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そうだ!次の町へ行こう

前のおはなし

町長のロリコン疑惑はあれど、奥さんのマーゼットさんもソーミャを人並みに心配しているらしい。人並みに…というか、大人としてそれは当然のことだろう。
しかし、この町の大人たちはネコの脅威に晒されていたとはいえ、ソーミャを心配するどころか責め立てるような者が多かった。そんな中で、やっと心を開ける人たちが現れたのは、町長夫妻も喜ばしいことだったのだろう。
子ネコも手放し、ボクらも町を出ることになったソーミャがこれまでのように心を閉ざしてしまうのではないかと不安を感じたそうだ。
「もし よろしければ
ソーミャちゃんの様子を 見てきては
いただけませんか?」
彼女はボクらにそう告げると、「アナタはこちらへ」と町長を部屋の奥へ連れ出した。
単にロリコンにお灸を据えるためにボクらが邪魔だっただけかもしれない。

ソーミャの家へ向かうと、奥さんの心配どおりソーミャは少し俯いていた。
「頼れる相手がいるヤツは そいつに頼ればいい。
だが いないヤツは……
自分が 強くなるしかねえんだ。
誰にも頼らずに 生きていけるようにな。
オレは 今まで そうしてきた。
これからも そうやって生きていくつもりだ」
ヒューザの言葉を聞いてソーミャは更に俯いた。
「別に お前に そうしろって
言ってるわけじゃねえよ。カンちがいすんな」
ソーミャは顔をあげてこちらを見る。
「ピンチの時は、ヒューザが駆けつけるから教えろってさ」
「お前も来るんだよ!」
ヒューザはボクを睨みつけた。

「……ところで ぱんイチ。
あの女王ネコが 言ってた
悪き意志……ってのに
本当に 心あたりあるのか?」
ヒューザはボクに問う。
「冥王ネルゲルっていうのがレンダーシアを封印したんだ。
勇者は覚醒したみたいだけど…ボクはそれを助けにレンダーシアに渡らないといけない…」
エテーネの村や生き返りの話は省き、ボクはそう答える。
「あの声は それに関係あるのか?」
「あの声?」
「……あ いや 女王ネコのところでよ
お前について行けって 妙な声がな」
「それはネルゲルの声だよ」
「はぁ!?」
おっと口が滑ったとモゴモゴすると、ヒューザが詰め寄り「どういうことだ」とボクを揺さぶる。
「ヒューザ兄ちゃん!
それってジュレットの町も
じきに 危ないってことだよね!
や……やっぱり私も
ヒューザ兄ちゃんや ぱんイチさんに
ついて行く! 町を守らなきゃ!」
ソーミャも慌てて、お手伝いするんだと意気込む。だが、ヒューザは「お前は残って 町を守れ」とソーミャを制した。ボクはヒューザの気がそれたことに安堵し揺さぶられて乱れた装備を正す。
町のみんなと仲良くなって協力して町を守れとヒューザは言う。
この町に必要なのは、住人の団結なのだ…
うんうんと頷くと、ヒューザは「お前には後で詳しく教えてもらうからな」とボクを睨む。
「う うん……
わかった! 私 町を守る!!」
ヒューザはボクを逃げないようにと抱え、あばよとソーミャに背を向ける。
「元気でね ヒューザ兄ちゃん!!」

「ソーミャ…ボクは…」
「ぱんイチさんも いろいろ ありがとう」

ソーミャは笑顔でボクの情けない格好に手を振る。
ボクらは次の目的地、アズランの町へ向かうため大地の箱舟に乗り込んだ。


「で、どういうことだよ?」
問い詰めるヒューザに、ボクは顎の下で手を組み深刻そうに語る。
「そんなことより、ヒューザ君…
ボクはウェナ諸島の地底湖の洞くつに用があったんだよ…」
本来の用事をすっかり忘れて列車に乗っていることに目が泳ぐ。
「キュララナにも行ってないし、リザードマンも倒すの忘れたんだ…」
「そんなことで、オレは誤魔化せないからな?」
チッと舌打ちする。
「ボクにも前にその声が聞こえたけれど…単にそれが故郷を襲ったネルゲルと同じ声だったってだけだよ」
「お前、故郷をネルゲルに襲われたのか!?」
ヒューザはバツが悪そうに顔を背ける。
「そう。とはいえ、声が同じだからってネルゲルとその声の主が同一人物ってワケじゃないだろうしさ」
ヒューザだって、謎丸と中身まで一緒なら最初のソーミャの言葉ですっかり忘れてたはずなのだ。本当にどうしてこうなった…。
少し気まずそうに外を眺めるヒューザに、ボクは「イヤだって言っても手伝ってもらうからね」と言うと彼はおうと一言答えた。


次の町、アズランは強い風が吹いていた。
町の住人たちは「風が澱んでいる」と嘆いていた。長く病んでいる人もいるそうだ。新しい風乗りさえ決まれば、町の空気を入れ換えられる…と言う。
町の人が言うには、風乗りになるはずの娘は、6年前に風の化身カムシカを憎んで町を出て行ってしまったそうだ。
エルフではないからか、ボクにもヒューザにも風の違いはわからない。ボクらは顔を見合わせるしかなかった。

キーエンブレムの情報をと、ボクらは町の領主の家へ向かう。
「手短に」と護衛に部屋へ通されたが、タケトラはそれどころではないようだ。
そこへ扉が開き、ソーミャと同じぐらいだろうか、小さな少女が部屋へ入ってきた。
「おお フウラ!
よくぞ 帰ってきてくれた!」
彼女が「次の風乗りになるはずの娘」なのだろう。
黙りこくる彼女にタケトラは言う。
「初志を貫きたかった お前の気持ちはわかる。
だが フウラよ。もっと柔軟に考えてはどうだ。
やはり お前は カザユラの後を継ぎ
風乗りになるべきなのだ」
「イヤだよ 風乗りなんて……。
カムシカに乗るなんて 絶対にイヤ!」
フウラと呼ばれた少女の強い拒絶に、タケトラは顔を曇らせて被りを振る。
「ヨキじいの具合が 相当 悪いらしい……」
「じいやが!?」
「フウラ。この町は もう6年も 風送りの儀を
おこなっておらん。町の風は よどみ
身体の不調を うったえる者も 増えている。
わしは領主として 新たな風乗りを決め
風送りの儀を とりおこなわねばならん」
でも…と言い淀むフウラを心配してか、カムシカらが窓からこちらをのぞいている。

「知らない……。カムシカなんてキライ」
それに私はすごくないと、俯く。
「なんでコイツはそんなに自分を卑下してるんだ?」
ヒューザがこっそりとボクに聞く。
「おそらく、でしかないけど…この子が行ってた『学びの庭』ってところの卒業試験に落ちたんじゃないかな」
しかし卒業試験…と言っても「若葉の試み」は受かる人間の方が少ない難関だと聞く。それだけではないのだろう。
頭を冷やせと父親に嗜められ、フウラはしょげながら部屋を出て行った。

領主タケトラはやれやれと息を吐き、ボクへ向きなおる。
「今 そなたが見たとおり
このアズランは 面倒な問題を抱えている。
フウラが 風乗りになると決心しないことには
風送りの儀は できぬ。
だが わしも鬼ではない……。
ああは言ったが 娘が
かたくなに 風乗りの継承を拒むなら
他の方法を探すつもりだ」
「もうだいぶ拒んでるよね?」
「風乗りになるべきだ、と決めつけてたな」
ボクらの言葉にうぬぬ…と唸り、領主は娘との距離を測りかねている心情を吐露する。
「家庭内不和か…」
「親のいねぇオレにはわかんねーな。お前は?」
「不和しかないから逆に日常」
ヒューザはボクに憐れみの目を向けた。

フウラの胸の内を聞いてほしい。
そういう領主の願いを聞くため、ボクらは彼女の後を追うことにした。

次のおはなし


【おはなしの補足(蛇足)】
謎丸
「藤丸立香はわからない」の主人公、わからない藤丸。声の主はヒューザと同じ島崎信長。Fate/Grand Orderの主人公として人理を修復しているとは思えない、学習しなさで周りの常識人(というかゴッフ新所長)を困惑させる。

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