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そうだ!風のころもを手に入れよう

前のおはなし

「やっと 着いた……」
「なんだか 結局……
いろいろ 助けてもらっちゃった…… かな?」

そう言って下を向いたまま駆け出すフウラは、ポヨンとボクにぶつかり尻餅をつく。
「もしかして 今の 聞いてたの?
わ…私は ただ お礼を言っただけで
別に カムシカのこと 認めたわけじゃないよ!」
うんうんと笑いながら頷くボクにフウラは「信じてよ!」とムキになる。
「でも……。
どうして カムシカたちは
私を 助けてくれるんだろ。
お母さまを 死なせちゃったことを
悪いと思ってるから? それとも…… 私が
カムシカのチカラを引き出せる 風乗りだから?」
「風のころもを手に入れれば、わかるかもね」
ボクが塔の入り口を指さすと、フウラは改まってボクに向き直る。

「私……カムシカたちが いなければ
ここまでも たどり着けないくらい
ダメな子なのは 自分で わかってます!
それでも 私 この塔に登りたい!」
「皆まで言わなくても、ボクもヒューザもチカラを貸すためにここにいるんだから」
「ここまで何もしてないことが、お前の父親にバレちまったら、キーエンブレムも貰えないって、コイツ焦ってるからな」
ボクは要らないことを言うヒューザの足を踏んだけれど、プクリポのチカラでは頼りなく、ヒューザは涼しい顔をしている。
これだからプクリポは!!

ボクらのやりとりにフウラは少し笑い、また表情を引き締めると塔の中へ一歩踏み出した。


ボクたちは程なく最上階へ辿り着く。
「ぱんイチさますごい…!複雑な塔の中をスイスイ進むなんて…!」
「フォッフォッフォ。偶数階は橋を渡ってから階段っていう簡単な覚え方があってな」
ボクがないアゴヒゲを撫でながら言うと、ヒューザは「なんでそんなこと覚えるぐらい入り浸ってんだ」と不思議そうにこちらを見ていた。

「この部屋の中に
風のころもが あるんだね」
フウラは呼吸を整えると、扉に手を翳した。
風乗りの資格を持つ者にしか開くことのできないその扉は、フウラを認めるようにすうっと音もなく開いた。

ボクらを振り返り「開いた!」と喜ぶフウラだが、ボクとヒューザの目には異様な…とても異様な光景が広がっていた。
その表情で察したのだろう、フウラはその部屋の中に踏み入り、
「な なに この部屋……?」

ピンクを基調とした家具と華美な調度品の数々…これまで登ってきた塔とは打って変わった色彩に目がチカチカする。
「誰だっ!?」
その声の方向にボクらは目をやると…
「この 怪獣プスゴンさまの
スウィートホームに
土足で あがりこむヤツは!?」
まるまると膨れた…ドラゴン…なのだろうか?自称するように「怪獣」というのが適切な魔物がこちらを睨んでいる。
ボクらをジロジロと睨むそれは、フウラに目を留め…

目を見開く。

「ただ かわいいだけじゃない。
ちょっと 毒のある瞳!
抱きしめたくなるような 身体のサイズ!
こんな気持ちは はじめてだ!
オレと いてくれ!
ずっとずっと 一緒に暮らそう!」
その思いの丈をフウラにぶつける。
「わ 私……!?
ど どうしよう〜。
困るわ。だって あなた 怪獣だし……。
きっと お父さまも 許してくれないと思う」
まんざらでもなさそうなフウラを見てヒューザはぽつりと呟く。
「一体、オレたちは何を見せられてんだ?」
すると怪獣はフウラに…いや、フウラの持つ人形に手を伸ばし
「お前っ!
この……」

怪獣の告白はフウラではなく、フウラの持つケキちゃん人形に向けられたものだった。
「ケキちゃんはダメ」と引っ張り合うフウラと怪獣。
ボクはヒューザに向けて話す。
「何を…見せられてるんだろうね…」

しばらくの引っ張り合いの後、プスゴンと名乗る怪獣が根負けして後ろへ倒れこむ。
「ちっ なかなかやるな エルフめ!
何しに 来やがった!?」
「私たちは…… 風のころもを取りに!」
フウラが答えると、プスゴンは「お前たちが そうだったとはな」と不敵に笑い
「オレは 風のころもを取りにきたヤツを
倒す用に言われているんだ!
頼まれた仕事を果たし ついでに
マイ・スウィートハニーを手に入れる!
一石二鳥とは このことだぁっ!」
言うと、フウラを突き飛ばす。

「あうっ」と小さく鳴き、フウラは項垂れる。
こちらが駆け寄ろうとする前に、プスゴンは
「あ あぶねえっ!
おれの ウルトラ・ハイセンスな
インテリアが!!」
と叫び「ちょっと タンマな!」とこちらを制した。
ヒューザとふたり、どういうことか戸惑っているとプスゴンはキビキビとソファやテーブルを端へ避けていく。

「……手伝おうか?」
「やめろ!オレの大事なインテリアを傷つけられちゃいけねえ!」

しばし、その様子を見守ると
「これでよし!
まずは お前らから 片付けてやるぜ!
さっさと くたばりなっ!!」
とこちらへ襲い掛かろうとする。
「待ちなさい!!」
突き飛ばされたフウラが立ち上がりこちらへ駆け寄る。
ごめんよ…プスゴン見てて、フウラのこと忘れてたよ…と心の中で謝るボクを他所にフウラは「私もあなたと戦う」とプスゴンへ向かう。


「ぐおおおお!!
お前ら 本気で オレを怒らせたなっ!!」
戦いの後、プスゴンは叫ぶと全身にチカラを込め、覚醒する。

「やめてっっ!!」
フウラは落としていた人形をプスゴンに投げる。

「それ あげるから……
もうやめて!」
フウラがそう言うとプスゴンは少し考え、
「お前 さっきはアレほど……」
「あ・げ・る・か・ら!」
「死ぬほど 大事なモノなんじゃ
ないのかよぉ!?」
「死ぬほど 大事なものよ!!」
「じゃあ……」
「いいの!
あげる!!」
語気を荒げていたフウラは、覚悟を決めるかのように少し間を置いて宣言する。
「私は 風乗りになる!!」

「それは 思い出なの。
亡くなった お母さまとの思い出……。
でも もう いらないの。
私 風乗りになるの!
お母さまの後を継いで
風乗りに 絶対なるの!!
風のころもを着て 風乗りになる私と
ぱんイチさまは 明日なの!
明日のためなら 思い出はいらないの!」

「うわぁあああああんんん!!」
フウラの言葉に、プスゴンは大きな声をあげて泣き出した。
「なんて 泣ける話だ!
お前も 苦労してるんだなぁ!!
……わかった。
ハニーと引き換えに もう何もしない!
……ぐずっ……うわぁああああん!!」
…もしかしたら、ついでは頼まれた仕事の方かもしれない。
そんなことを思っていると、プスゴンは
「オレに 風のころもを守らせたヤツは
風乗りを絶えさせ 風をよどませ…
ここいらを 闇の封印に堕とすって
ワケの分からないこと 言ってたんだ。
えらそうに命令してくる ネルゲルっていう
いけ好かない奴だ。あんな奴の計画より
お前の 明日……の方が ハイセンスだ!」

「いやっほ〜〜〜う」とハニーを腕にプスゴンは窓から去っていった。
「…この塔、セキュリティガバじゃん…」

ヒューザがフウラに尋ねる。
「大切な人形だったんじゃねえのか?」
「……いいの。
ケキちゃんがいなくても
私は もう大丈夫だから」
フウラは微笑み、
「それに、手触りがケキちゃんにそっくりなぱんイチさまがいるもの!」
と、ボクの顔を撫でくり回した。
「それより、早く風のころもを」
こちらを見る冷たいヒューザの目に耐えられず、ボクが言うとフウラは「そうだね!」と風のころもが奉られる長持を開く。

「お母さまの…… においがする……」
「洗濯しなきゃ……」
ボクの口をヒューザがすかさず塞ぐ。
「そうだ! こうしてる場合じゃないわ」とフウラはこちらを向く。

「あのね。さっき 戦いの前
怪獣さんに 弾き飛ばされて
気を失ったときに……
とても 不思議な声を聞いたんです。
私の頭の中だけに 聞こえた
とても 不思議な声」
「ねるねる…」ヒューザに口を塞がれてボクは上手く声に出せないでいると、ヒューザが「後で買ってやるから」と言う。知育菓子じゃねーよ。
「それを聞いて 風乗りにならなきゃって!
何がなんでも 風送りの儀を
私が やりとげなきゃって!
そう思ったら ケキちゃんを
あの怪獣さんに あげても いいかなって。
ふふふ…」
フウラの話を聞き、「そうか…お前にも聞こえたのか」とヒューザは独りごちた。

早く戻りましょうと、フウラは口笛を吹きカムシカを呼びよせる。
一頭のカムシカが窓の外までのぼってくると、フウラを乗せて颯爽と去っていく。

「やっぱり…セキュリティガバやん…」
「フウラがこれに気付いてたら、お前の活躍なかったな…」
取り残されたボクらはフウラの、カムシカの後を追い、風の町アズランへの帰路を急いだ。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
偶数階は橋を渡って階段
実際のスイの塔の登り方。その昔転生モンスター狩に邁進していた頃にスイの塔の固有種、おどるほうせきの転生「スウィートバッグ」を狩るために通ったため覚えてしまった。他が100匹足らずで転生モンスターと遭遇できたのに対し、こいつは800匹狩っても出なかった。

ねるねる
不朽の知育菓子「ねるねるねるね」…ではあるが、周りではネルゲルのことも普通にねるねると呼んでいた。これは強ボス実装時、プレイヤーをパンに変えてくる魔女グレイツェルより事故がなく簡単に倒せてオーブが3つ貰えるので「んまいっ!(テーレッテテー)」と思ったから…とかではなく「戦ってるとねるねるねるね食べたくなるよね」という発言からだ。チョコバナナ味を再販してほしい。

セキュリティガバ
ガバなので、まーたプスゴンは住みつくし謎の人物も入り込む…のだが、ぱんイチはレベルが足りず当該クエストまだ受けれていない。10周年ふくびき券…

操られてんのにまたここに戻ってきたんか…

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