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そうだ!説明しよう

前のおはなし

町長の奥さん、マーゼットさんの案内で部屋に通される。
町長はボクの顔を見て、迷惑そうに挨拶する。
「私はボーレン。このジュレットの町長だ。
今 この町は 辺りをうろつく
ネコの魔物どものせいで ピリピリしている。
その対策を考えるのに 忙しいのだが
何か用でも あるのか?」
「ソーミャという少女に町長が人を探していると聞いたんですけど」
ボクが答えるなり、「ソーミャに聞いたのか!」と町長の目が輝く。
「なるほど。君は なかなか強そうだ。
それに 一人前の証を持っているのなら
信用できるだろう」
先程の不機嫌さが嘘のように、ボクの体をぷにぷにと触り強そうだと褒める。単なる演芸チャンピオンなのに…ソーミャの名前出した途端にこの変わりようだ。
「ところで町長、ロリコンなん?」
思わず口に出てしまう。町長は聞かず「やってもらいたいことがあってな」と話し出した。
「となりの島にある 知恵の眠る遺跡へ
ある人物が 安全に行けるようにしてほしい。
やってもらえるか?」
「いいんですけど、町長ロリコンなん?」
「おおっ やってくれるか。
……その ある人物というのは
私の所に来ている 客人だ」
町長は客人を呼び、こちらへ紹介してくれる。
「こちらは ヴェリナード城から参られた
キンナー殿だ。 遺跡の調査員をしておられる」
「町長、こっちの話も聞いて?」
町長に詰め寄ろうとするボクをキンナーは「急いで知恵の眠る遺跡へ行かねばなりません」と止める。しょうがない。ここはキーエンブレムのために…と身を引こうとすると…

いきなりステップを踏み、その場で一回転するとキンナーはポーズを決める。

「知恵の眠る遺跡には 我々ウェディにとって
大切なものが 納められています。
ですが ああ なんということでしょう。
その大切な者に 異常の兆候が見られました。
もし それが深刻な異常だったなら
我々の未来が閉ざされる おそれがあるのです!」

オーバーリアクション気味にそう語るキンナーにボーレンは「ふさわしいだけの礼はする」と付け加える。
「じゃあ、行ってきますけど…町長はソーミャちゃんとの関わり方、見直した方がいいですよ」
ボクはキンナーと町長の家を後にする。閉まりかけた扉の向こうから「やっぱりあなた幼い子に…」と奥さんの声が微かに聞こえた。

町の南にあるミューズ海岸には町長や住人がいう程、ネコの魔物はうろついているように思えない。町にはネコに引っ掻かれたという少年がいたが、彼の親やウワサを鵜呑みにした住人たちが過剰に騒いでいるのではないだろうか。
それでもネコの魔物は減らしておく方がいいかと何匹か倒していると、キンナー調査員が話しかける。
「住人のため……ですか?」
「フッ、バレちまっちゃあしょうがない」
町長の所へ行く前に立ち寄ったかばん工房で「なめしエキス」を持ってこいと言われていたのだ。手に入れたエキスを懐に入れ、ミューズ海岸を進む。
「住人の暮らしも、ぱんイチさんの冒険も大切かもしれませんが、ここは急ぎましょう。ぱんイチさんはわたしを守るのではなく、未来を守るのですよ!」
キンナーのお小言にボクはへえへえと生返事で返した。

ラーディス王島に向かうカヌー乗り場に到着するが、カヌーにはすぐ乗れないらしい。渡し守のバルークがオールを折ってしまったので修理の間少し待ってくれと言われてしまった。
渡し守が言うには、魔物のうろつく中に少女の姿を見つけ、そちらに気を取られてオールを橋脚に挟み込んでしまったらしい。
「急いでるんですよ!」と不満そうなキンナーをどうどうと鎮め、オールを直している間に渡し守のいう少女がいないか探してくるよとその場を離れた。


カヌー乗り場にほど近い、荷置きの影に少女の姿はあった。
少女はこちらに気付き「あ…」と声をあげると
「な……なんにも ないよ!
ここには なんにも ないんだからっ!!」
と確実に何かある反応をする。少女は、町で出会ったソーミャだった。
こちらが指摘するより早く、「みゃうう…」と子猫の鳴く声がする。
「気のせいだよ!!」と必死の弁解も虚しく、子猫は大きく鳴き声をあげる。
観念したソーミャは
「お願い!
この子のことは誰にも言わないでっ。
……町の人たちは ネコが きらいなの。
もし 知れたら この子は きっと
ひどいことされちゃう!」
懇願する彼女に、ボクはそっと問いかける。
「言わないのはいいけど…ここに来たことを渡し守の人は見てるし、町の人も訝しむかも知れないよ?」
「どうしよう…」
「うーん…じゃあ、素麺を作っていることにしようか」
手持ちで何かできることは…と、かばんからオルフェアで買っていたふわふわ小麦を分け与え、素麺の打ち方を教える。
そう……これが、後の『素麺のソーニャ』である。

素麺に夢中になっていると、子猫が一際大きな声をあげる。
「ごめんね。おなか すいてるんだよね」
ソーミャは用意していたミルクを子猫に与えながら話してくれた。

「この子は 街の港に流れ着いてて……。
誰にも 気づかれずにいたのを
私が最初に 見つけたの。
きっと この子も
パパとママに 捨てられたんだ……。
私と おんなじ。
だから 私が育てることに決めたの!!」
彼女の決心は固い。ボクは渡し守には誤魔化しておくと告げるしかできなかった。

船着場では渡し守はオールが直ったと、島へ船を出してくれた。
「少女には会えましたかい?」と聞く渡し守に「どこを探してもいなかったんですけど…」とボクはとぼける。
「渡し守さん、本当に見たんですか…?もしかして幽霊でも見たんじゃ…」
ボクの言葉に、キンナー調査員が続ける。
「ふむ。そういえば、500年程前の海難事故が起こったのはこの辺りでしたっけ?」
「あぁ、お宝を捨ててまで人々を救助したって元海賊の…」
「お客さんがた!怖くなるのでもうその辺で勘弁してください!!」

ラーディス王島——複数の円環の舞台が設置されている中を道なりに進むと、壁に埋もれるように建てられた遺跡が現れる。キンナーは躊躇なく遺跡に飛び込み、調査を始める。地面を這い回ったり、壁に耳をつけて叩いてみたり…何を見ているのかボクにはさっぱりわからないが、キンナーは「ふむ」と一言頷き
「やはり 波紋の音叉に
何かがあったと見るのが 正しいようです。」
「波紋…?」
それはツェペリの…と続けるより早く、キンナー調査員は「説明しましょう!」とお決まりのポーズを決める。急いでいるのではなかったのか。

「この遺跡の奥には 波紋の音叉と呼ばれる
大切なものが 納められているのです!
ヴェリナードの女王 ディオーレさまが唄う
恵みの歌のことは ご存知ですか?」
「恵みの歌…?」
「女王さまの恵みの歌によって 水は清められ
この海の すべての生きとし生けるものに
守りの加護が 与えられ流のです!
そして 波紋の音叉は その恵みの歌を
諸島全体へと伝えるという 重大な役目を
果たしているのですよ!」
「なるほど。不思議歌か」
「恵みの歌の恩恵が なくなれば
ウェナ諸島に 何が起こるか……」
キンナーはこうしてはいられないとボクを急かす。

波紋の音叉は遺跡の地下階の海にひらけた場所に立っていた。
キンナーは機能が止まっていると音叉の一つを調べている。

「むむむむむ……。
故障の原因は わかりました。
説明しましょう!」
「別にいいんで必要なもの教えてくんない?」
出鼻をくじかれしょげているが、急げと言ったのは彼自身だ。
ボクは言われるまま『結晶牙』という水晶のように澄んだ牙を手に入れる。
この牙が音叉の拾う音を増大させて諸島全体へ恵みの歌を届けるのだそうだ。

「この遺跡は 17代前のヴェリナード国王
ラーディスが造ったと 言われており
神殿としての役割を 持っていたようです。
ラーディス王は 王位を妻に譲り
その一生を この神殿の建造に捧げたと
伝えられていましてねえ。
波紋の音叉を守るため あえて このような所に
神殿を造ったということなのですが……。
何か 他の……大きな目的が
あったのではないかと 私は推測しています。
ラーディス王を最後に ヴェリナードの王は
女性が 務めるようになったのですが……
それとも 何か関係があるのかもしれません」
修理中、キンナーはこの遺跡のあらましをボクに教えてくれた。
そんな考察を王立調査団の中でやるのは後で消されたりしないのだろうか。
ボクたちは遺跡を離れ、ジュレットの町へ戻るのだった。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
素麺のソーミャ
『蒼天のソウラ』から派生した四コマ漫画。蒼天のソウラの宣伝…だったはずなのだが、漫画ではなくオンラインのイベント開催に合わせソーミャが素麺に対しての並々ならぬ情熱を注ぐ物語となった。ソウラ完結とともに完結したが、ソーミャの素麺道は終わらない…
素麺は茹でた後チーズと塩胡椒で焼くと美味しいです。

500年程前の海難事故
今後明らかとなる500年前の災厄の際に人々を救うため船に乗せまくって沈没した事故。この船の船長は元々海賊ではあるが、その事故で亡くなった人たちは彼のことを責めたりしていない。ミューズ…ではなくキュララナ海岸に現れる。

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