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そうだ!風乗りになろう

前のおはなし

「フウラおじょうさんなら墓参りに出かけたよ」
フウラの部屋にノックをすると、ソンネというエルフの女性が声をかけてきた。
彼女は領主の家で炊事を任されているらしい。フウラのことも、先代の風乗りである彼女の母親のことも知っているようだ。風乗りとしてカムシカに愛されていた母親を、幼かったフウラは「カムシカに取られた」と感じていたのではないかと推察する。
ソンネに教えてもらった母親の墓の場所、風泣きの岬へボクらは向かった。

「きゃーっ!!」
風泣きの岬へ着くや、悲鳴が聞こえた。
声の方を見ると、フウラが岬の先に追い詰められている。

「危ない!」
こちらが駆け出すより早く、カムシカたちが走り寄り、フウラを取り囲むナスビナーラを蹴散らしていく。

「な…… なんなの……?
あんたたちになんか 助けてほしくない!」
強がるフウラの背後に、逃れていたナスビが現れる。
ニョロニョロと蠢くナスビの手が迫るとフウラはきゃっと小さな悲鳴をあげ、抱き抱えた人形を崖から落としてしまった。
「ケキちゃん…」とフウラが崖に向かい涙を浮かべていると、ナスビを突き落としたカムシカが崖下から人形を咥えてきたのだ。

「……あ…ありがと……」
フウラは小さくお礼を言うと、我に返ったかのように態度を変える。
「……よ よけいなこと しないでよねっ!」

なるほど、ツンデレか

カムシカを追い払い、フウラはこちらに気付いた。
「その…… 今の……。
私を 助けてくれたカムシカに
あんな態度を取るなんて……
私のこと ひどいヤツだって思ったでしょ?」
彼女はボクらに名乗ると、そう言って顔を伏せる。
「ツンデレだと思」
「お前にも何か事情があるんだろ?」
ボクの口を鼻ごと押さえヒューザが言う。待って、息、できない…

「……お母さまは アズランの歴史の中でも
特に すごい風乗りだったの。
だから 町の誰もが お母さまを慕ってた。
カムシカに乗った お母さまが
舞うように駆ける姿は 今でも 目に浮かぶの。
ずっと その背中を見てた……。
私だって ほんとは お父さまの言う通り
お母さまの後を継いで 風乗りになれたら
どんなにいいかって思う……。でもね………
お母さま……
ここから落ちて 死んじゃったんだ」
ヒューザはボクを離し、「またそういう話かよ」と呟く。
彼も天涯孤独の身だと言うが、彼より(物理的に)小さい生き物の「そういう」話には辛いものを感じるのだろう。息ができなかったボクにはそれどころではなかったが。
「崖から落ちて あそこに引っかかってた
カムシカの子を 助けようとして……。
カムシカなんて いなければ
私 今も お母さまと いられたのにな……」
ボクらは彼女にかける声を失っている。
彼女は、母親の墓の前へしゃがみ、手を合わせる。
「これ…… お母さまが 好きだった花?」

「そっか…… カムシカが 供えてるんだ。
お母さまのために 6年経った 今も……。
私…… お母さまが
この花を好きだったことも 忘れてた……」
フウラはぐっとチカラを込め「決めた」と前を向く。

「カムシカのこと 好きには なれないけど……
風乗りは やっても いいかなあ。
アズランの…… みんなのためだもんね!
ぱんイチさまに
話を聞いてもらえて よかった!
なんだか スッキリしたよ」
そう言ってボクの手を握る。風乗りになることを父親に告げると、サッパリした顔で笑う彼女をボクとヒューザは見送った。
「おい、ぱんイチ。オレたち何か役に立ったのか?」
「探偵っていうのはな…自分が前に出るんやなくて、依頼者の話を聞いてあげるのが大切なんやで、ヒューザくん」
ボクはチームアジトである探偵社を思い浮かべる…

チームアジト(秘書付き)

町の青年マエタケの恋が喰われるのを黙って見守りながら、ボクとヒューザは領主の館へ戻る。
「なるほどな…風音のユリってのがそういう効果があるなんてな」
「フシコさんの好きなカムシカの好きな花だったとか、ほら一般の人の勘違いは思わぬ笑いを生むってわかってくれた?」
ボクらの会話がイマイチ噛み合っていないような気もしなくもない。
先ほど、ボクらを通してくれた護衛のベニシロに呼び止められ、領主タケトラの前へ通される。

「わしは もう 風乗りに ならなくてよいと……
そう言うつもりで あの子の帰りを待っていた。
だが 先ほど フウラが帰ってきて
風乗りになりたいと 言ってくれたのだ!」
領主はボクらに代わる代わる握手を求め、感謝を述べる。
「カムシカのおかげの気がする」「ぱんイチは風音のユリ探してただけだからな」と、何もしてないボクらは曖昧に笑い握手を受け入れる。

「ときに そなた。一人前の証を持っておるな。
もしや キーエンブレムを集めるために
旅しているのではないか?」
「そうですね」
「ならば そなたを見込んで
わしから 頼みたいことがある!」
タケトラはフウラが風乗りになるための準備を無事に終えられるよう、手助けをしてほしいという。風のたづな、風のころもの二つの神具を取りに行き風乗りの儀を無事に終えればキーエンブレムを渡してくれるというのだ。
ボクらはそれを承諾し、フウラと合流すべく山間の関所へ急いだ。


「風の町ーのカムーシカぁー」
「おい、ぱんイチ。さっきから歌ってるその歌は…他の部分、ないのか?」
「知らん!」
山間の関所は谷になっており、風のたづなの職人エヌカラはここに吹く風が好きだと関所を仕事場としているらしい。どこで追い抜かしてしまったのか、エヌカラに聞けばまだフウラは訪れていないらしい。
魔物避けにと歌いながらフウラを迎えに来た道を戻ろうと関所を出ると、蹄の音が聞こえてきた。
「ぱんイチさまっ!
どうして ここに……?」
「お父さんからボディガードにって頼まれたんよ」
駆け寄るフウラにボクは答える。
「ねえ 聞いて ぱんイチさま!
私 魔物 やっつけたんだよ!」
「えー。すごいじゃーん」
「ぱんイチなんて、さっきピンクモーモンから逃げてたのにな」
ボクらの言葉に、フウラは
「まあ 頼みもしないのに カムシカが 手伝ってくれたってのもあるけど……」
と少しきまりが悪そうにするが「でも やってみれば できることってあるんだね!」と自信に満ちた表情を浮かべる。

風のたづなを受け取ると、エヌカラは次に目指す「風のころも」の在処を教えてくれた。
風のころもはスイの塔と呼ばれる七重の塔の最上階、天ツ風の間に納められ次の風乗りを待っているらしい。この扉を開くことができるのは風乗りとして塔に認められた者だけと、エヌカラは言う。

なんでスイの塔こんな画素粗いん…

「カムシカたちは 塔には入れない。
塔の中では カムシカたちのチカラは
借りられないが 大丈夫かい?」
心配するエヌカラにフウラは「はいっ!」とチカラ強く答える。
「ボクらもいるしね」「なんとかなるだろ」とフウラの肩を叩く。

「じゃあ、先に行ってるね!」
フウラはボクたちに手を振り、カムシカを引き連れて関所を立つ。
あくまでも、風のたづなと風のころもは風乗りがひとりで準備しなければならないものだ。
領主タケトラは過保護にも、ボクらを合流させようとしたがフウラはそのしきたり通りにできる限り自分のチカラでやり遂げたいという。ボクらはその思いを尊重し、彼女とカムシカたちの後をゆっくりと着いていくことにした。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
依頼者の話を聞く探偵
探偵ナイトスクープの探偵は我を出すのではなく、依頼者の話をとことん聞くことを良しとしているらしい。探偵である芸人の面白さではなく、イチ視聴者、一般人の面白さを引き出す番組だそうだ。
ちなみにそんな探偵社のセットを割と忠実に再現しているチームアジトに足りないものは前輪のでかい自転車だそうだが、プクリポとしては、探偵席に座ると正面から見えなくなるのでもう少し座面の低い机を用意してほしいと切に願っている。

見えない…

風の谷のナウシカ(曲)
幻のイメージソング。マジでここしか知らない。

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