ながら工房の職人は出かけているそうだが、材料さえ揃えば作ってはもらえるらしい。息子くんに受付を頼み、ネーキィじいさんの心配するソーミャの家へ向かう。

つらい。

タイミングが悪かった…と言うよりも、拒絶をされているようだった。
両親に捨てられたことで誰も信じられないのかもしれない。
「町長さんが強い人を探してるから、そこへ行くといいよ」と追い出されてしまった。

工房近くへとんぼ返りする。
町長の家へ向かうと、奥さんのマーゼッタさんが迎えてくれた。
「うちの人ったら娘がお嫁に行ってから寂しくて、ソーミャを可愛がっているのよ」と教えてくれた。
なるほど。ネーキィさんがソーミャ宅を出禁なのは、構いすぎてではなく、町長の…何やら犯罪の匂いがすると灰色の脳細胞が告げている。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
直結厨の町
サーバー1のジュレットの町のこと。
コインボス募集はグレン、日替わり討伐はメギストリス…など、町に合わせた交流が行われる中、ジュレットの町はウェディの性質のためか、ここで出会いドラクエ内でカップリングされる…だけにとどまらず「LINE教えて」「どこ住み?今度会おうよ」とリアルで会おうとする輩が現れ、いつしかホテルジュレットと呼ばれる町となった。

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