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そうだ!旅の道連れを決めよう

前のおはなし

フウラは風のころもに着替え、風のたづなでカムシカを駆る。

「ただいまの 風送りの儀により……
これまで アズランに吹いていた古き風は
その役目を終え かなたへと去りゆきました。
今 このアズランに吹くのは
育みのチカラあふるる 新しき風!
このアズランに………… えっと……」

口上を忘れたのか、言葉に詰まるフウラの後ろでタケトラがハラハラと落ち着きなく動く。

「えーーーーーと……?
このアズランに……」
ハッと思い出したようにフウラの顔が明るくなる。
「風乗りのフウラが あるかぎり!」

フウラの口上に町の人々が湧く。
「フウラちゃん キレイだったわ。
女の子って ちょっと見ないうちに
いつの間にか オトナになっちゃうのよね」
近くにいた女性がタケトラが聞けば不安で夜も眠れなくなるようなことを言っており、ボクとヒューザは顔を見合わせて笑った。

領主の屋敷へ向かうと、儀式を終えたフウラがこちらに手を振っている。
「見て見て! ほらっ 風のころも!
私の 風送りの儀も ちゃんと見ててくれてた?」
嬉しそうなその声に、ボクも手を振り返していると、遅れて現れたタケトラにフウラ共々、部屋へ通される。


「フウラの工場には ヒヤヒヤさせられたが
なんとか無事に 風送りの儀を
終えることができた。
これも ひとえに ぱんイチのおかげだ。
本当にありがとう。
まだ 大きな変化は 出ておらぬが
このアズランに よい風が吹き始めた。
これからは よい方向へ 向かってゆくだろう」
タケトラは感慨深そうに窓の外に揺れる木々を見る。
「この町に 希望をもたらしてくれた
アズランの英雄 ぱんイチよ。
そなたに 緑のキーエンブレムを贈ろう」

タケトラからキーエンブレムを渡される。
壁に背中を預けて聞いているヒューザに掲げてみせると、彼はキザったらしくフッと笑い、タケトラの方を向けと言うように手を払う。
「しかし 風のころもが 風乗りの手に渡らぬよう
スイの塔に 魔物を配した者がいたのか……」
「スイの塔…出入り自由やったから…」
ボクの言葉に「このような辺境を狙う前例などなかったのだ」とタケトラは嘆く。
側で聞いていたフウラはタケトラに向かう。
「…………それで お父さま
とても大事な お願いがあるの!」
「なんだい フウラ 改まって……」
フウラはボクに駆け寄る。
「私 ぱんイチさまに ついて行きたい。
ぱんイチさまの戦いを
お手伝いしたいの!」
彼女の強い眼差しにタケトラは「フウラ……」と言葉を飲む。
「……今までも 留守にしてたのに
ごめんなさい。
でも 守りたいの。この町も 世界も!」
タケトラはフウラの頭を優しく撫で「やってみなさい」と声を掛けるとボクに「この子を頼みます」と頭を下げた。


「……やるじゃねえか フウラ。
だが この旅は 危険な旅になるぜ?」
「……まだちょっと怖いけど 大丈夫!」
駅に向かって歩くふたりが話しているのを聞きながらボクは悩んでいた。
「ぱんイチさまもモフモフだし、町や世界を守りたいんだもの!」
フウラがボクの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。
自慢のベッカムヘアが乱れたまま、ボクは
「ふたりに相談があります」
と告げた。

「なんだよ。改まって」
ヒューザが面倒くさそうに、フウラは少し緊張した面持ちでそれぞれこちらを向く。
「謎の声がふたりにボクについて行けって言ったんだよね…?」
「そうなの!ぱんイチさまを助けなさいって言ってたの!」
「悪き気配がなんだってのも言ってたな」
「話半分に聞いて欲しいんだけど」と前置きして、ボクは話し始める。
「その声、あと3人聞くと思うんだよね…」
「ああん?なんでお前がそんなことわかるんだよ」
ボクの胸ぐらを掴もうと屈むヒューザをフウラが慌てて止める。
「話半分にって言ってるやん…各地のキーエンブレムとその土地で増える各種族の仲間…」
ウェディ、エルフとボクはヒューザとフウラを順に指す。
「あとはオーガ、プクリポ、ドワーフ…が増える…って単純に思わない?」
「で、でも、プクリポはぱんイチさまなんじゃないの?」
「お前オルフェアの町でキーエンブレムを貰ったって話もしてたもんな。あと2種族だろ」
「ボクは違うよ…」
ボクは頭を振る。ボクはプクリポではないのだから。
「お前がそのプクリポじゃないとしたら、プクリポの仲間とやらはどこにいるんだ?」
ヒューザの問いにボクは答える。
「メギストリス城だよ」
「じゃあ、次はメギストリス城に向かうの?」と尋ねるフウラに首を縦に振る。
どんな方かしらと期待に胸を膨らませるフウラにヒューザが水を差す。
「いいや、フウラ。騙されるな。仲間を増やそうって風に見えるだろうけどな。こいつのメモを見てみろ」
ヒューザが開くページには『メギ城でとうぞくのかぎを入手したら各地の宝箱を開けに回る』とだけ書かれていた。
「あ、ちょ…」
「とうぞくのかぎ…ってのを貰ったらキーエンブレムそっちのけで宝箱探しに行くつもりだろ?」
「そ、そんなことないよ…仲間増やしてから行くよ…」
「結局行くだろ!」
ボクらの掛け合いをフウラは面白いとキャッキャと笑っていた。


「おいっ 貴様!
今は このメギストリス城へ 貴様のような
旅人を 入れるわけにはいかん!」

門番たちが門をくぐろうとするボク達を通さないように槍を傾ける。
「一人前の証を 持っていようが
今井が 関係なく 何人たりとも
通すわけには いかんのだ!」
ホッパという名の門番が厳しい目をこちらに向ける。
「え…でも、ホッパ…さん?さっき、『貴様が 一人前の証を持つほどの ウデ前ならば 王に会うとよいだろう』って言ってたの、ホッパさんですよね?どうして…」
「王さまが強い冒険者を探してるって、ぱんイチさまはこう見えて強いんだから!」
フウラのフォローにヒューザも「こう見えて、な」と頷く。
そうなのだ。城下町へ着いた時、このホッパという門番が是非城へと言っていたのだ。それなのに門まで来たらこの仕打ちである。
メギストリス城は長い、上りの階段を上がった先にある。
この階段を延々上ってきた客人に引き返せとはなんと無慈悲なことだろう。
「なぜなのか だと? 言えるわけなかろう!
王の御加減が いつも以上に悪いから などと
国民を不安にさせることは 絶対に秘密なのだ!」
親戚にパクレ警部とかいないか心配になる門番の言葉にボクは途方に暮れる。「聞いてない……大きな街の攻略はエンブレム5個の後なんて…おじいちゃんに聞いてない…」
さめざめ泣いているとフウラは「ぱんイチさまって案外人の話聞いてないのね」とボクをモフモフ撫でる。
人の話っていうか、ホーローの話だけは覚えられないのだ…
何故かホーローの顔を見るとボトルレターだの、駅弁を温めるヒモだの別のことを考えてしまう。ボトルレターの話なんて「ぱんイチ」の記憶ですらない話なのに、気付いたら「何とかの何とかの時、また会おう」と杖を掲げているのだ。
「この攻略サイト…ってのにも書いてるのにな」
「あぁ、ボクのアルセウスフォン!」
ヒューザはボクの不正に持ち込んだスマホを取り上げていた。
確かにそこには「キーエンブレム6個目以降」と書かれている。そうだ…去年何も見ずに攻略してたらスリープ時間もカウントされていて、えらい時間がかかったことになってたから今回は効率的に攻略サイトを見ようって思ったんだ…
…宝の地図のマップしか見てなかった…

ふたりの顔は、これからどうするのか?という問いかけている。
ボクは意を決してこう言った
「今から多数決を取ります!」

「めんどくさい敵と戦いに行くか!」
「めんどくさい仲間を迎えに行くか!」
どっち!と手を広げる。
「仲間が増えるの楽しみぃ!」「初志貫徹だな」
ふたりは旅の同行者を選んだ。
ええんやな!ほんまにええんやな!!

旅は道連れ。
ボクの旅の同行者となるなら、ふたりもみちづれだ。
ボクは「ガタラへ」とルーラストーンを掲げた。

み・ち・づ・れ❤︎

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
ベッカムヘア
ソフトモヒカンのこと。2002年日韓W杯の頃のイングランド代表のイケメン、ベッカムの髪型。前回大会で華々しくW杯デビューを飾ったベッカムを推すと「にわか」とか「どうせ顔」とか思われるのが癪だったので当時は「デビッドはシーマン(GK)だ」と言っていた。

メギ城でとうぞくのかぎ
ドラクエ10オンラインのver.1当初、予定帳に実際に書いていた予定。
いつまでにどの職をレベル何まで上げる、IDを何周まわる等書かないと夜中3時くらいまで友達とチャットして寝落ちする。
今回、マジで攻略よりカギやろと思ってメギまで行ったら門前払いされた。

アルセウスフォン
ポケモンLegendsアルセウスで神によって勝手にカスタマイズされてしまうスマホ。

神だからって勝手に変えるのはあかんやろ

この世界ではルティアナフォンというべきか…
時渡りができるエテーネの民によって、エテーネの村でのみ普及している…かもしれない。このアルセウスフォンは使いにくいのでおすすめできない。


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