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そうだ!ポンコツな助手になろう

前のおはなし

「とはいえ、ココにキーエンブレムをくれる人はいないって話なんだよ」
以前、ガタラに来た際に他の冒険者が話していたのを思い出す。
「来たことあるんだな」
「ドルボードを修理してもらいにね」
カスタム屋のデコリーがボクに気付き、広場の向こうから手を振ってくれている。手を振り返すとメンメもこちらに軽く会釈する。
大事に乗ってと渡されたアレを無理やり3人で乗ってる姿を彼女たち…特にメンメに知られてはいけないだろう。

「で?」
「で!?」
終わった会話の続きを求められて困惑する。
「その時にキーエンブレムは?」
「あぁ、それはさっきも言ったように他の冒険者が『くれる人がいない』って言ってたんだ。じゃあ後回しだな…って」
「えぇ…じゃあ、どこに行けば…?」
フウラは慌ててキョロキョロと辺りを見回す。

「で?」
「で!?」
「所有者がいるか、調べてんだろ?」
ボクはため息をひとつ吐き、指をさした。

ガラクタ城——岳都ガタラの片隅にある、その城はモノで溢れかえっていた。城といっても由緒あるわけでなく、主のダストンもこの町の有力者ではない。「城主」ガストンが城と呼ぶのに倣っているだけだ。
外まで溢れたガラクタはドワーフの本能的な欲望の象徴とされ、旅人からはこの町のシンボルのように見られているが、実際は城の主と住民たちとの間に諍いは絶えない。所謂、ゴミ屋敷なのだ。

はじめてもらったキーエンブレムはクリームに塗れ、ボクの歯形がついていた…ここで貰うキーエンブレムには…変な汁とかついてないよな…
意を決して、ボクはガラクタ城の扉をノックし…

バタンッ!
大きな音と共に扉が開き、黒ずくめの人影が飛び出した。
身軽な動きで斜向かいの建物の屋根へ上り、ポーズを決める。
「天知る! 地知る 人ぞ知る!」

呆気に取られるボクの目の前を、ガラクタ城から人がノロノロと通り過ぎる。
「待ってくださーい!」
声とは裏腹に急いでいるようには全く見えない。
「成長したわね ポツコン。
今日は いつもより 47秒も速いわ!」
「これで47秒…ドワーフはそんなに動きが緩慢だったのか?」
ヒューザは理解し難いと顔をしかめる。
モタモタ、ワタワタとその場で何もできずにいるポツコンを残し、怪盗ポイックリンは「チリも残さず キレイに退散ですわ」と決め台詞と共に消え去る。
「ダストンさまの宝物を返してええーー!!」
ポツコンはノロノロと何処かへ消えたポイックリンを追っていった。

ポツコンと呼ばれたドワーフは戻ってはこないが、改めて…ガラクタ城の扉を開く。

「あの…」

「えっと…」

「よし。帰ろう」
顔を見合わせ踵を返すボクらの隣りをポツコンが通る。ポイックリンを諦めて帰ってきたようだ。
「落ち着いてください ダストンさま!!
その方は 怪盗ポイックリンでは
ありませんよ!!」
ポツコンは暴れて息が上がったダストンを宥めてくれている。
これなら話せるかもしれない。ボクらの希望は一瞬で打ち砕かれた。

「そうですね ダストンさま。
ポイックリンが盗んで行った 緑の石板は
ダストンさまが 三日三晩 掘って見つけた
たいへん めずらしいガラクタでした!」

「おっしゃる通りです ダストンさま」
ポツコンには通じているのだが、ボクたちにはさっぱりだ。
「ポツコンさんすごい…学びの庭でも、こんな言葉は習わなかったのに…」
「…習わなかったかー。それは学びの庭が正しいかなー」
ヒューザも頭を抱えている。
「……ああっ。
こんなとき チリさんがいてくれれば
あっという間に 解決して下さるのに」
「チリ!?」
その名前にダストンはハタと動きを止める。

「あーんなヤツの話は しないで欲しいですねッ!
もう 娘でも なんでもないんですから!!」
「さぞかし美人さんな娘さんなんでしょうな…」
ヒューザはダストンの娘がか?って顔でこちらを見ないで欲しい。それは流石に失礼だ。
ポツコンが思い出したように、こちらに用件を聞く。

「キーエンブレムをお持ちだと聞いてきたんです。よければ譲って欲しいなって」
「えっ?
キーエンブレムが欲しい……!?」
「なんですってッ!?」
流石に口を開くと面倒だと思われたのか、ダストンはポツコンに口を塞がれる。
何故だか、親近感が湧いた。
「キ…キーふぇンブレムなんて
ひゃくに立たないもの……
あげるわふぇ ないじゃないですかッ!!」
「ダストンさまっ!
この方 一人前の証を
持っていらっしゃいますよ!!」
一人前の証を持つ冒険者は名をあげるために各地でキーエンブレムを求めている。ポツコンはそのことをフォローしてくれるのだろう。
「きっと ダストンさまのように
ガラクタ集めが 大好きな……
同志の方では ないでしょうかっ!?」

違った。もうダメかもしれないとヒューザとフウラの方を見ると、ふたりとも目を逸らしてこちらを見ようともしない。
あれよあれよと、ボンヤリしているだの三級品だのと友達認定され、挙句に助手2号と任命され、ポイックリンから石板を奪い返して来いと命令されていた。
勢い良く飛び出して行くダストンに、「これからはお互いがんばりましょう」とエールを送るポツコン…そこに飛び出したダストンが戻ってきた。

「何してんです! ポツコン2号!
まだ こんな所にいたんですかッ!?
なかなか いい役立たずっぷりですね!」

ボクらは渋々ダストンに誘われ、ポイックリンを追うのだった。


「はぁ……なんだか
わけわかんねー事に なっちまったな……」
「すごい剣幕で 押し切られちゃったね」
「ふたりとも他人の振りしてた癖に」
ひとりだけポツコンと名付けられてしまったボクはふたりを睨む。
「でも、一人前の証を持ってるのってお前だけだしな」
「私、はじめて若葉の試みに落ちて良かったって思っちゃった」
やる気が起きず、だらだらと歩くボクらにダストンが声をかける。
「何してるんですッ!!
早く 追いかけるんですよッ!!」
ドワーフは動作の大きさの割に歩みが遅い。ドタドタとその場で足踏みをしているようにも見えるほどだ。リーチの長いウェディのヒューザや、短いけれどすばしっこいプクリポのボクなんかが走るとすぐに追い越してしまう。

ゴツゴツとした岩肌が目立つ山岳地帯に入ると、大きな岩の頂上に立つポイックリンを発見した。彼女はこちらに気付かない様子で、何処かへ駆け出した。
「くくく…… とうとう見つけたですよ!
怪盗ポイックリンめ!!
カルデア洞穴なら わしのゴミ箱のようなもの!
何が どこに どうなっているか
わしには ぜーんぶ わかっていますよ。
先回りして ギャフンと言わせてやるです!」
ダストンはそう言うと、「もきゃきゃ」と叫びながらこれまでとは段違いの速さで走り去ってしまった。
「まるでゴキブ…」
ヒューザのゲンコツを受け、ボクは意識を失った。


カルデア洞穴の最奥。そこには朽ちた古代遺跡があった。
遺跡は溶岩で分たれており、以前は橋で繋がっていたのだろう。
その橋の先端にポイックリンは佇んでいた。

「まさか これを見つけてしまうなんて……。
あの人には悪いけど こうするしかないわ。」
呟くと、彼女はその手に抱えた石板を溶岩へ向けて放り投げた。

「私を追いだした人だけど……
大切な人だから」
カタリと音を立ててしまい、ポイックリンはこちらに気付く。

「そっか……。
あの人に頼まれて 私のことを追ってきたのね?
残念だけど 緑の石板は
マグマの中に捨てちゃったわ。」
「単なるガレキの欠片じゃないのかよ」
「あの石板はね……
ウルベア地下遺跡の奥にある
扉を開けるための カギだったの。
そんな石板が 手元にあれば
いつか あの人は扉を開けてしまう。
それだけは させるわけにはいかないから!」
ポイックリンはそれだけ言うと「じゃあね」と風と共に去って行く。
「ねぇねぇ、ぱんイチさま。ダストンさんが追いだしたっていうことは…」
確信に触れようとするフウラにポツコンが続ける。
「ボクの前に助手がいたんですね!」
ガラクタ城での話では追いだした娘がいると言っていた。その娘、チリに好意を抱くはずのポツコンの鈍さにフウラは呆れた顔をする。

その時、溶岩流れる遺跡の下からダストンが網を携えて這い上がってきた。
「してやったりですよッ!」
網の中には、先ほどポイックリンが捨てた緑の石板が収まっている。
「ポイックリンのヤツも
まさか わしが カベに張りついているとは
思わなかったようですねぇッ!」
ボクらの白い視線にダストンは続ける。
「なんですか ポツコン2号ッ?
その しらーっとした目は!!
ははあ…… なるほど。
さっきの ポイックリンの話を
気にしているんですねッ?
この石板は 残念ながら
使えるものでしたが……
これを使って 開けられる
ウルベア地下遺跡の扉の先には きっと
さらなるガラクタが 眠っているんですよ!」
こちらの話も聞かず、ダストンは急いで準備をと、ポツコン1号を携えてガタラへ帰っていった。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
3人で無理やり乗っている
オンラインでフレンドとパーティを組む時は勿論、サポート仲間を借りている時も「周りもドルボードを持っている」という前提。
オフラインの旅は、ヒューザは「興味ねえ」って言いそうだし、フウラは教育上ドルボに乗るならカムシカに乗れだったはず。きっとフォーメーションはこう…ということをつい先日上司に説明した。

その時にタブレットで描いた落書き

美人さん
ポケモンSVの四天王の露払い、チリちゃん。
「まいど!チリちゃんやで。美人さんやけど怖がらんといてな」という衝撃の出会いで、世の中を虜にした罪な人である。

ご多分に漏れずSS撮ってあったんやで!

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